お料理行進曲
知らない間に時間は過ぎて、段々と玉ねぎがアーモンドのような焦げ茶色になってきた。
「先生!これでどうですか?」
「おー!良い感じですね♪じゃぁ、それを一旦お皿に逃がしましょう。フライパンは僕が洗っておきますー。」、
「はい!」
「で、その玉ねぎは一度そのまま冷ましましょう。コップにパン粉と牛乳を合わせておいてください♪」
「えっと…はい!できました!」
「良いですね!では、次に、ここに氷水を用意したので、この上にボウルを置いて合挽肉をひたすらこねましょう♪」
「ひ、ひたすらですか?」
「はい!あ、その前に、下味に塩胡椒をかけて…と。」
「したあじ…。」
「そうですよ?ミミさんは、サラダにドレッシングをかけたら上の方と下の方はどうなってるかわかりますか?」
「そんなの簡単よ!上はドレッシングだらけで、下は野菜のままよ!」
「ミミさんはどっちが好きですか?」
「それはもちろん上の方よ!少し濃いから混ぜたりして下の方にもドレッシングを絡めるけどね!」
「絡めないと下の方が食べづらいですもんね。」
「そうね!当たり前のことを言わないでよー♪」
「肉料理もそうなんですよ?」
「え?…あ。」
「そう、ちゃんと中に味付けしておかないと、ソースのかかってない部分が寂しくなりますよね。ましてやサラダと違って肉は混ぜたりすることができない料理ばかり。言いたいこと、わかりますか?」
「……はい。そうね。」
「わかればよろしい♪では、ナツメグも少々振りかけて…と!」
「なつめぐ?」
「これは臭い消しのスパイスみたいなものですよ?」
「それ、そんなに少しで良いんですか?」
「え?えぇ、まぁ。」
「もっと入れたらもっと美味しくなるとかないんですか?」
「あ、いや、ナツメグはいっぱい摂取すると毒になるので…。」
「え?!!……神に毒を盛ろうと?」
「いやいや!少量なら全く何もないんで!」
(絶対にこうなると思ったよ…)
「……大体、そのナツメグとかいうの、入れたのと入れてないので、味の違いはわかるの?」
「……っ!…あー、これはその臭い消しなので…。」
「じゃぁ、先生はナツメグを入れ忘れたハンバーグ食べて“ナツメグ入ってない”ってはっきり言えるんですか?」
「あ、いやー……これはハンバーグを作る上での儀式みたいなもので…,」
「…なんだ、それならナツメグは入れなくても良いってことね。」
「いや、まぁ入れて損はないかと…。」
「ハンバーグのためだけにそんなわけわかんないスパイス買うのはもったいないです!お店がやれば良いと思いまーす!」
「あ、あはは…仰る通り…。」
「で、これをこねれば良いんですか?」
「あ…そ、そうですね!これをこねまくってください!少し白っぽくなって粘り気が出てきますので!」
「はーい。……なんでわざわざ氷水につけるんですか?」
「…いちいち聞く?それ。」
「先生、答えてくださーい。」
「……えっと、手の熱で脂が溶けると肉汁が少なくなって肉がパサつく、とか…。」
「……ふぅん。」
「いや!たしかそういう理由だから!嘘じゃないから!」
そんな話をしながら私は肉をこねた。彼のいう通り、本当に白くて粘り気が出てきた。
「先生、これで良いですか?」
「おお!いい感じです!じゃだこれに冷めた玉ねぎと牛乳パン粉を入れて、さらに混ぜます!」
「…まだ混ぜるの?」
「もう少しだから!我慢してください!」
少し混ぜたところで彼は“それくらいで大丈夫”と言って、一人前ずつに取り分けていった。ハンバーグを二人で形成していくと、空気を抜く作業が必要らしく、彼は丸めた肉を両手で上手にパンパンとキャッチボールして空気を抜いた。私がそれをできないことを知っていたみたいに、ヒビキはラップを使って肉を丸めて、“これを何度か殴れば空気が抜ける”と言った。私は、四人分の丸い肉をラップで包んで殴っていった。
(ドスっ!ドスっ!)
ハンバーグを殴る音だけが部屋に響き渡った。
「…意外と、体力使うのね。」
「ん?慣れれば楽になりますよ♪」
「……ヒビキ、ごめんね?」
「…………。」
「……私、料理なんて殆どしてこなくて……それなりに頑張ってみたんだけど、上手くいかなくて…君に八つ当たりしちゃった……。」
「………。」
「……私は…君が笑ってくれたらいいなって思ってたんだ…。でも、上手くいかなかった。当たり前よね。料理なんて、真剣にしたことないんだから………。私は…君を喜ばせることができない…。」
本音がポロポロと口から出ていった。
「………おれは、料理と音楽は似てるって思ってる。」
「……?」
「同じ食材を別々の人に渡して料理させても同じものはできないし、別の料理になることだってある。だから、面白い…。」
「……君らしい意見だね。」
「….でも、どんな料理になっても、気持ちは伝わる。」
「…うん。」
「おれは、ミミの料理を食べて、気持ちは受け取ったよ。」
「…うん。」
「だから食べた時、文句を言う気はなかったんだ。」
「…うん、、。」
「ミミを傷つけたことは謝る。ごめん。だから、一緒に伝え方を上手くなっていこうって、思った。」
「…………うん…。」
「…そろそろ全部の空気が抜けたんじゃないかな。」
「…………うん。」
その後、綺麗に形成したハンバーグのタネ五個を冷蔵庫で寝かせ、少しの間待った後、それを焼いた。
もう先生のキャラをやめた彼の言う通りに焼いていくと、焦がすことなくハンバーグを焼くことができた。
彼はフライパンに残った肉汁にケチャップと中濃ソース、そして赤ワインみたいなものを手際よく足して絡め、すぐにハンバーグソースを作り上げた。
「よし!じゃぁ、。」
「うん!そうね!」
(キューウン♪)
「「いただきます!」」
(キュウ♪)
「………っ!?何これ!!?肉汁が口の中で!!すごい!!!」
「……!!よくできてるな!めちゃくちゃ美味い!!」
(キューーーーーゥン!)
「こんな罪深いほど美味しいもの…人間にできるの?」
「それはさすがに言い過ぎだろ。ソースも適当だし、レストランの方が美味いよ。」
「…ううん!今まで食べたハンバーグの中で一番美味しい!!!」
「あはは!それなら良かった……でも、ミミのだけは特別だぞ?おれが形成したやつだからな?」
「は、はぁ?何言ってんのよ!?」
(とろぉ〜…)
「………ひ、ヒビキ!中に何か!?」
「はははっ!!ミミのは特別、ヒビキ特製チーズインだ!」
「〜〜〜!!!あ、あー幸せ……これは、幸福の味よ……。」
(キューキュー!)
「あはは!ごめんな、イブキ。また今度作ってやるからな?」
「……ヒビキ。」
「ん?」
「君はこうやって、数々の女性の胃袋を掴んできたわけね…。ようやく彼女達の気持ちがわかったわ…。」
「え?え?なんでそんな方向に話が進むんだよ…。大体ハンバーグ自体を作ったのはミミだぞ!?」
「……こ、これは、ワインじゃー!呑むぞー!!!」
「……あーはいはい…。」
私達はお酒を開けてそれを呑んだ。たぶん、仲直りできたと思う。
私はそれから残りのハンバーグを全て食べ終えた。
夜も更けてきて、お互いに寝支度を済ませた。彼はソファーに転がって、寝室に向かう私に言葉を投げた。
「いやー!それにしても美味しかったな!また作りたいなー。ミミは…料理、どうだ?楽しかった?!」
私は彼に少しだけ笑いかけながら、しりとりで言葉を返した。
「…たまにはいいね♪」
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルはYUKAさんの楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




