カタオモイ
翌日、ミミと二人で草原へ行ってアリアとタマに謝罪をした。アリアは“良かった”と安堵して、タマは昨日の夜のことを何度も尋問してきた。
タマの質問責めを交わしていると、ミミが“逆に聞くけど、ヒビキに余計なこと言ってないよね?”と質問した。二人は慌てながら首を何度も縦に振り、おれはとぼけた顔で“余計なことってなんだー?”と言って、煙に巻いた。
それから一週間が経った。ストリートや配信ライブを行って、おれ達の稼ぎは2,400カーズまで増えた。3,000カーズまでもう少しだ。
配信ライブでは、フォロワーの数も順調に増えて70万人を超えていた。タマが入ってからのライブは、やはりしっかりとバンドサウンドになったからか、以前に増して評判が良くなった。
その日はいつもの草原へ曲を作りにいった。少し難航していた曲が二曲あって、その内の一曲ができそうな気がしていた。
相変わらずタマはアリアにドラムレッスンを受けていた。だんだん上手くなってきていることを理解してか、アリアの指導は少しずつ厳しくなっていた。
お昼頃に、イブキを頭に乗せたミミがご機嫌にお弁当箱を持って来た。
以前の唐揚げ弁当のリベンジだそうだ。当然中には唐揚げと綺麗なサラダが入っていて、以前とは違うおにぎりがいくつも並んでいた。
「うっま!美味いぞミミ!アタシの好みの味だ!」
「ほ、ほんと!美味しいですよ!すごくジューシーで、前より美味しいかも…。」
「おおー!上手くできたな!ミミ!かなり美味い!」
(キューウン♪キューウン♪)
「ふふふ…♪私だって“下味”と揚げる温度さえ覚えてしまえば、唐揚げなんてチョロいものよ!ハハハハハ!前より美味しいのはきっと揚げたてだからね♪」
「そ、それでもすごいです!こ、このサラダは、やっぱり買ったものですか?」
「ん?それも私が作ったよ?」
「さ、サラダまで!?すごい彩りがあって綺麗です…。」
「サラダなんて切って混ぜるだけよー!あはは!私のオススメはドレッシングじゃ無くてオリーブオイルに岩塩!これが至高よね!健康的だし!フハハハハー!」
「おい!ヒビキ!お前がこれをミミに教えたのかよ?!」
「んー?まぁ、ちょっとだけなー。」
「すげぇじゃねぇか!ミミがこんなに上達するなんてよ!」
「ほ、ほんとです!すごいですヒビキ君!」
「……ちょっとー、作ったのは私だよー……。」
「あはは!ミミの言う通りだよ!おれは教えたけど、まさかひとりでここまで上手にできるなんて思わなかった!それに、おにぎりはおれも教えてない。ミミがすごいんだよ!」
「ひ、ヒビキ…ま、まぁね!君のおかげでもあるわ!い、一応感謝しておくわ!」
「…ほぉーん?妬かせるねぇ?ってことはお前は胃袋もきんたmb…」
「食事中になんてこと言うんですか!タマ!」
「っせぇなぁー、アリア!お前の唐揚げよこせ!」
「あ!返してください!それはボクのです!」
………
……
賑やかな昼食はあっという間に終わった。
タマとアリアはまたドラムセットの方に向かい、おれは帰ろうとするミミを少し止めた。
「何よ、急に止めて。珍しいじゃない?」
「いや、今作ってる曲を一度歌ってみてほしいんだけど……メロディは前に聴かせたやつで、歌詞はこれ…。」
彼女はおれが書いた歌詞を読んでいた。
「〜♪……ん?ヒビキ、これ…」
「ああ。そういうこと…ダメか?」
「だ、ダメよ!なんでこの前のケンカのこと歌詞にしてんのよ!!」
「いやぁ〜、なんか急に思い出してさ。それに聴いてる人にはわからないって♪」
「つ、伝わったらどうするのよ!嫌よ!自分で自分のこと歌うなんて!……ちなみにタイトルは何よ?」
「えっと、『スクランブル』にしようかなって…。」
「……!?なんでわざわざサンドイッチの具材をタイトルにするのよー?!やだ!こんなの歌えない!」
「頼むって!これ以上いい歌詞浮かばないんだよー。」
「……君が私の立場なら、歌う?」
「いや、死んでも歌いたくない。」
「そんなあっさり答えること私にやらせるな!!」
「わ、わかったよ!悪かった!そんなに怒るなって…。一旦お蔵入りだな、これは…。」
「もうー。永遠に蔵に入れておいて!…そういえば、もう一曲の方は?メロディもまだついてなかったでしょ?」
「あー、それな。メロディはちょっと前にできたんだけど、歌詞が全く思い浮かばないんだよ。」
「ふぅん、君にしては珍しいね。メロディ聴かせてよ?」
「ん?ああ、わかった。」
おれはその場でギターを弾きながら、鼻歌でメロディを口ずさんだ。
(〜〜♪)
「……ふう。こんな感じ。」
「………へぇー。」
「あれ?あんまり良くなかったか?」
「え!?ううん!すごいいいメロディだったよ!?ごめん、少し浮かんできて……。」
「え?浮かんだって…歌詞が?」
「あ、…うん、、ど、どうせ私の考えたのなんてわけわからないから気にしないで!あはは!」
「いやいや!ちょっと歌ってみてくれよ!」
「んー…わかった。サビだけだよ?」
「全然それでいいよ!いくぞ?」
---
ねぇ、覚えている?
聞こえている?
届いている?
すべてはいなくても
教えて欲しい
聞かせて欲しい
届けて欲しい
隣で
---
(〜〜〜♪)
「…こんな感じー。何歌ってるか自分でも全然わからないんだけどね。あはは…。」
「………。」
「ヒビキ…?」
「ミミ、この曲の歌詞はミミが書いてくれないか?」
「…は?え!?嘘でしょ!?」
「嘘なんか言わないよ。今の歌詞、曲の雰囲気とメロディにすごくハマってた。きっとミミの中から溢れてきた何かなんだろうな。切なくて、泣きそうになったよ。」
「え?そ、そんなに良かった?……で、でも!私歌詞なんて書いたことないよ!」
「大丈夫だって!これから全部の曲の歌詞を書くわけじゃなくて、この曲だけ!この曲だけ書いてくれよ!頭に浮かんだ言葉をメロディに載せてくれればいいからさ!な?ミミの歌詞、すごかったから、完成したの聴いてみたいんだよ!歌いたくなかったらまたお蔵入りでも構わないから!」
「…まーた媚びてくるー。……ヒビキみたいにすぐ書けないよ?」
「そんなの全然!おれだって現世にいた時は半年に一曲の時もあったから!気にしないでゆっくり!な?」
「……んーーわかったわよ!一回トライだけしてみる。」
「おぉー!ありがとう!」
(ストップ!またリズムがズレました。いつも同じところですよ。やっぱりゆっくりから段々テンポを上げていかないと、あやふやなフレーズになってしまいますよ?)
(わ、わかってるよ!!…んーこうだろ?こうして…)
(いけますか?もう一度いきますよ?)
アリアのドラムレッスンの声が風に乗ってこちらまで聞こえてきた。
「ねぇ、ヒビキ。あのふたりっていつもあんな感じなの?」
「んー、最近は少し厳しくなったかな。たぶんタマが上達してきたから細かいところまで言わなきゃいけないんだろ。」
「へー…。」
「ミミ、あのふたりはいつから一緒なんだ?」
「えーっと、そうねー。私がふたりに出会った時にはもう仲良かった気がするけど…。」
「……仲がいいというか、タマの一方的な片思いにも見える時はあるけどな……。」
「そう?私には相思相愛に見えるけど。」
「まぁ、そう見える時もあるよな…あのふたr…」
(ドガシャーーン…!)
草原に大きな破壊音が鳴り響いた。
その音は、明らかにドラムの音だった。
タマに目をやると、彼女はドラムセットを蹴り倒していた。
ミミとすぐにそこへ駆け寄った。
「はぁはぁ……チマチマチマチマうるせぇんだよ!!そんな細かいところ、叩かなくてもいいだろうが!!!」
「そういうわけにはいきません!全ての音を鳴らしてひとつのフレーズです!…ドラムは蹴り飛ばすものではありません。すぐに元の位置に戻してください。」
「そういう冷静なところがイライラする!アタシだって必死にやってんだよ!!」
「必死にやっても改善されてないじゃないですか?!だからボクは何度もタマに言わなきゃならなくなるんです!なんでわかってくれないんですか!?」
「うるせぇ!!偉そうにペラペラ口だけでもの言いやがって!!そこまで言うならアリアが叩いて見せろや!!!」
「っ!?…ぼ、ボクはタマみたいにドラムを叩けません…。力もタマみたいに強くないです…。」
「なんだよ!?あれだけ偉そうに言っておいて、お前は叩けないってか?!よくもまーそれなのに言ってくれたな!!やってられるか!!!帰る!!!」
「ま、待ってください!!ボクは、!!……。」
タマはドカドカと足音を立てて帰っていった。
「あらら、今度はあっちの番みたいねー。」
「そうだな…って、そんなこと言ってる場合じゃないぞ!アリア!大丈夫か?!」
アリアはふらふらと身体がヨロけていた。おれは両肩に手を当てて彼女の身体を支えた。
「あ、ありがとうございます…。ど、怒鳴り慣れていないもので、少々、貧血に………。」
アリアはそのまま気を失ってしまった。
ボクが目を覚ますと、目の前には青空が広がっていた。おでこにはひんやりしたタオルが乗せられていて、それを取って起き上がると、ミミ達がそばへ駆け寄ってきてくれた。
イブキは嬉しそうにボクの頭に乗って、ヒビキ君は“大丈夫か?”と心配そうな顔をしていた。
そうだ。ボクはタマと言い合いになって、慣れない大声を出して気を失ったんだった。
ミミの普段と変わらない顔だけが、少し救いのように思えた。
お読みいただきありがとうございます。
今タイトルはAimerさんの楽曲より拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




