あなたのサラダ
おれが神殿に出向いた翌日も、ミミは神殿に呼ばれ、これからの色々な方針が定められた。
単純に、ドラムが入ったことで騒音問題やスペースの確保など、様々な問題が生じるので、おれ達の活動する時間や場所は更に制限された。
子ども広場に関しては、ドラムを叩かないことを条件に現状の幅に留めてくれた。
その他の指定された場所や時間は、至って正確で反論の余地はなく、従わざるを得ないものの、おれ達が生演奏できるのは一週間の内、三日が限界となった。とは言え、タマが加入したことと、シャーロットの世界で大きな反響を呼んだことが、どこからか噂が拡まり、観客が更に増えた。一度で投げ銭は120カーズに達する日もあった。
ちなみに、ブラウンは厳しい罰則を与えられたけれど堕天されることもなくシャーロットを担当しているらしい。
暇な時間が増えたおれは草原で作曲することが多くなった。おかげで新曲は四曲増えて、持ち曲は二十曲に達した。
中でも『Pray』という曲は、注文通りストイ様のことを考えて作った曲だ。幻想的な音像が極まった、冷たさの中に温もりを持った曲になった。
投げ銭が増えたおかげで所持金は2,000カーズを超えていた。
その日も草原でギターをダラダラと弾きつつ、タマのドラムの練習音を聴いていた。
「あー!くそ!こんなの叩けるかよ!!」
「何度も言ってるでしょ?!始めから速いスピードで叩こうとしないで、ゆっくり正確に叩くことから始めるんです!」
「うっせーなー!それじゃ気持ちよくねぇんだよ!」
「速いスピードで上手く叩けてないのも気持ちよくないでしょ!?」
よく二人はこんな言い合いをしながら練習していた。アリアはタマと話す時にはオドオドした口調がなくなっていて、上手くコミュニケーションが取れていることが見て取れた。
お昼頃になって、ミミが全員分の昼ごはんを持って来た。彼女の頭にはイブキが乗っていた。
「おー♪唐揚げ弁当!!良いじゃねぇか!ドラム叩いた後の体にはピッタリだぜ!」
「す、すごいですね!バランスもしっかり取れて、彩りも豊か!」
「ミミってこんな才能あったんだな!」
「あはは!♪任せたまえ!私の手にかかればこんなもの、お安いご用なのだよ、」
(キューウン?)
イブキだけが不思議そうな顔をしていた。
「……ミミ、この唐揚げって、本当にミミが作ったのか?やけに美味しそうだけど。」
「そ、それは近くの肉屋さんで買ったんだよ。」
「へー……このきんぴらごぼうは?」
「それは、たしか、近くの惣菜屋さんでー、、。」
「………このサラダは?やけに彩りが綺麗だけど?」
「あ、あははー、、、近くのサラダ屋さんで…。」
(キューウン♪)
「なんだよー、やっぱりか。」
「や、やっぱりって何よ!?せっかく買ってきてお弁当箱に盛り付けまでしてあげたのに!嫌なら食べなくて良いわよ!」
タマが唐揚げとご飯をモリモリ食べながら割り込んできた。
「まぁまぁ!良いじゃねぇかよー!美味いんだからさ!ミミが作った唐揚げより千倍は美味いぞ?!なはは♪」
「そ、そうですよ、ヒビキ君。盛り付けも料理の一つです。美味しいならなんでも構いませんよ。」
「まぁ…確かにそうだなー!おれもいただくとするか!」
「なんかムカつくわ。せっかく作ってきたのに!言っておくけど、ご飯を炊いたのは私だからね!」
(キューウン♪キューウン♪)
唐揚げをほぼ全てをタマが攫っていったことで揉めたりしつつも、おれ達は楽しく昼食を食べ終えた。
タマとアリアは練習に戻り、おれはギターを手に取った。
ミミは、空になった弁当箱を少し怒った顔で持って帰って行った。
夕方頃までドラムの練習は続き、キリの良いところでアリアが終わりの合図を出した。
おれも同じタイミングでギターをしまい、各々家へと帰って行った。
(ガチャガチャ…)
「ただいまー……ん?油の匂い?」
「あ、おかえりー!今ちょっと手が離せないから好きにしてて!」
「手が離せないって、何やってんだよ……え?唐揚げ?!なんで!?」
「うるさいわねー!油飛ぶから離れてなさいよ!店で買ってきたのじゃ嫌なんでしょ!?作ってやるわよ。飛び切り美味しいのをね!待ってなさい!」
「いや、別に嫌なんて言ってないんだけど…」
「ほとんど食べてなかったじゃない!!タマに譲って!」
「ゆ、譲ってないって!誤解だよ!タマが全員分をほとんど奪って行ったんだ!」
「知らない!今揚げてるとこやんだからあっち行ってて!邪魔よ!」
「…いや…まぁ、でも唐揚げってそんな難しい料理じゃないし、、…ん?これ、ミミこの鶏肉っt…」
「もう本当にうるさい!あっち行っててよ!」
「……。」
なんでそんなに怒っているのか、全く理解できなかった。そして、なぜそんなに必死なのかも、おれにはわからなかった。
「ふぅー♪できたわ!ほら!」
(ドンっ!)
目の前に置かれた皿にはてんこ盛りの唐揚げとレモンが一欠片添えてあって、横にはレタスとキャベツを引き千切ったような残骸のサラダが乱雑に置かれていた。
「へぇー…サラダも作ったのか…?」
「ふふん♪そうよ!サラダは千切るものなんでしょ?ドレッシングは好きなものを使いなさい?♪」
「あ、ああ。」
(そう言えばミミのちゃんとした料理なんてあんまり食べたことなかったな。朝はトーストを焼いてスーパーのサラダを添えてあるだけだし、夜も惣菜コーナーのものばっかりだったし…。)
「…まぁ、見た目はどうあれ美味しければいいもんな!いただきます!」
「たーんと召し上がりなさい♪」
熱々の唐揚げを一口食べた。
「………んー、、」
(キュー……)
「な、なによ?美味しいでしょ?」
「んー、…まぁ、美味しいよ。」
「なによ!?“まぁ”って!!失礼ね!サラダも食べてみなさいよ!!」
サラダを口に運んだ。
「んー、、、んー、」
(キューン……)
「え?サラダよ?サラダが不味くなるわけないでしょ?」
「いや、まぁ、美味しいよ。」
「〜〜!!なによその言い方!!ほんっとムカつく!!作ってくれた者に対する態度がそれなの?!もう食べなくていいわよ!私が食べる!!」
彼女は皿を取り上げて唐揚げを一口噛んだ。
「…あ、。」
「な?まぁ、美味しいだろ?」
「……薄味ね…。」
「揚げたてなら充分美味しく食べられるよ。マヨネーズとかつけてもより美味しいかもな。」
「……なにそれ。言いたいことあるならちゃんと言ってよ…。」
「…んー、なら言うけど、この唐揚げ、下味つけたか?さっき見た感じつけてるようには見えなかったけど。」
「……したあじってなによ。」
「肉にあらかじめ味付けしておくことだよ。そうしないと、衣だけが味付いて、中身が味しないだろ?」
「…私は薄味好きだからそんなの要らない。」
「薄味とかそういう問題じゃないんだよ。薄く味付けしてるのと、無味は違う。ついでに言うと、サラダの水ちゃんと切ったか?野菜に水分がつき過ぎてベチョベチョになってたよ。まぁ、ドレッシングつければそれはいいんだけど、問題はその水が隣の唐揚げの衣にまで侵食して、衣が水を吸ってたことだな。サクサクのなくなった無味の唐揚げは結構キツいぞ?」
「………。」
「あとは、レタスを千切るのはわかるんだけど、キャベツはどうかな?っていうか、そもそもそのふたつだけのサラダなんてあんまり見ないし、食感的に言えば……」
「…なによ、」
「…え?」
「黙って聞いてたら言いたい放題言うんじゃないわよ!バカ!アホ!!誰のために作ったと思ってんのよ!!」
「ええ!?“言いたいことあるならちゃんと言え”って言ったからおれは…」
「うるさい!ボケ!カス!!◯ね!!」
「小学生かよ……。」
ミミは涙を浮かべておれに怒鳴っていた。
「…とりあえずさ、せっかく作ってくれたんだから食べるよ。食べれないほどのものじゃないし、少しだけ手加えるぞ?」
「………勝手にしなさいよ。」
おれはマヨネーズにラー油を少し垂らして混ぜたものを唐揚げの上に塗り、その上からブラックペッパーを軽く振りかけた。
「まぁ、こんな感じだろ。あんまり料理変えちゃ悪いからな。では改めて、いただきます…!……うん!中々イケるな!」
(キューウン♪キューウン♪)
「お、イブキも気に入ったかー?でも揚げ物は程々にしろよー?」
(キューウ♪)
「ミミも食べよう?サラダは別の皿に盛ったからもう水問題は…」
「要らない!」
「え?なに怒ってるんだよ。」
「要らない!お腹減ってない!寝る!」
(バタンっ…!)
ミミは寝室へ行ってしまった。
「んー、おれはどうすりゃ良かったんだよ。なぁイブキ。」
(キュゥン?)
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルはDREAMS COME TRUEさんの楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




