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それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
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グッドバイ



女神はその後も淡々とコープランドや、それ以外の世界に共通していることをおれに説き明かした。一時間を軽く超える時間は経っていただろう。


詰まるところ、この世界はほとんど地球とそっくりだった。

時間の感覚は全く同じ。ただし、この世界にとっての時間は“測る為のもの”であって、“進める為のもの”ではない。要するに老いることはないのだ。

一年は12ヶ月で、一日は24時間。四季もある。ひとつだけ違う点と言えば、一ヶ月は全てが28日ということだった。ゆえに一年は336日になる。“神が地球を作ったんだから、概要が天界に似ていて当たり前”と女神は言っていた。

ただ、月の公転速度に違いがあって一ヶ月の日数だけ違う。神々はこぞって“4の倍数”が好きらしく、彼女もまたそれを好んでいた。完全数がどうとか、そんな理由を話していたが数学の苦手なおれにはあまり理解できなかった。


通貨の話もあったが、あまり説明はされなかった。理由としては、コープランドに来たからと言っておれはまだ現世に生きていることになっているから、通常ここにいる魂たちが支給される二日に一度の支給金も0らしい。そして、もうひとつの理由は…


「どーせ君にお金なんて与えてもすぐにある分全部使うんだから、お金のことなんて教えたくない。」


と、かなり高圧的にこの話を中断された。母親みたいだった。“1ロゼス”が日本での10円くらいの価値、ということだけ教わった。



時間と通貨に関しては、コープランドとシャーロットは共通認識で、ホピボラも恐らくそうだろうとのことだった。残り二つの下層世界に関しては、時間や通貨の概念はそもそも無い。厳密に言えばスリップノートには通貨の概念が存在はしているものの、誰もお金を手にすることがない為、そこの住民達には必要のない知識のようだ。


そんな講義がようやく終わりの兆しを見せた。




「…〜って感じです。あー疲れた!久々にこんな説明したよ。」


「…なんとなく、この世界に関してはようやく見えてきました。確かに、このコープランドは空気も綺麗で、自然も豊かだし、平和なんでしょうね。」


おれは周囲を見渡して、改めてこの天国の素晴らしさを認識していた。


「で、ここからが本題なんだけど、」


「え?!まだあるんすか?!」


「何よ。君は聞いてるだけだから楽でいいでしょ。」


「いやいや、結構頭の中もうパンパンなんですけどー、、」


「何言ってんのよ。今までの話なんてここで生活してりゃ勝手に覚えていくわよ。大事なのはこれから。ね?」


「うー、はい…。」


訓練されている犬になったような気分だ。


「君が感じた通り、コープランドは平和だよ。それは間違いない。争いごともたまには起きるけど、みんななんというか、大人だからね。すぐに解決するし仲直りもできる。そもそも争う理由もあんまりないしね。」


「本当にユートピアって感じですね。」


「そう。………でもね、ひとつだけここにいる身として物足りないものがあるの…。」


「…?はぁ。」


「…ロックよ。」


「へ?」


「ロックが足りないの!!!」


女神はさっきまでの講師の顔から一変して涙を浮かべ、駄々をこねる子どもの様になった。


「はい?」


「ロックというか、正確に言うとバンドサウンドって言うの?!もうね、本当に少ないの!」


「えっと、、女神さん?ロックって意味わかりますか?」


苦笑いで優しく問いかけた。


「わかってるわよ!馬鹿にしないで!そう、バンドやロックをしてる人はね、特に危険な言葉を使う人なんかは、それを世に拡めようとしただけでシャーロット以下確定なの。」


「それだけで?!まじかよ!やば!」


「でも、君のバンドはそんな危険な言葉も使わなかったでしょ?神への冒涜も見られなかったわ。」


「まーそうかな、、なら、コープランドにいく可能性もあ」…」


「もちろん!と言いたいところだけど!危険な言葉使わなくてもバンド活動やロックしてる奴らなんて、楽してお金稼ぎしたいカスばっかりでしょ?」


「そ、それは偏見が過ぎるかと…はは。」


「ついでに言うと!君みたいな酒カスや、女を何人も取っ替え引っ替えして幾人も泣かせたり、この天界でも禁じられているマヤクに手を出すような終わってる人間ばかりじゃない!それに、自殺する奴も多いわよねー?」


「はは…いやー耳が痛い…。」


「…女性関係の方に関してもある程度は拝見させてもらいましたよ…?ふふ♪」


彼女は腕を組みながらニヤリとおれを見下げた。


「あ、いやー、まぁ、若気の至りというか…」


「そんな奴らがね?コープランドに来る資格あると思う?」


「あー、…ないっすね。」


「でしょ?そういうこと。ここにはバンド経験者が極端に少ないんだよ。たまーに来ても、真面目でつまらなかったり、大物ミュージシャンが来た時は私はテンション爆上げで期待してたら、二日何もせずに寝た後来世に向かっていったわ…。」


「爆上げって…はは。そりゃーそうですね。大物の人達って、大変人か大真面目の人が多いですから。」


「でね?そうなるとここに来るミュージシャンは、オーケストラや演歌とか、そんなのばっかりなのよ!」


「い、良いじゃないですか!クラシックとか!演歌も!」


「……君、それ本気で言える?」


「……すいません。」


「…ふふ♪それで!君を呼び出したの!」


「なんでおれなんすか?」


「…うーん、1番やることなさそうだったから?」


「…否定はしないけど。」


「これから君はこの世界でロックをするの!メンバーも募っても良いわ!私も手伝うから!ここってほんと平和だから暇なんだよねー毎日。」


「…さっき、“私も暇じゃない”みたいなこと言ってませんでした?」


「っ!!??……わ、私にできることならなんでもするわ!」


神が露骨に話を逸らした。


「……でも、おれなんかじゃ、、ノゾムの方がいいんじゃないですか?あいつなら歌も歌えるし、ギターも、、」


「あー、君のバンドのボーカルね?私だってそりゃぁ彼の方が良いわよー。顔もイケメンだし?それに君と違って真面目だし?彼ならコープランドも有り得るなー。」


たぶん、この女神とは性格が合わないだろうとそろそろ思い始めていた。彼女は話を続けた。


「でもねー、残念ながら私の担当じゃないのよ、彼。さすがに担当でもない魂を勝手に呼び出したりなんかしたら、本担当の神と軋轢を生んでしまうからね。…それに、君だって歌ったりしてるじゃない?」


「それはしてますけど、あんなのはただの趣味の範囲というか、暇つぶしみたいな感じでたまーに弾き語りしてただけで…ってか女神様めっちゃ知ってません?おれのこと。」


「は、はぁ?担当なんだから当たり前でしょ!?他の魂もちゃんと見とるわい!自惚れないで!」


「別に自惚れてはないっすけど…。」


元の世界で感情表現が段々と下手になっていた自分と比べて、感情の起伏が激しい女神と話すことは、性格の不一致を差し引いたとしても嫌悪するほどでもなく、少しだけ心地よさを感じていた。


「それで、やるの?やらないの?」


「…おれ、自分の声全然すk…」


「それは知ってる。私は……別に君が歌わなくても良いと思ってる。なんならボーカルなしのインストでも良いわ!」


「…。」


「どう?やる?やらない?」


「……どうせ、やらないと返してもらえないんでしょ?」


「そうね…。まぁ別に“世界を救って”みたいなそういう大それた話じゃないし、君が本当に嫌なら…」


「やりますよ…。」


「ほんと?!」


おれはここに来て初めて本当の意味で笑った気がする。しっかり女神を見つめた。


「やってみますよ!この世界でもう一回音楽やってみます!」


女神はおれの顔を見て少しだけ泣きそうな顔を見せた後、笑った。


「うん!目指すは800万人ライブ!だ!!!」



「…?は、っぴゃくまん?」


「あ、言い忘れてたけど、地球に比べてここは人口が1,000倍近くあるからね♪」


「せんばい!?ってことは…地球で言うと8,000人…あー、そういう…あそこ目指せってこと?」


「そっ♪イェーイ!」


彼女は満面の笑みでピースした。

8,000人キャパのライブ会場と聞いて、おれがまずそこを思い浮かべることを彼女は知っていたんだろう。

日本でライブ活動するバンドなら、誰もが一度は憧れるあの場所。


「……ふ、ふふ、はははっ!そうっすね!800万の景色なんて、地球じゃ何回転生しても拝めないだろうし、目指すならとことんデカいところがいいっすよね!なら、それが成功した暁には女神様の権限で僕の死後はコープランドかホピボラに…ね?」


「それとこれとは話が別でーす!」


「ならせめて、可愛い彼女とか…あ、奥さんでも…ね?お願いしますよー。」


「キモい!媚びるな!」


(ドカッ!)


女神はおれを蹴り倒した。


おれはそのまま仰向けになった。空が綺麗だった。天界の空が綺麗なわけではないと思う。青空がこんなに綺麗に見えたのはいつぶりだろう。


元々やりたいことなんてなかったけど、やるとしても、もう音楽とは関係のないものを探そうと思っていた。

ただ、心残りがなかったわけじゃない。悔しい気持ちや、僅かだけど野心もまだあった。そのほんの僅かな心残りの屑に彼女は火の粉を差し入れ、息を吹きかけた。今、また自分の中にあった野心の炎が少しずつ燃えようとしていた。


現世には一旦さよならだ。

おれの第二の音楽人生の幕開けを、この綺麗な空を見ながら感じていた。



お読みいただきありがとうございます。

本タイトルは、世界的に有名な日本のバンドであるtoeさんの楽曲から拝借致しました。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからもよろしくお願い致します。

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