Perfect
翌日、四人揃って二日酔いのおれ達は神殿の中に歩みを進めた。
青ざめた顔のおれ達を怪しげに見ていた神殿の受付嬢にバンド名を伝えると、態度を一変して丁重に中へ招かれた。
神の部屋へ案内されたが、まだその部屋には誰もいなかった。おれ達四人は、広い部屋で佇んでいた。
「あー、頭痛い……ストイ様いないぞ?寝坊か?」
「ば、馬鹿言わないでくださいヒビキ君!ストイ様のような神が寝坊なんてするわけありません!あまり神を愚弄するようなことを言うのであれば、ボクが許しませんよ!」
「ご、ごめんごめんアリア、そんなに声を上げないでくれ…頭に響く……」
「そ、そうですね…ボクも声を上げるたびに頭が……。」
そのまま一時間は待った。約束の時間は遠に過ぎていて、“帰ろうか”なんて話も挙がっていた。
(ギィ……)
扉の開く音がして振り返ると、ストイ様の姿があった。少し俯き加減だった。
「すまない、遅れた。……寝坊した。」
「…………。」
おれがアリアの方を見ると、何も言い返せないような顔をしていた。
「………昨日、ブラウンの取り調べの後、シャーロットの神達と酒盛りをしてな、、。シャーロットの酒はワシには合わん……強すぎた……。」
そう言いながらトボトボと席へ向かう神を他所目にアリアを見ると、何も言い返せないような顔をしていた。
「……さて、まずはカードを返してもらおう……。ヒビキ殿、こちらへ。」
おれは恐る恐る神にカードを渡した。
「ほぉ……昨日は楽しめたか?遠慮などしておらぬといいが…………ん?」
おれ達は全員顔を逸らした。
「………100カーズ……?」
おれ達は全員顔を逸らし続けた。
「………!??お前達…!!昨日一晩で100カーズも使ったというのか?」
「……(タマが言えよ)。」
「(はぁ?お前が言えよ!)」
「(み、ミミが言うべきかと…)」
「(えー?なんで私なのよ?!)」
「……コソコソと何を話している!!誰でもいいから言わんか…!?」
女神三人に背中を押されたおれがストイ様の前にたった。
「あ、あー、、、昨日の夜、どうせならコープランドの美味しいお酒を頂こうと思いまして、、タマが勧めてくれた店に行ったんですけど、、、その、割といいお酒を頼んだら……あはは、、。」
「…“割といいお酒”とな?…一晩で、日本円で1,000万円も使ったのか?お前達は。」
「あー………あはは、、。」
席に座っている神の後ろからゴゴゴゴといった擬音が見えた気がした。
「…………。」
「…………あの、ストイ様……」
「……ふっ……わーっはっはっはっはっ…!!!!」
神は高らかに笑っていた。
「……?」
「はっはっはっ!!そうだな!“奢り”と言われて遠慮などしてはならん!!そんなことをする奥ゆかしさなど、そなた達には相応しくない!豪快に楽しまなければな!!はっはっはっ!ますます気に入ったぞ!!」
ストイという神も、かなり変人らしい。1,000万円を一晩で勝手に使ったおれ達を気に入ってくれたみたいだ。
「あ、あはは…。」
「はっはっはっ!実に愉快だ!……さて、待たせたな。昨日の報告をしよう。」
「は、はい!」
「ブラウンは、神殿で全てを白状した。地球人に恨みを抱いていたことやコープランドへの妬み、今までの所業を洗いざらい…。」
「そうですか…。」
「…しかしな、違約金に関しては本当に書き忘れていたそうだ。…正確に言えば、そもそも書く気が始めからなかったらしい。」
「え?」
「…ヒミアスタがそんなに観客を呼べるはずがないと、タカを括っていたみたいでな。あの強制終了は、奴の最後の手段だったようだ。」
「……なるほど。」
「だが、ワシもそれでは引き下がれん。違約金は、以前そなた達が支払った額の半額、250カーズということになった。そして、契約通り20万人の視聴者を集めたとして500カーズ。占めて750カーズを奴から支払う手筈となった。奴の書面の改竄に関しては、一度申請が下りてしまっていてな、一ヶ月前の500カーズはどうしようもできない。それだけは諦めてくれ。」
「おお!!それなら、おれ達の稼ぎは前と合わせてもプラスになります!ありがとうございます!書面に関しては、勉強代だと思って諦めますよ。おかげで今がありますから。」
「…ふっ、そうか。では、これがその750カーズだ。」
(ドサっ……)
「おお!」
「そして、これがワシからの……」
(ドっ…)
「ん?」
「250カーズだ。併せて1,000カーズになる。」
「……え?」
「うむ、本来ブラウンからはしっかりと1,000カーズを支払わせようと思っていたからな。これはそれをできなかったワシからの詫びの印だ。」
「………。」
「どうした?受け取れ。」
「………そのお詫びは結構です。」
「なんだと?」
「そういうお金は要らないっす。」
「…おぬし、ワシが一度出した金を懐に戻せと言うのか?」
「…そうなりますね。恥をかかせてすいませんが、おれはちゃんと750カーズだけもらいます。」
「ひ、ヒビキ君!ストイ様に対して態度が良くないですよ!」
「ヒビキー?貰えるものは貰ったら良いじゃない?」
「本当だぞー?じーさんがくれるって言ってんだからよー。」
「……メンバーはこう言っておるぞ?」
「…いや、これはおれのプライドの問題です。」
「………。」
「………。」
「ふっ……はっはっはっ!なんとも面白い魂だ!!!」
また神は高笑いをした。
「おぬしがそこまで言うならこの金は懐に戻そう!」
「…ありがとうございます。」
おれは750カーズを受け取った。
「…して、なぜシャーロットを活動再開最初のライブ場所に選んだ?」
「え?あー、それはタマの提案で…、まぁリベンジも兼ねていましたから…。」
「…はっきり言うと、そのような行為はコープランドの民の顰蹙を買うことになるぞ?」
「え?そうですか?」
「無論だ。そなた達のライブを待っているコープランド民も多くおるのに、それに目もくれずシャーロットに向けてのライブなど、嫌がる者もいるとは思わんのか?」
「まぁ、確かに言われてみれば…。」
「もう少しヒミアスタ、もといヒミツの時代からそなた達を応援している者達のことを考えろ。更に言えばヒビキ殿が一人でストリートライブをしておった頃からも含めてだ。」
「…はい、そうですね。」
「そして、シャーロットの方で先に新曲を演奏するなど、羨ましいて仕方ない。そういった行為も慎重にするように。」
「……?はぁ、わかりました。」
「もう少し言うならな、激しい曲も良いがそなたの美しいギターの音色をもっと聴けるような曲構成での新曲を作るように心がけろ。『クラゲと静寂』や『カラフル』のようなテイストの楽曲制作をワシは所望する。まぁ、アクセントとして昨日の新曲のような激しいものもいいスパイスにはなるがな。」
「…………。」
「どうした?」
「………あの、いつからおれ達のことを?」
「…ふっ!無論、そなたの一発目のストリートライブから、ワシはすべて観ておる。投げ銭もしたぞ。」
「…………。」
「どうした?」
「…………あの、昨日あの場所にいたのって、、」
「…ふっ!無論!ヒミアスタとしての初ライブを生で観るためだ!」
「………つまり、その、ストイ様は…」
「ファンだ!古参のファンと呼んでもらっても構わん。ちなみに言うと、ワシはヒビキ殿推しだ!そなたのギターの音は実に不思議だ。到底ギターが奏でている音とは思えん美しい音がする。」
「………み、ミミは、知ってたのか?」
おれは首を回して彼女に問いかけた。
「……今知ったわ……神でも人でも、驚きすぎたら冷静になるものね……。前に神殿の神が君のギターを褒めてたって話したの覚えてる?………そういえば、それ言ってたのはストイさんだったよ……。」
「へ、へぇ………。」
「どこを見ておる?ワシを見ろ。」
神に言われて顔を前に戻すと、マジックペンと色紙を持ったストイ様が近くにいた。
「是非、これにサインを。」
「………はい。」
おれはメンバーにサイン色紙を回した。タマ以外は驚きを隠せないような顔をしていた。
「そう言えば三人ってサインあるのか?」
「サインって、適当な落書きでしょ?」
「ぼ、ボクは契約書にサインするのが仕事みたいなものなので…。」
「アタシは昔から練習してたからなー♪使ったことねーけど♪」
「まぁ、適当に四隅のどこかに書いてくれ……。」
サイン色紙にメンバーの名前と真ん中にバンド名を書き終え、ストイ様に渡そうとした。
「こちら、サインになります。」
「…………。」
「あ、あのストイ様……?」
「………名前も添えてくれ。」
「……は?」
「どこかにワシの名前を添えてくれ。“ストイ=フェルナンデル君へ”と。」
「………はい。」
頭の中の神像がボロボロと崩れていくような音がした。
「で、では、こちらで…。」
「うむ。確かに。……もう一枚だ。」
神が更に空白の色紙を差し出した。
「え?これは誰の?」
「ヒビキ殿、その色紙にはそなたのサインをデカデカと書いてくれ。あと、バンド名とワシの名前、それに日付も頼む。」
「…………はい。」
こんなことなら250カーズもらっても良かったかと一瞬、邪な気持ちが横切った。
「書き終えました。こちらになります。」
「…うむ。礼を言う。永久に色褪せぬよう特別なコーティングを施して頑丈なクリアケースにて保管する。」
「そうですか……。」
「…して、ヒミアスタよ、改めて昨日のライブ、見事であった。……タマよ。」
「ん?アタシかい?」
「お前は初のライブだったな。初ライブにしては上出来だ。だが、粗い面が多く見受けられた。これからも練習を怠らぬように。」
「なんだよそれ。はいはい。」
「…アリアよ。」
「は、はい!」
「お前は実に鮮やかなベースを弾くな。このバンドのバランスを上手く取っている。より良いリズムの土台を作るよう、タマの練習にも付き合うように。」
「は、はい!承知致しました!……ストイ様に褒められた……えへへ…。」
「…ミミ。」
「はい。」
「お前があんなに美しい声を持っているということに驚きだ。お前の良さはヒビキ殿が引き出してくれるだろう。ヒビキ殿の言葉を真摯に受け止めるように。」
「…わかりました。」
「ヒビキ殿。」
「はい!」
「ワシの曲を作ってくれても構わんぞ?」
「……え、いや、あの何かそのおれにもアドバイス的なことは……。」
「…ワシの曲を作ってみても一向に構わんぞ?」
「は、はい。善処します…。」
そうやって一人ひとりに優しくも強く声をかける神は、もう神というよりかは父親のように見えた。
これでようやく神殿から出られるような気がしていた。
「では、おれ達はこれで……」
「最後に!」
「ま、まだ何か…?」
「ワシからの頼みを聞いてもらえぬか?」
「えーっと、、」
「おいじーさん!しつこいぜ!さっきサインもしただろ!いい加減早く帰らせてくれよ!」
おれの気持ちを全てタマが言葉にしてくれた。
「タマよ……昨日お前達が打ち上げで使った額をもう忘れたか?」
「あー、、なはは♪なんなりとー♪」
「………で、ストイ様、頼みというのは…?」
「うむ。この部屋は防音ではない。」
「…ん?もしかして、、ここで演奏しろとか言いませんよね……?」
「ドラムやベースの音は他の部屋に響いてしまうからな。ヒミツのふたりで一曲だけ演奏してもらえぬか?」
「…マジっすか?」
「本気だ。」
「………ミミ、喉は大丈夫か?」
「ん?私ならいつでもどこでも大丈夫よ♪」
「……はぁ。わかりました。一曲ですね。何か希望の歌はありますか?ストイ様の好きな曲とか。」
「おお!頼みを聞いてくれるか!感謝致すぞ!……そうだな。好きな曲と聞かれれば全部と答えるが、、、うーむ。初期の頃の曲が聴きたいが、『咲った』か、いや、やはり『カラフル』か……。」
「………では、こうしませんか?『咲った』はおれからストイ様へ捧げます。で、『カラフル』も演奏するんで、そちらは演奏料として50カーズ、なんてのは?」
おれは笑顔でそう尋ねた。
「…………はっはっはっはっ!!それは実に良い提案だ!そなたのそういうところが中々に気に入っておるぞ!承知した!50カーズだ、受け取れ!」
(ドっ…)
「ありがとうございます!それでは!ミミ、久しぶりにふたりだけだな。大丈夫か?」
「君は本当に神に媚びるのが上手よねー。的確な値段設定だわ。…私ならいつでも準備万端よ!君がギターを弾くならいつでも歌ってあげる!」
こうして二曲演奏した後、余韻に浸るストイ様を一人残しておれ達は神殿を出た。おれ達の手元に入ったのは750カーズと50カーズ。合計800カーズだ。おれの手元にあるお金を全部足して、その額は1,700カーズを超えた。3,000カーズの頂上が少しずつ見えてきた気がした。
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルはSimple Planの楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




