おしゃかしゃま
(ヒビキ君?)
(おーい!返事しろよ!)
おれを呼ぶ声がする気がした。
(ちょ、ちょっと!タマ!)
(こうでもしないと起きねぇんだよ!オラっ!)
(ペチンっ…!)
「…っ痛ぇーーー!!!!」
おれの頬に思い切りのビンタが飛んできた。
「ああ?やっと気付いたか?ずっとボーッとしやがって。」
草原に来てギター弾きながらおれは昨日のことをずっと考えていた。難解な問題を考えていて、周りの声がシャットダウンされてしまったんだ。
「おま、ビンタしなくてもいいだろ?!肩叩くとか!」
「ああん?そんなの思いつかなかった。アタシ達をシカトするてめぇが悪いんだよ。」
「ひ、ヒビキ君、大丈夫ですか?」
「まだ脳みそが揺れてるよ…馬鹿力め……。」
「ああん?もう一発お見舞いしてやろうか?」
おれ達は軽く睨み合った。
「そ、そんなことより!どうしたんですか?珍しくボーッとして。」
「…いや、まぁ。」
「何隠し事してんだよ?大体わかるぜ?どうせミミとなんかあったんだろ?」
タマはニヤリと笑った。
「え?!ミミから何か聞いたのか!?」
「なはは♪ほらな、アリア!こいつやっぱりミミとケンカしたんだぜ!アタシの予想通りだ!」
「予想通りって、、タマ、お前カマかけたなー!?」
「ひ、ヒビキ君!落ち着いてください!ボク達は心配で駆け寄ったんですよ?」
「あ、あぁ、ごめん。」
「ミミと、何かあったんですか?」
「…そうだよ。」
「ぼ、ボク達でよければ話してくれませんか?何か力になれるかもしれません。」
「……くだらない話だぞ?」
おれは昨日の唐揚げの一件を事細かに話した。
「キャハハハハハハ!!!!!なんだその話!!!!!お前唐揚げひとつでそんな悩んでたのかよ!!!!?くっだらねぇー!!!!夫婦かよ!!!キャハハ……!!!」
「た、タマ!失礼ですよ!こ、こんなに、ひ、ヒビキ君が、し、し、真剣に………ふふふふふ、アハハハハハ!!」
「笑いたきゃ笑えよ!!こっちは真剣なんだよ!!というか、唐揚げっていうよりなんであんなにミミが切れたのかがわからないんだ。まぁ、料理を悪く言ったのは申し訳ないと思うけど、それは向こうが“言え”って言ったからで…。おれがどうしたら良かったのか全くわからないよ。」
「ハハハ……そ、そうですね、。それは大変ですね。」
「あー腹痛ぇー!!」
「………そんなに笑うふたりは料理できるのか?」
「ぼ、ボクはある程度の料理なら。ただ、ゲームに集中してる時はコンビニやスーパーのお惣菜で済ませることがほとんどですね。」
「アタシは外で飯食うことが多いからなー。」
「いえ!タマの料理は割と人気ですよ?!みんな“お酒によく合う”って評判です。」
「そうか?まぁなー♪酒好きはつまみ作るの得意になるからなー♪なはは!」
「……ならミミの料理は食べたことあるか?」
「ぼ、ボクはないですね。そもそもミミから“料理”という言葉を聞いた覚えがありません。」
「アタシもねぇな。アイツと会うのは最近までほとんど呑み屋だったし。あ、でも…」
「…あ、そうですね…。」
「ん?なんだよ?ふたりして。」
「「ミミは舌バカで有名だぞ!!です!!」」
二人が上手にハモった。
「ま、まじかよ…。」
「舌バカっつーか、アイツ昔から嫌いなものが極端に少ねぇんだよなー。何食べても飲んでも美味いって言うし、音楽だって何聴いても良いねって言うんだ。」
「そ、そうですね。でも、本当にミミには悪意がないんですよ。そういう発言をして自分がどう思われるか、みたいなしたたかさもなくて、純粋にそういう子なんですよね。」
「そうそう!だから余計にタチが悪いんだよ!!」
「よ、よく地球の日本人は“好き嫌いしてはいけない”みたいな文化がありますけど、ボクはあまりよく思いません。嫌いなものが見えてないと、本当に好きなものが見えませんから。」
「なるほど…。確かにな…。いいこと言うな、アリア。」
「い、いやぁ〜えへへ…。」
「ところで、そんなミミにおれはどうすればいいんだ?」
「はぁ?そんなの簡単さ。アイツにもうメシ作らせなきゃいいんだよ!“お前の作るメシは不味いからいらねー”って言ってやりゃ、アイツも素直になるさ!」
「タマ!それはあまりにもミミが傷付きます!!それはダメです!……ただ、下味の存在も知らないレベルですからね…よくよく考えると、少し大変ですね…。」
「うーん、割と深刻な問題だよなぁー。」
「なによ?三人して“したあじ”の話して。」
「「「?!!!」」」
横を見るとミミが立っていた。明らかに不貞腐れた顔をしている。買い物帰りなのか、白いビニール袋を手から下げていた。
「……どうしたの?話続けなさいよ?」
「い、いやぁー。アリア、下地当てないと服ってダメなのかなー?」
「あ、あ、そうですね!下地はあった方が何かと便利かと!!」
「下地?何言ってんだ?今は下あz…」
「(黙りなさいタマ!)」
「……ふぅん、別にいいわよ。したあじとかいうの大切にするのなんてどつせ宇宙の中でも日本くらいでしょ?しょうもない。…それよりもヒビキ。」
「お、おれ?!なんだよ?」
「……なんでいちいちこんなくだらない話をふたりに話すのよ。それが一番腹立たしいわ。」
「ち、違います!ミミ!これはボク達からヒビキ君n…」
「ちょっとアリアは黙ってて。…なんで私達の間で起きた些細な諍い事を誰かに話してんのよ?なに?ふたりに“あいつしたあじすら知らない料理音痴だ”って笑いのネタにでもしてたわけ?」
「いや、“些細な”って、あれだけ切れてたら不安になるだろ?!些細なんかじゃなかったよ!それに笑いのネタにもしてないって!」
「……別に今朝は何もその話を話題にしなかったじゃない。なのになんでわざわざここに来てコソコソ私のこと話してるの?…君はそういう陰湿な人間だったのね。私の一番嫌いなタイプだわ。」
「まぁまぁまぁまぁ!ミミよぉ!あんまり怒んなって!唐揚げひとつでそんなにカリカリするこたぁねぇよ。なぁ?呑んで忘れちまおうぜ?」
「……ごめんタマも少し黙ってて。」
「…!お、おう…。」
「…どうしたの?もう言い返す気もない?」
「いや、だからおれの話をちゃんと聞いてくれよ。」
「聞いてたわよ。“したあじの存在さえ知らないのは深刻だ”ってね。」
「だから!それはほんの一部で……」
「…なによ、私は別に君に嫌な顔させたり、悩ませたりする為に料理したわけじゃないんだよ……。なのに、なんでこんなことになるのよ……。」
彼女の体が震えて、涙が頬を伝っていた。
「ミミ、あの、おれは……」
「もういい!!帰ってくんな!!」
彼女は手に持っていた袋をおれに投げつけて、走っていった。
「ひ、ヒビキ君!追いかけなくていいんですか?!」
「そうだぞヒビキ!ドラマとかでよくあるやつだ!追いかけるのがお約束だろ!?」
「……もういいよ。めんどくさい。」
「「……?」」
「なんでおればっかり責められなきゃいけないんだよ。別におれはそこまで悪いことしてないって。そもそもおれは文句言わなかったんだよ。ミミの方から“言いたいことあるならちゃんと言え”って言われて、口に出したら切れられて、少し悩みをふたりに相談したら、一部始終しか聞いてないのに被害者ヅラして“一番嫌いなタイプ”だぁ?ここまで言われてあいつを追いかける気にはならないよ。」
「ひ、ヒビキ君、ごめんなさい…。ボク達が無理に聞いてしまったせいで…。」
「いや、ふたりは悪くないよ。むしろ相談に乗ってくれたんだから感謝しないといけないくらいだ。」
「…それにしても、アイツ最後ヒビキに何投げつけたんだよ?なかなか豪速球だったぜ?」
「あ、うん。これな、なんだろう?……あ、」
ミミが持っていた袋の中には大量のサンドイッチが入っていた。
「これ……サンドイッチだ。」
「こ、これはミミが?…ボク達の昼食のために、作ってくれたんですかね?……それにしても、料理が苦手なんて思えないくらい見た目は綺麗ですけど……。」
「……たしか、いつかもミミはサンドイッチを作ってくれたことがあったんだ。言われてみれば、それは美味しかったな…。」
「あー!!!思い出した!」
タマが急に目を丸くして声を出した。
「な、なんだよタマ!?急にデカい声出すなよ。」
「いやぁ、お前がここに来る前の話だよ!確か、お前が来る三ヶ月前くらいか、それより少し前くらい、かな…?お前と初めて会った焼き鳥屋あるだろ?あそこでミミと呑んだんだよ!そしたらアイツ、急に“こんな日本食作れるようになりたい”とか“日本でよく食べられてる料理作れるようになりたい”とかぼやき出してさ!隣にたまたま料理人がいて、アタシが絡みにいったら仲良くなってよ、“この女に日本でよく食べられてる料理教えてやってくれ!”って言ったんだよ!」
「そんなことが……。」
「でもよぉ、その料理人のやつはそろそろ来世に向かおうと思って最後の晩餐をとってたみたいでなー、ミミに簡単にできる料理のレシピと、参考になるサイトのURLだけメモに書いて渡して帰っちまったんだ。酔っ払ってたけど、ちゃんと記憶してるもんだなー。なはは♪」
「そっか、、。その中にサンドイッチのレシピがあったのか…。」
「あ、あのボクも思い出したことがひとつありまして……。」
「アリアも?さっき、覚えがないとかなんとか言ってたじゃないか?」
「い、いえ!料理というか……あの、ミミって、よくご飯食べるじゃないですか?」
「そうだな。よく食べるしよく呑むし…。」
「み、ミミはいつも朝食もガッツリ食べてたんですよ。」
「え?!そうなのか!?朝はいつもトーストとサラダとコーヒーだけで済ませてるぞ!?」
「ですよね…。ぼ、ボクは、朝はカフェに行ってモーニングを食べたり、好きなパン屋さんでパンを買ったりしてるんですけど、それまではよく通りがかりのレストランで…あの、なんでしたっけ?ポルンガライス?」
「あーボルガライス。」
「そ、それです!それをお代わりしてるミミを見かけていました。朝からトンカツ食べて元気だなって思って見てたんです。」
「へぇ。朝からあんなものを…。」
「で、でも、たぶんタマが話したのと同じくらいの時から、ミミを街で見かけることが少なくなりまして…。少し心配になって、朝パンを買った後にミミの家を訪ねたんです。そしたら、トースト二枚とサラダとコーヒーだけが机に置いてあって…。ビックリしちゃって…病気じゃないかとか、余計に心配になってミミに聞いたんです。“食欲ないんですか?”って…。」
「ミミはなんて言ったんだ?」
「……“これが現代の日本人の朝食なんだ”って…。」
「………日本人の朝食?」
「は、はい。たぶん…これはボクの憶測ですが……ミミはヒビキ君を呼び寄せた時の準備をしてたんじゃないですかね?」
「ま、まさかぁ……。」
「で、でも!そう考えるとミミの行動に辻褄が合うと言いますか、わざわざ日本で食べられてる料理を覚えようとしたり、日本人の文化を真似てみたり…。」
「そうだよなぁ!その焼き鳥屋でもアタシに日本の神のこと聞いてきたからなー。“弁財天紹介しろ”だの“仏を紹介しろ”だの、“お釈迦様紹介しろ”とかさ。釈迦は日本の神じゃねぇっつーの!なはは♪あんな人間からの成り上がりの若神なんて紹介しなくてもすぐ会えるってのによぉ♪」
「………そうだったのか。」
「そうだぜ?アタシはその時に“日本に何か用事でもあるのか?”って聞いたらアイツ、“日本人の魂を現世から呼び出すかもしれない”って言ったんだよ。だからお前と初めて会った時、話し方や素振りでピーンときたんだよ、お前がその魂だってな。」
「そう言えば、なんか話してる時に“理解”みたいなこと言ってたよな。そうか…だから。」
「アリアの推測は恐らく間違ってねぇぜ?まぁ、魂を現世から呼び出すなんて“会いたい”とかそんな簡単な理由で呼び出すことなんできないからよ、アイツがただ楽しむために呼び出したわけじゃねぇだろうが、お前に生活を合わせることで何かをしようとしてるんだろうな。泣かせる話じゃねぇか!なはは♪」
「た、タマの言う通りですね。ボク達にはわからない理由があるんでしょうけど、きっとヒビキ君に生活を合わせるのは、ミミなりに楽しませたいとか、そんな気持ちもあると思いますよ?」
「…………そっか…。…おれ、やっぱり今からミミに会いに行くよ。」
「おぉ!良いじゃねぇか!追いかけてやれよ!そして今晩は熱い夜を過ごs…」
「タマ!もう、余計なことは言わないの!……ひ、ヒビキ君、ボク達はきっと、ミミが話してほしくないことを今あなたに伝えました。だから…」
「うん、わかってる。おれの心の中にしまっておくよ。ふたり共、本当にありがとう。」
おれは袋の中に入っていたサンドイッチをふたつだけ取り出して手に持ちながら走った。
「ミミは足速いからそんなんじゃ追いつけねぇぞー!!なはは!♪おい!見ろよ、アリア!アレがよくドラマとかであるやつだ!」
「アハハ……タマは、本当に雰囲気をぶち壊しますね…。」
走りながらミミが作ったサンドイッチをひとつ頬張った。中は炒り卵だ。パンの内側にはちゃんとバターが薄く塗ってあった。
料理のことがわからないなりに必死で作ったんだろう。おれは、それが美味しくて、涙が止まらなかった。
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルはRADWIMPSさんの楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




