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それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
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おもちゃの兵隊のマーチ



ヒビキが持っていたビニール袋の中には、様々な食材と見たこともない粉と、エプロンが二つ入っていた。


「チャンチャラチャラチャラチャ・チャ・チャ〜♪ チャンチャラチャラチャラチャ・チャ・チャ〜♪…………〜♪」


キッチンで彼はさっきまでの件には触れることなく、変な鼻歌を口ずさみながらエプマロンを着用していた。



「…………何その歌。」


「これ、知らないか?日本の有名な料理番組だよ。名前的には短いのに内容は意外と長いんだよなー。」


「……へー。」


「三分で作れるものなんて、カップ麺くらいだよなぁ。…ん?ミミもエプロン早くつけろよ?」


「………そんなのなくても料理なんて作れるでしょ。」


「ダメだよ!こういうのは雰囲気が大切なんだ!わかるか?ほら、早く!」


「……わかったわよ。」


なんで私はヒビキが追いかけてきてくれたのに、こんな態度をとってしまうんだろう。自分でもわからない。もっと素直になれていたら、“ごめん”の一言も簡単に出たのに、私は悪態しかつけなかった。




「よし!ミミもエプロンつけたし、始めよう!」


「………なんでわざわざふたりで…」


彼は少し深呼吸した。


「はい♪では今日は、“ヒビキ直伝!美味しいハンバーグ”を作りたいと思いまーす!」(パチパチパチパチパチパチ……)


カメラが回っているかのように彼はキッチンの正面に向かって笑顔を見せていた。正直引いた。


「………何それ。」


「ほら!ミミも拍手!」


「…………。(パチ、パチ、パチ…)」


「今日はですね、特別にアシスタントとしてミミさんがお越しになっています!こんにちはー♪」


「………。」


「…はーい!すこ〜しだけ緊張されているようですね!えー、では早速ハンバーグの材料を案内していきますー。みなさんメモのご準備を♪」


「…みなさんって誰よ。」


「……えー、、まぁ、はい!まずはこちら♪主役のひき肉ですねー!ヒビキのオススメは牛7:豚3の合挽肉ですが、これは好みによって変えてもらって構いません!」


「………。」


「次に、つなぎに使う食材達を紹介しますね!こちら、玉ねぎ、パン粉、牛乳になります♪あとは、塩胡椒、ナツメグ、と、ソース用にケチャップと中濃ソース!あ、バターとサラダ油もご用意ください♪」


「……多いわよ。分量もわからないし。」


「あ、はははー……こ、このレシピはかなり材料少なめで、どんなご家庭でも作れるものになっていますのでねー、、。分量に関しては、見たまんまの感じと思ってもらうか、あとは適当にやっちゃえば大丈夫ですよー。

あと、ここでひとつ!ヒビキ's ポイントなのですが!つなぎに卵は使わなくていいんですね〜。よく卵を使わないことを不安に思われる方もいるんですが、その分しっかりと挽肉をこねることでカバーできますのでね♪卵が入ると、好みにもよりますが少し肉の旨味がボヤけしまうんですねー。これは一度みなさんもやっていただければ!」


「………だからみなさんって誰よ。ダラダラ説明長い。作るならさっさとして。」


「…ま、まだミミさんは緊張されているようですね〜。あはは、、。で、では!早速玉ねぎの方から取り掛かりましょう!ミミさん!こにらへ!」


ヒビキはまな板の前に私を手招きした。私は言われるままにそこへ行った。


「はい!まずは玉ねぎのみじん切りをしてもらいますね〜♪」


「…え?!ちょ、ちょっと、そんなのしたことないわよ!」


「みじん切りした後の状態はイメージできますか?」


「まぁ…粉々になってる感じ……。」


「そう!そういう風に切ればいいだけですよ!」


「む、無理よ…。」


「………仕方ありませんねー。こんな方に朗報です!実はこんなものがあるんですねー!」


今度は通販番組の司会の人みたいになって、彼は手のひらサイズの取っ手がついた空箱を取り出した。


「な、なにそれ?」


「これはですねー、ミミさん♪この箱に入るくらいのサイズに切ることはできますか?どんな形でも構いません!」


「う、うん。それなら…。」


私は玉ねぎの皮を剥いて、上下の先端を切り落とした後大きなサイコロ状にぶつ切りした。


「これでいい?」


「はい!ありがとうございます♪では、この箱の中に切った玉ねぎの欠片をひとつ入れて蓋をして…ミミさんこの取っ手を少し強く引っ張ってもらえますか?」


「少し強くなんてわからないけど…うん。」


(ギュウン…!)


取っ手を引っ張ると玉ねぎが一瞬でバラバラになった。


「わぁ…すごい。すぐにみじん切りになった。」


「そうなんですよー!意外と楽しいでしょ?」


「…うん。これは、少し楽しい。」


私は次々と玉ねぎの欠片を入れてみじん切りにしていった。


「できたよ!全部!」


「はーい!ありがとうございます♪」


「…それって、特別なやつなの?」


「ん?このみじん切りの箱ですか?いえいえ!日本にもコープランドにもありますよ!スーパーで売ってます♪」


「へぇー、でも、高いんでしょ?」


「…ふふっ!そ、それがこの商品、10ロゼスなんですね。日本でも金額は一緒で100円で売ってます!」


「え!?そんなに安いの?!こんなに便利なのに!」


「……くくっ!ほ、本当にいい反応をしてくれますね…まるで通販番組のアシスタントみたい……ふふっ!!」


「あ……。」


「では!次の行程は玉ねぎを炒めます♪フライパンにバターを引いて火にかけてもらえますか?火加減は…ミミさんの場合、少し焦がしやすそうなので、弱火と中火の間くらいにしましょうか!」


「は、はい!」



「いい感じにバターが溶けてきましたね♪そろそろ玉ねぎをそこにぶち込みましょう!」


「うん。」


「焦がさないようにヘラで時々混ぜながら、ゆっくり飴色になるまで炒めましょう!」


「……あめ色ってなに?」


「え……?あ、飴色は飴の色ですよ…。」


「何アメ?」


「あー、えっと、ベッコウ飴……?」


「何それ?どんな色?」


「………濃いきつね色。」


「濃いきつね色?……アーモンドくらい?」


「あー!それに近い!」


「なら始めからそう言ってよね!“飴色”なんて、普段使わない言葉使ってくるからわからなくなるのよ!“アーモンドくらいの色”とか言えばいいじゃない!」


「あはは……それはもう仰る通り…。」



10分くらい炒めたけど、あまりアーモンドには近づかなかった。

ヒビキはあまり言葉をかけてこなかったけど、どこか退屈な感じはなかった。むしろ、玉ねぎの焼ける音が私の心を落ち着かせていくような気がした。


「……結構かかるのね、アーモンド色にするの。」


「……そうだな。あと30〜40分くらいかな。」


「……そう。」


「……“長い”って言わないんだな。」


「…うん。なんか、落ち着く。」


「…わかるよ。」


「…これが前言ってた、息抜き?」


「そうだな。余計なこと考えなくなるんだよ。」


「…まぁ、悪くないわね。」


「ははっ。まだ玉ねぎ炒めてるだけだぞ?」


「そうね。それより、先生?素に戻ってますよ?」


「え?…あ。そ、そうですね!料理って良いですよねー!」


「……ふふ♪」




一日ぶりに笑った気がした。頬が柔らかくなっていって、それに連れて私の心もほぐされていくような気がした。




彼のくだらないけど楽しい料理教室はもう少しだけ続く。




お読みいただきありがとうございます。

今回のタイトルはレオン・イエッセル氏の楽曲より拝借致しました。日本人ならほとんどが知る名曲です。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。

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