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アリアとタマのケンカから数日が過ぎた。おれ達はその間もストリートやライブ配信で少しずつお金を稼ぎ、所持金は2,500カーズををとうとう越えた。あと500カーズでメンテナンス代が全て稼ぎ終えることができる。
ライブ配信の成果もあってかフォロワーは120万人を越えていて、おれ達の活動はかなり順調だった。
その日もストリートライブを終えてみんなで焼き鳥屋で打ち上げをしていた。
「よしよし♪ヒビキ!もうすぐ3,000カーズね!君にしてはこの短期間でよく頑張ったじゃない!」
「そ、そうですね。ヒビキ君はまだこちらへ来て半年も経っていないのに、、こんなことって本当にあるんですね。あ、アメリカンドリームならぬコープランディアンドリームですね!」
「な、なんか言いにくい造語だな…はは…。でも、おれだけじゃなくてみんなのおかげだよ。本当にありがとう。」
「おいおい、まだ3,000カーズ溜まったわけでもねぇのに何言ってやがる!感謝の言葉は後に取っときな!まぁ、アタシの才能があれば500カーズなんてすぐだけどよー!なはは♪」
「タマ。……そうだな。まずは目の前の目標をクリアしてからだな!」
「そ、それにしてもヒビキ君。この期間だけで20曲以上も曲を作っていますが、現世にいた頃からそんなペースで曲を作っていたんですか?」
「ん?いや、現世にいた頃は月に一曲程度だったかな。ペースとしては。」
「そ、それって大丈夫なんですか?無理とか、してませんか?」
「いやいや、おれもよくわかんないんだけどさ、こっちに来てからなんていうか、心が枯渇しない感じがあるんだよ。」
「こ、枯渇ですか?」
「うん。現世にいた頃は自分のペース以上に曲を作っていたら、段々と心がすり減っていく感覚があったんだけど、こっちに来てからは自然と曲ができるっていうのかな。なんか、上手く言えないんだけど、勝手に曲を作りたくなるんだ。」
「そ、それなら良かったですね!…きっと心が満たされてるんですね。」
「満たされてる、か…。確かにそうなのかもな。アリアやタマ、それにミミのおかげでおれは満たされてるのかもな。」
「え、えへへ…。」
「ほぉん?言うじゃねぇか。」
「……良かったね、ヒビキ。」
三人はそれぞれに返事をしてくれた。ミミの言葉だけ、すごく重みを感じたのはおれの気のせいなのかも知れない。
「まぁ、ヒビキの性欲もアタシが満たしてあげてやってもいいんだぜ?!」
「い、嫌だよ!」
「ほれほれ?遠慮すんなって!お前こっち来てからそういうことしてねぇんだろ〜?」
「こら!タマ!!」
アリアがタマを軽く怒鳴った。
「じょ、冗談じゃねぇかアリアー。そんな目で見るなよー。」
「ふん!もう知りません!」
この二人のやり取りを見て、なんとなくケンカした後の仲直りで何かがあったような気がしたけど、野暮だと思って聞くのはやめた。
「あ!そうそう!ヒビキに言うの忘れてた!この後、草原に行かない?できればふたりで。」
ミミが突然おれの方を見て言った。
「ん?なんで?」
「な、なんでもいいでしょ!ちょっと話があるのよ!」
「んー?」
タマとアリアがニヤニヤしながらこちらを見つめていた。
「おいおい!そういう趣味は神としてどうかと思うぜ?ミミー♪」
「そ、そうですね…。いくらなんでも外は……。」
「か、勘違いしないでよ、ふたりとも!バカじゃないの!??もう!明日もストリートするんだから、今日はこのくらいにするわよ!!!」
「そうだよなー♪知ってたか、アリア?お酒は呑みすぎると性欲が減るんだってよー?」
「そ、そうなんですか!?だからこんなに早く切り上げるんですね…いつもならもっと深くまで呑むのに…。」
「あ、ん、た、ら、ねぇ?ふざけないで!!!」
ミミが怒りをぶちまけて二人を家に帰した。おれ達は会計を済ませて草原に向かった。
夏が終わりを迎えていたのか外は気持ちのいい風が吹いていた。その風に背中を押されるみたいに、気づけば草原についていた。
「虫の音がいいなー。気持ちいい風。」
「…そうね。もう秋ね。日本と違って秋は長いから、しばらくの間この気持ちよさを感じてられるわよ。」
「へぇー。それは嬉しいな。」
「……。」
「…どうしたんだ?ミミ、さっきから様子が変だぞ?」
「……知ってる?魂にも生まれた日があるの。誕生日みたいな。」
「へー。お?もしかして今日がおれの誕生日なのか?」
「…違うわ。もう少し先。」
「んー?じゃぁなんでそんな話するんだよ?」
「…君の誕生日までに書き上げたかったの。……歌詞、できたわ。」
「え?歌詞って…あの曲の?!!おおー!!!すごいじゃん!!もっと早く教えてくれよ!!なんでわざわざふたりになる必要があったんだよ!!」
「………いちいちうるさいわねー!こっちだって初めてのことだし、上手く書けてるかわかんないし…は、恥ずかしいのよ!!少しくらい察しなさいよ!!」
「あ、あーそりゃそうだよな、、。悪い悪い…。」
「……あと、初めて歌うのはここでふたりが良かったの。」
「……そっか。そういうことか。初めておれがミミに会った場所だもんな。」
「……うん。歌詞見てから歌う?それとも、先に聴く?」
ミミはかなり顔を赤くしていた。
「……じゃぁ、先に歌ってくれるか?」
「……わ、わかった!!やってみるわ!」
おれはギターを手に取ってアルペジオでイントロを弾いた。
(〜〜〜♪)
「ふぅ…ど、どうかな?こんな感じなんだけど…あれ?ヒビキ……?」
「え…?あれ?なんで?涙が出てる……。」
「………伝わったのかな?」
「な、涙が止まんない!なんだこれ!?」
おれの意思に反してなのか、準じてなのか、涙が溢れて止まらなかった。
おれは何度も涙を拭き取りミミの方を向いた。
「ミミ!すごくいい歌詞だった!!やっぱり本人が書いた歌詞の威力はやばいな。自分のこと歌われてるみたいな気分になったよ!」
「……そう。良かったわ。」
ミミはホッとしたのか少しだけ俯いて笑っていた。
「…歌詞書くの、大変だったか?」
「…そうね。もうしばらくは書きたくないかも。というか、書ける気がしないわ。」
「そうか…。でもひとまずお疲れ様!おれからは何も文句ないよ!」
「…そう。」
「この曲さ、明日ストリート終わった後、ライブ配信でやらないか?」
「…え?そんなの、だってアリアとタマのフレーズは……」
「まだできてない。だからふたりでしたいんだ。この曲を早くいろんな人に聴いてほしい。一曲だけの配信でいいと思ってる。もちろんアリアとタマが許してくれたらだけど……ミミは嫌かな?」
「……き、君がそこまで言うなら仕方ないわね。やってあげなくもないわ!」
「ははっ!下手したら明日のストリートと配信で3,000カーズ到達したりしてな!」
「そんなの!あたしの歌声にかかれば余裕よ!ふふっ♪」
ようやくいつものミミらしくなった。
「あははっ!…あ、そういえばこの曲って、タイトルは何なんだ?」
おれがそう質問すると、彼女はゆっくりと座っているおれの方に近づいてきた。そのままおれの耳の横に口を持ってきた。
「…『to you』…。」
「……え……?」
彼女は耳元でそう囁いた後、おれの頬に軽く口づけをした。
「さぁて!帰るわよー!」
「あ、ああ……。」
子どもという年齢は遥かに越えていたのに、おれはただの挨拶のキスだけで顔を赤くしてしまった。それを見られないようにミミの少し後ろを歩いた。
彼女もまた、家に着くまでおれの方を振り返ることはなかった。
お読みいただきありがとうございます。
今タイトルは、Bank BandさんにSalyuさんがボーカルとして参加した楽曲名を拝借致しました。私にとって大切な一曲です。そちらも是非お聴きください。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




