表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
45/59

備忘録



私は料理が苦手。

そんなことは自分が一番知っている。

生まれた時から神だったし、望むものは大体手に入ったから、料理を作る意味がわからなかった。

神の勉強をするために通った学校でも、確かに調理実習みたいなものはあった。アリアやタマは割と笑いながら料理を楽しんでいたけれど、私にとっては体育でランニングしている時と何も変わらない気分だった。

ヒビキが言っていたみたいに息抜きになる気もしないし、自分が作った美味しくない料理を食べるくらいなら、お金を出してプロが作ったご飯を食べる方がよっぽど良い。

誰かの為に料理を作るなんて考え方を一度も持ったことはないし、これからも持つことはないと思っていた。


ヒビキをコープランドへ呼び出す申請が通った日、安心と共に、小さな恐怖心が生まれた。その原因は、私が料理をできないことだ。彼は料理が得意だし、誰かの作った料理を食べることも好きなのは知っていた。彼を家に入れる気はないけど、もし万が一彼が家に来たら、私は料理を振る舞うべきなんだろうか。


焼き鳥屋でダマに会った。タマはいつも通り泥酔していて、どうせ覚えていないだろうと確信していろんな愚痴をこぼした。とにかく日本の文化を知りたかった私は、彼女の呑み友達の日本の神を紹介してもらおうとしたり、今テーブルの前に置かれている日本食や、普段日本人が食べている料理を学びたい、と彼女に言った。すると、タマは急に立ち上がって飛行機の中でCAが言うみたいに“この中に前世コックの方はいませんかー?”と大声で店中に尋ねた。

偶然、お客の中に前世料理人をしていた日本人が彼女の質問に応答した。タマはほぼカツアゲのように、“こいつに日本人が食べてる料理を伝授しろや?さもないと、わかるか?”と言ってその料理人にレシピと参考になるサイトのURLをメモさせた。その料理人は、“コープランド怖い”と何度も唱えながら、逃げるように来世へと向かっていった。


レシピに書かれてあったのは、簡単な料理ばかりだった。料理人が私の事情を汲み取ってくれたんだろう。日本人がよく食べる朝食は、コーンフレーク、トーストとサラダ、それに焼いたウインナー。昼食は焼きそば、サンドイッチ、そうめん。夕飯は、鍋料理しか書かれていなかった。


早速家で挑戦してみた。

正直、ただ牛乳をかけるだけのコーンフレークは私でもわかるくらいに料理ではなかった。トーストは食パンを焼く専用の機械があって、それを使うと上手く焼けた。バターやジャムなど、色々取り揃えると割と料理っぽく見えた。サラダはすごくめんどくさそうだったので、スーパーで出来上がっているものを買って、お皿に盛り付けた。ドレッシングを取り揃えてトーストと並べると、かなり見栄えが良くなった。きっとこれにコーヒーを添えると、よりそれっぽくなるんだろう。ウインナーは、焼き加減がわからなくて、見事に丸焦げになった。

昼食の焼きそばも丸焦げ。そうめんはなんとか作れたけど、ふにゃふにゃであまり美味しく感じなかった。サンドイッチは、どうにかレシピに書いてある通りに作ることができた。味見をしたら、すごく美味しかった。それに朝食と同じ食パン。経済的に苦しくもないのに、私はなぜかガッツポーズをした。サンドイッチには挟む具材にかなりのバリエーションがあるみたいで、これなら毎日食べても飽きないような気がした。

夕飯の鍋料理は、完成したと思って蓋を開けると、なぜか魑魅魍魎が湧いてきてすぐに却下となった。


彼が食べるかもわからない料理を、こんなに学ぼうとするのはなんでだろう。わからないけど、嫌な気持ちではなかった。ただ、朝食のトーストがどう考えても少な過ぎる。私は日本の食卓を覗き込んでみた。すると、確かにこの通りのような分量の料理が食卓に並んでいた。

もし、万が一彼がこの家に来た時のことを考えると、トーストを食べている横でドカ食いしている神がいたら嫌じゃないかな、なんてくだらない乙女心をときめかせてしまっていた。

私は日本の朝食に慣れることにした。


ある日の朝、パンを抱えたアリアが私の家を訪ねてきた。かなり珍しいことだ。アリアの好きなパン屋は私も好きで、小麦のいい香りがしていた。

アリアは部屋に入ると、机の上に置いてある朝食を見て心配そうに“食欲ないんですか?”と聞いてきた。私の食欲を把握しているアリアならそう思うだろう。私は自信満々に“これが現代の日本人の朝食なのだよ!”と言葉を返した。


ヒビキがこの世界にやってきた。

案の定彼は宿を探して私に媚びてきた。彼に言いくるめられて…いや、少し私もテンションが上がって彼を家に招いた。

翌朝、予想通りのシチュエーションがきた。私は先に用意したトーストを食べながらヒビキが起きるのを待った。朝食の匂いに気付いたのか、ヒビキは起き上がり、私の作った朝食を口にした。平然を装っていたけど、内心すごく不安だった。私の予想とは裏腹に、彼は至ってスムーズに“いただきます”と“ごちそうさま”を言って食事を済ませた。きっと、私がコーンフレークに対して抱いた感覚と、彼にとってのトーストは同じだったんだろう。とても料理と言えるものではなかったんだ。


ある日、ヒビキに外食に誘われた。私はそれが嬉しくて、何かお返しをしたくなった。彼が喜びそうなもので、私の中に残っていた手札は、“サンドイッチ”しかなかった。彼のためにサンドイッチを作った。

草原で二人で昼食を食べた。彼は美味しそうにそれを食べていた。心の中で小さくクラッカーが鳴った。私が珍しく料理をしたことに不思議そうな顔を見せた彼が“なんでサンドイッチ?”と聞いてきたので、“夕飯のためにお腹に優しいものを入れておく”と誤魔化した。


手札がなくなってからの食事はコンビニやスーパーで買ったものが多くなって、ヒビキに嫌な目で見られないか不安になっていった。


またある日、私は神殿に呼び出されて帰りが遅くなった。長丁場でかなり疲れていた。

家に帰ると彼は私を出迎えて、カレーを作り、お風呂が沸いていると言った。私は素直に喜んだ。そして、帰りが遅くなったのに、一緒に食べるために待っていてくれたヒビキに好感を覚えた。

彼の作った牛すじカレーは、今までお金を払って食べてきたどんなカレーより美味しくて、何度もおかわりをした。

誰かが作る心のこもった手料理が、とんでもなく美味しいことを私は初めて知った。


翌日も彼に頼んでブリ大根を作ってもらった。その食卓にはアリアもいた。やっぱりブリ大根もとびきり美味しくて、私はヒビキの作った料理がすごく好きになった。


タマがバンドに加入して、私以外の三人が草原で練習することが多くなった。私には楽器の経験もないし、そこに参加する資格がないように感じていた。

少し寂しさを感じた私はみんなに何かしようと思って、自分にはできない料理を街の中を歩いて買い漁り、それをお弁当箱に詰めて持っていった。

彼は喜びつつも私の詰めたおかずの出所を聞いて、私が作ったものじゃないことを知ると、少しだけガッカリしていた。


その様子を見ると悔しくなって、今まで作ったことのない料理に挑戦した。お弁当に入っていたおかずだ。

ヒビキは家に帰ってくると、心配そうに私を眺めた。それが妙に煩わしくなって彼を遠ざけた。サラダはいつも食べているものを想像しながら見様見真似で作ったけど、スーパーに置いてあったそれとは似ても似つかない見栄えになった。

怖くて味見もできなかった料理を彼に差し出すと、彼は一口食べて少し曇った顔を見せた。イブキも同じ表情をしていた。

私も食べてみると、確かに彼らの表情が語るものを理解できた。ただ、変に気を遣うヒビキの言動と、私の料理を勝手に味付けして喜ぶ彼らの姿が、すごく不快だった。そして、“したあじ”という私の知らない単語を平気で使う彼を見て、どうにもならない恥ずかしさを覚えた。


翌日、私は昨日の一件をどうにか挽回しようと自分の中では一番の得意料理を必死で作った。中に挟む具材はいろんなサイトを見て、わからないなりに挑戦してみた。


お昼前にようやくできたそれを草原に持っていった。これならみんなも、ヒビキも喜んでくれるだろう。


だけど、私が向かった草原で行われていたのは、練習ではなくて、私の料理に対する評価だった。


三人の中では、私の料理は“深刻な問題”らしい。



なんで?私は、私の作った手料理を食べて笑うヒビキの顔が見たかっただけなのに。

なんで?どうしてヒビキは私じゃなくて他の人に相談するの?



自分の情けなさと恥ずかしさが、そこで爆発してしまった。


私はヒビキに身勝手な怒りをぶつけた。


急いで家に帰ってきたけど、彼には“帰ってくるな”と言ってしまった。

もうこの家に彼がくることは二度とないかもしれない、そう思っていた。





(ガチャガチャ……!)



「ミミ!!」




“ただいま”も言わずに私の名前を呼んだ彼は、汗だくになっていた。なぜかさっき私が持っていったような白いビニール袋を手から下げていた。




「………何よ。帰ってくるなって言ったでしょ?」


「はぁはぁ…、もう家かよ。タマの言った通り足速いな……。サンドイッチ、美味しかったよ!」


「は、はぁ?!今さらそんなお世辞要らないから、早く出ていってよ。」


「はぁはぁ………一緒に作るぞ!」


「……作る?何を?」


「………ハンバーグ!!」


彼は手に持った袋を私によく見えるように前に出した。




「……はぁ?」






お読みいただきありがとうございます。

今回のタイトルはヒグチアイさんの楽曲から拝借致しました。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ