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それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
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“あのヒーローと”僕らについて



ボクは男性に生まれたかった。

そうすれば、ボクの趣味のレトロゲームや落語も、共有することのできる友達がいくらかできていた気がする。

でも、神でさえも自分の性別を選ぶことなんてできない。

男性という性別にどれだけ憧れを持っても、ボクの身体は段々と女性らしくなっていった。


神の訓練学校に通い始めた頃、友達のいないボクはバリアを張るようにひとりで机に座っていた。そのバリアを簡単に飛び越えて話しかけてくる変わり者がいた。それがタマだった。初めて交わした会話は今でも覚えている。



「アリア=コリン!いい名前だよな!なんでいっつもひとりで机にいるんだよ?!」


「…っ!?……ぼ、ボクは、ひとりで大丈夫ですので…。」


「“ボク”…?なんだ!アリアは男なのか?」


「…い、一人称だけで性別を決めつけるのは、よ、よくありません…。」


「??…まぁ、男でも女でもどうでもいいんだけどさ!アタシと遊ぼうぜ!?」



この時ボクが心を許したのは、性別を気にしないタマーニア=ビスタという女の子を、かっこよく思ったから。それと彼女が女性でありながら、どんな男性よりも男らしかったから…だと思っている。


タマはボクを無理やりいろんなところへ連れ出した。煩わしくもあったけど、それはボクにとって辛いものではなかった。


知らない間にボク達は成熟していた。タマはボクよりも身長がはるかに高くなっていて、男性よりも女性の神や魂に人気があった。ボクは、なぜか男性の魂に人気があった。なんとなく、理由はわかっていた。その魂達がボクに向ける目線が顔よりも少し下に向かっていたからだ。

なんでボクの意思に反して身体は女性になっていくのか。なんで魂達はボクを変な目で見るのか。そんなことを考えると、人前に出るのが嫌になった。


勉強ができたところでタマに勝てるなんて思ってもなかったけど、ボクができることは必死に勉強することだけだった。


ある日、タマが僕の趣味を聞いてきた。嫌々答えると、その日からタマは落語とゲームに手をつけ始めた。悪い気持ちではなかった。



学校を卒業して、それぞれの世界への配属先が提示された。


ボクは楽器の魂が集まる世界。

さして、タマは植物の魂が集まる世界。

楽器も樹木から作られたものは多い。この二つの世界は階層が違うだけで、割と近くにあった。タマと会うことはなかったけど、彼女の話はよく他の神から聞いていた。タマは元々花が好きだったみたいだ。今担当している世界を気に入っているらしい。とはいえ彼女なら、どこの世界でも楽しめそうだけど。



ボクは楽器の世界で毎日、現世で辛い思いをしてきた楽器を慰めるように演奏して、家に帰ってからは落語をヘッドホンで聴きながらレトロゲームをした。



配属先が変わってコープランドに行くことになった。人間の魂が集まる場所なので、落語家さんの生の落語が聴けると期待していたけど、そんな機会はなかった。

ある朝、初めて立ち寄ったパン屋さんでパンを買った。小麦のいい香りがして、これからも通おうと考えながら歩いていた。


「あー!酒が怖い、酒が怖い!」


朝からなんとも変な言葉が後ろから聞こえた。聞き覚えのある声。振り返ると、そこにタマがいた。


「よぉ、アリア!アタシもコープランドの担当になったんだ!よろしくな!」


「…そ、そうだったんですね、よろしくお願いします………さっき何を言ってたんですか?」


「んー?“酒が怖い”だよ!こうやって言ってりゃ酒奢ってくれるやつが現れるんだろ?」


「……うふふっ♪饅頭(まんじゅう)とお酒は別ですよ!」


「えー?そうか?」



彼女と会う機会が増えた。この世界にはミミも配属されていたみたいで、ボクのお気に入りのパン屋さんで会うこともあった。時々ミミに会った時にタマのことを聞くと、飲み屋を練り歩いているらしい。ボクとはやっぱり棲む世界の違う神だと思った。




ブラウンさんが神殿に隠れて変な動きをしていた。ボクは割と早い段階でそれを知っていたけど、怖くて言えなかった。ボクの後輩にあたる神達も、ブラウンさんに呼び出されて、何か後ろめたいことをさせられていたみたいだ。後輩達は、疲れ切っていていることも知っていたのに、ボクは関わることを恐れて見て見ぬ振りをした。


後輩達がタマに相談したみたいだ。それを聞いた彼女は、いの一番にブラウンさんのところまで駆け寄って怒鳴りつけていた。タマは神殿から来た神達に取り押さえられていたけど、それでも彼女はブラウンさんを睨み、怒鳴り続けていた。ブラウンさんはそれにかなり怯えていた。

結局タマは謹慎処分を受けた。その代わりとは言えないけど、後輩達はブラウンさんの手から解放された。

ボクはその姿を見て、かっこいいを通り越して、自分の臆病さや卑怯さが嫌いになった。




「アリアー!久しぶりじゃねぇかー♪お前はいつも柔らかい身体してるなぁー!」


「や、やめてください!街の中で抱き付かないでください!」


「んー?なら街中じゃなけりゃ抱かせてくれるのかい?!なはは!♪」


謹慎が明けた後も、タマは自分がした功績を何ひとつ自慢することなく、いつも通りにボクに抱きついて身体中を触ってきた。


「…た、タマは、かっこいいですね。」


「あ?そんなの当たり前だろ?!」


「…で、ですよね…。」


「…アタシが強くいねぇと、アリアが強くならなきゃいけねぇじゃねぇか!アタシはアンタの分も強くなるから、アリアはアタシの分まで優しくなりな!」


「…な、なんですか、それ?タマはすごく優しいですよ。ボクは…」


「…逃げるなよ?」


「…え?」


「周りの誰からも逃げて良いんだ。アンタは頭が良いし、相手の気持ちがわかる神だ。でも、自分自身からは絶対に逃げるなよ?」


「…は、はい。」


「…できれば、アタシからも逃げるなよ?なはは♪」


「……逃げてないよ。」


たぶん、この時初めて誰かに心を開いた気がした。ボクが意識して敬語をやめたのは、この時が初めてだった。


「おー???ならもっとベタベタさせろよーーアリアー♪丼一杯愛してるぜー♪」


「な、なんのセリフですか?!もう!くっつかないでください!!」




タマの声には力があった。たぶん、誰に対しても自分の気持ちを真正面からぶつけられる彼女の天性のものなんだろう。

やっぱり、ボクは彼女に憧れを感じていた。




数日分の買い出しのために行ったスーパーで、痴漢に遭ったと勘違いして泣いてしまった。その魂はコープランドの住民とは全く違う気配がして、危険人物と思ってしまったのだ。たまたまその魂の横にミミが現れた。

話を聞くと、その魂はヒビキという日本人で、現世からミミが呼び出した人間だった。先日ミミの家を訪ねた時に、なぜか日本人の朝食に馴染もうとしていたミミを見たけど、なんとなく合点がいった。ただ野暮だと思って言わないことにした。


ボクは彼らのバンドにメンバーとして加入した。始めは人前に出るのが怖くてふたりにいっぱい迷惑をかけたけど、彼らのおかげで少しそれを克服できた。ボクはふたりと音楽を奏でることが楽しかった。


シャーロットで配信ライブをして痛い目を見た。ボクに対して投げられたコメントは、昔ボクが嫌悪した見方のコメントばかりで心が潰れそうになった。ただ、そのコメントの中に“ドラムがいないとつまらない”、“ドラムいないのかよ”といったコメントに関しては、内心同意していた。

ボクは知らない誰かがドラムに来ることがすごく怖かった。だけど、それ以上にこのバンドにはドラムが必要だと思った。その気持ちをヒビキ君に伝えたら、彼も少し悩んでいた。



活動停止が決まった翌日、ミミから沖縄居酒屋への誘いの連絡があった。ベースの練習をしていたら返事がかなり遅れてしまった。“練習していた”なんて言うと、その時のムードを壊すような気がして、ゲームをしていたことにした。

ふたりとお酒を飲むのは楽しい。なぜかいつも途中から記憶はなくなるけど、ボクはふたりと食事するのが好きだった。急いで店へ向かった。

店の中に入ると、タマがいた。

酔っ払った彼女はまたテンションを上げてボクにベタベタ触ってきた。もう季節は夏に入っていたし暑苦しかったけど、少しだけ嬉しい気持ちもあった。

彼女はバンドへのドラム加入を打診していた。ドラムをしたことはないはずなのに、彼女は得意げな顔をしていた。すごく、タマらしいと思った。


彼女のパワフルさと真っ直ぐさ、そして実は真面目なところを信じてみたいと思った。タマとなら、きっといいリズムを作れる気がした。

ボクは彼女のドラム加入を同意した。



タマがドラムを全く知らないことは理解していたから、必死に勉強した。ボクもドラムを叩いたことはないけど、勉強するだけすることならボクにもできる。タマにその知識を与えれば、きっと彼女は上手くなってくれるはず。



タマは少しずつ上達しつつも、何か窮屈そうだった。ヒビキ君が通りがかりでタマのドラムの位置を調整すると、すごく楽に叩くようになった。彼はだった二分ほどでタマの悩みを解決した。

ボクの教え方がいけないのか、そう思った。でも、ボクがタマのドラム加入の背中を押したんだから、責任は持たなくちゃいけない。

ボクはベースの練習の傍らドラムの勉強をして、タマにフレーズを教えていった。

タマは徐々に上手くなっていった。それに合わせて少し細かく、厳しくするようにした。こんなこと今までしたことなかったからすごく不安だったけど、ボクが弱音を吐いていてはいけない。心を鬼にした。

彼女がいつまで経っても同じフレーズを叩けないことに、少しだけ苛立ちがあったのは事実だ。ただ、その苛立ちはタマに向けたものじゃない。上手く教えられない自分自身にだ。ヒビキ君みたいに、簡単にタマの悩みを解消できない、彼女にストレスを与えるばかりなのはわかっていた。


タマがボクに対して初めて怒りを見せた。怖かった。でも、タマが真正面から来る以上、ボクは彼女から逃げないでいようと思った。そしてぶつかった結果、彼女は帰っていった。




貧血で気を失った。

起きてから少ししてゆっくり家に帰った。ヒビキ君はボクを心配して道中を共にしようとしてくれたけど、ひとりになりたい気分なのに気付いてくれて、あっさりと帰ってくれた。始めからミミはボクの気持ちに気付いて家へ送る素振りは見せなかった。ふたりには違う優しさがあって、ボクはどっちも好きだ。

家には楽譜とドラムの教則本が散らばっていた。片付けは苦手じゃなかったのにな。

ボクは一枚一枚ゆっくりと楽譜を拾い始めた。



(ピンポン♪)


インターホンが鳴った。

今日は何の通販も届く予定はない。


チェーンをかけて恐る恐るドアを開けた。




「………よぉ。」


「………タマ。」




数センチ開けたドアの向こうにボクの憧れの女神が立っていた。ボクと目を合わさずに下の方に目をキョロキョロとやる彼女が、いつもより少し小さく見えた。





お読みいただきありがとうございます。

今回のタイトルはメレンゲさんの楽曲より拝借致しました。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。

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