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それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
40/59

only shallow



“ばんは”

“ばんわ”

“なんか見たことある名前”

“またこいつらかよ”

“おいボーカル謝れ”

“謝罪しろ”

“謝罪の言葉は?”

“弁明してみろw”

“お前らのことは嫌いだからみねーよ”

“名前変えてるw”

“きも”

“ドラム入れてるw”

“女ばっかやん、きも”

“男の狙いきもすぎ”

“早よ消えろ”




配信開始して、まだ一曲目のイントロなのに非難のコメントが乱立した。

そうなることは大体わかっていたし、メンバーでも共有していた。

おれ達は一曲目の『弱虫』を演奏した。これはドラムがいないと成立しない新曲で、楽器隊が轟音を鳴らす中でミミの美声が乗って響く、激しく美しい曲だ。



“お?”

“曲変わった?”

“こんな曲やるバンドなん?悪くない”

“シャーロット向けに作ったのが見え見え”

“ドラム素人?”

“体格の割にドラム慎重ww”

“ベースの子だけで抜けるバンドwww”




コメントが肯定的なものに少しずつ傾いたものの、変わらず酷いものが多かった。一曲目が終わった時点で視聴者は5万人を超えていた。


二曲目に入る前にミミが口を開いた。



「こんばんは。ヒミアス改め、ヒミアスタです。私達は一ヶ月間活動をお休みしていました。……というか、活動停止を命じられていました。それは、一ヶ月前のここでの配信ライブが理由です。……その時は、シャーロットのみなさんを挑発するような言葉を吐いてしまい、申し訳ありませんでした。」



“謝ってる!w”

“コープランド民が見下してる証拠だな”

“何があったん?ワイ知らん”

“知らんやつはかえれ”

“よくわからんが脱いだら許してやる”

“謹慎www”

“お勤めご苦労様です”

“永遠に活動停止してろや”



心無いコメントを読みながら、ミミは次の言葉を出した。



「新メンバーのドラムを入れて今日はリベンジしに来ました。よろしくお願いします。」


「ワン、ツー、スリー、フォー!」


タマがスティックと口でカウントを打った。二曲目はタマと初めて合わせた『コイン』だ。



“悪くない”

“前よりかはマシになってる”

“ドラム入った意味がわからん”

“ドラムもエロいだけか”

“もっとこいよ!ドラム”

“もっとガツンとこい”

“これだからコープランド民は軟弱なんだよ”



コメントが続々と流れる。それに反論する気はなかった。


むしろ、おれは共感した。


タマの方に振り向いたが、ドラムを叩くことに集中するタマは気付く様子もない。


「タマ!タマ!!!」


爆音が包む中で彼女を必死で呼んで目に入るように足を出した。


「……っ!??」


汗だけのタマはおれの合図に気付いた。おれは、彼女に不敵な笑顔を見せてわかりやすく大きく口を開いた。



「(下手くそ)」


「っ?!!!……〜〜〜!!!!」


「(もっとこいよ、アホ)」


「〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」



今にでも殴りかかるような剣幕で彼女がおれを睨んだ。おれは笑いながら背中を向けると、ドラムの音が一気に大きく鳴った。違和感にも思えるほどのその怨霊差、そして、それに反比例してドラムのリズムの揺れは激しくなった。


アリアが異変にすぐに気付いておれを見た。軽く頷くと、彼女は全てを察したように少し笑みを見せて軽く頷いた。そしてタマの方に体を向けた。


タマがヨレるリズムを、アリアは上手くベースでフォローして、リズムがズレていないようにして弾いてみせた。彼女の本当に長けたスキルはコレだと確信していた。


タマの暴れ馬の爆音ドラムをアリアが乗りこなす。おれが見たかったリズム隊の絵はこれだった。



“お?”

“ドラムやば”

“急にデカくなったな”

“いかつない?ドラム”

“これこれ”

“おお”

“いいな”

“リズムめちゃくちゃなのになんか聴けるな”

“ドラム壊れるか心配になるくらいデカいな”

“ええやん”



コメントが徐々に変わり始めた。そして二曲目が終了した。タオルで汗を拭きながらタマはまだおれを鬼の形相で睨み続けている。


「タマ!」


「!?」


アリアがタマに呼びかけて、優しい顔て笑った。そして、おれと同じように声に出さずに口を大きく開けた。



「…(下手くそ)」


「〜〜〜〜!!!??!!!!」



タマは顔を真っ赤にして怒っていた。

おれは笑いながら三曲目のフレーズを弾き始めた。三曲目も新曲の『クロスカウンター』だ。これは前回のシャーロットの一件に対してぶつけた曲。この日のための曲と言っても過言じゃない。そしてこの曲の主役は、激しいドラムだ。



“やばこの曲”

“くそかっこいい”

“前とは別バンドじゃん”

“いいね!”

“最高!!”

“ドラム最高”

“うおおお!”

“見に来てよかった”



流れるコメントに批判の声がどんどんなくなっていった。おれも演奏していてこんなに楽しい気持ちになったのは久しぶりだ。タマの方を見ると、怒っていた顔に少し笑顔が見えた。


続けて四曲目は『情景』。アリアのことを思って作ったことをタマに伝えていたおかげか、タマはアリアの顔を見ていた。視聴者数は知らない間に20万人を軽く超えていた。

五曲目に入る前に、ミミがMCをした。


「今日は久しぶりのライブだし、新曲も沢山なので少し緊張したけど、見てくれているみんなのおかげで楽しく歌えています。ありがとう。私達はあと二曲で終わります。最後まで楽しんでください。では、またいつか。良い夜を。」



“もっとやれよ!”

“もっと聴きてーよ”

“またシャーロットでライブしてくれ!”

“今度は生でライブしてくれ!”

“お前らならシャーロットに踏み込むことを許す”

“こちらこそありがとう”

“なんか泣けてきたわ”



おれ達はコメントを見ながら五曲目を始めた。新曲『ロータス』だ。この曲はタマを思いながら作った曲で、スロウテンポなのに激しい轟音、そこにリバーブの効いたミミの声が乗る。この曲を今日、一番演奏したかったんだ。



“やばいやばい”

“こいつら何人だ?”

“ドラム壊れるって”

“スティック折れないか心配”

“スティック折れても手で叩きそうwそれもまた良し”

“ギター歪み最高”

“ギターそんな轟音出せるのかよ始めから出しとけ好きだ”

“地味にベースがいい仕事してる”

“ベースいないとバラバラだろ”



楽器人を褒め称えるコメントが増えた。そんな中で、たったひとつのコメントがその雰囲気を変えた。



“ってかやっぱボーカル良すぎない?”



“そらそうやろ”

“この轟音の中にこの美声はズルいな”

“超良い声”

“神がかった声”

“こんなに激しい曲なのに浄化されそう”

“心が洗われる”

“明日も頑張れそうだわ”

“クソ面白いバンド。また来いよ”

“歌うますぎだけのバンドじゃなくなったな”

“なんだかんだボーカルが最高”

“ボーカルに投げ銭するわ”

“知り合いにも連絡した。これは見なあかん”

“たしかに、教えよ”

“あと二曲だけど教えよ”



正直、シャーロットで評価される方がコープランドの評価より確かな手応えを感じた。ここの世界の住人は良いものを“良い”と言い、悪いものには“悪い”とはっきり言ってくる。この世界の人達が放つ言葉には、コープランドの人達以上の信憑性を感じた。



視聴者数の方に目を向けると、信じられない速度で視聴者が増えていた。もう28万人。30万人を超えると約束の1,000カーズが手に入る。おれはこの時、あまりそれに喜びを感じていなかった。どちらかと言えば今四人で鳴らしているこの音にずっと包まれていたい気持ちだった。


視聴者数がすぐに29万人になった。まだあと一曲ある。余裕で30万人は超えるだろう。




(プチュン…)




突然画面が真っ黒になった。この風景には見覚えがある。一ヶ月前に強制終了された瞬間の時と同じだ。

ミミがそれに気付いて歌うのをやめると、全員の演奏が止まった。

画面がまた明るくなり、そこには見覚えのある神が映っていた。



「オホホ♪大変失礼しました〜。こちらの手違いで配信が切れてしまいましてね♪」


「……はぁ?」


「申し訳ありませんねぇ〜。ただ、起こってしまったことは仕方ありません♪また今から回線を復帰してライブをするにも時間が掛かるため、本日はここで終了ということで♪」


笑いながらブラウンはそう言った。

おれはすぐに口を開いた。


「いや!そんな!せっかく良い感じだったのに!」


「そうですよね〜。ですが、投げ銭の5,000ロゼスと、契約の500カーズは貴方達のものですよ?オホホっ♪」


「え、だって、もうすぐ30万人だったと…。」


「それに関しては事実ではありませんので。“30万人に達していたかもしれない”なんて、架空の話だけでわたくしもお支払いはできませんよ、ヒビキ君?♪」


「いや、でも…」


「ブラウンさん。」


少し腰が引けたおれに代わってミミが口を開いた。


「視聴者数が30万人に達しようとしたから急いで強制終了したんじゃないですか?」


「オホホっ♪ミミさん!わたくしがそんなセコいことすると思いますか?♪」


「思うから聞いているんですよ。あなたはヒビキや私達がコープランドにいることを妬んで、嫌がらせをしていたんじゃないですか?」


「そーんな言いがかりはよして下さいよ♪どこかに証拠でもお有りですか?」


「………無かったとしても、今回の件は(れっき)とした契約違反です。違約金は払っていただきます。」


「オホホホホっ♪それがですね?わたくしのミスでもあるんですが、こちらが違反した際の違約金のことは書き忘れていたんですよ〜♪でも、しっかり書面には目を通していただいてサインを頂戴しましたので、申し訳ありませんが違約金なんて存在しません♪」


「……どこまであなたは……。」


ミミが拳を握りしめていた。


おれがそんなミミの拳を見ていると、後ろから殺気を感じた。


「……ハァハァ、おいヒビキ。…お前この世界で死ねないことは知ってるよな……?」


「わっ!?た、タマ!!なんだよ?!」


「……この世界では死が存在しないんだよ…。つまり、アタシがお前を殺すほど殴ってもお前は死より辛い痛みをずっと感じなきゃいけねぇんだ……ハァハァ……。」


「た、タマ、さん?」


「……お前、さっきアタシになんて言ったか、正直に言ってみろ。一言一句間違えずに。もし間違えたら……」


「えー………あはは、、。」


「た、タマ!」


アリアがおら達二人に駆け寄ってきた。


「っ!?なんだよアリア!お前はヒビキの後だ!!ちょっと待ってろ!」


「と、途中から凄い良いドラムでしたよ!ヒビキ君のおかげで緊張がほぐれたみたいですね?!」


「………ん?」


「ひ、ヒビキ君はタマが上手に叩こうと身体が縮こまってたのを“気にしなくて良い”って言ってたんです。タマはいっぱい練習して、フレーズは身体が覚えているんだから。」


「………今なんて言った?」


「だ、だからヒビキ君は!…」


「その前…なんて言った?」


「え?途中から凄く良いドラムだったって……。」


「………なははははは!!!そりゃそうさ!!アタシの才能が爆発したぜー!!ヒビキは!?どうだったんだよ?!」


「そ、そりゃー良かったぞ?!」


「なははははー!!そうかそうか!!お前に緊張をほぐされた覚えはないけどよー!」


笑いながらタマはおれの背中をバシバシと何度も叩いた。それなりに痛かったけど、死ぬほど殴られるのに比べれば痒くもなかった。


「でも、本当に初ライブとは思えない演奏だったよ。まじでドラムの才能爆発したかもな!初ライブお疲れ様!」


「ぼ、ボクもビックリです!初ライブであんなに堂々としてるなんて!」


「なはは!!褒めるな褒めるな!!」




「あんた達!!何騒いでんのよ!!こっちは契約のこと話してんのよ?!」


「オホホっ♪仲が良さそうで何よりですね♪では、500カーズは今すぐ用意致しますので、少々お待ちを♪」


「ま、待ちなさい!あなたとの話はまだ済んでない!!」


「オホホ♪何度話しても同じですよ?責めるならサインをする前に事前に聞かなかった自分達を責めて下さい♪」


「う〜………。」






「ミミ、そしてヒミアスタのメンバー達よ。この話、ワシが預からせてもらおう。」





「ん?」


ブラウンを含めたおれ達はどこからともなく聞こえた声の主を探した。


「あ、貴方は!!」


ブラウンがドラムの方を見て大声を上げた。おれが後ろを振り返ると、そこには白いローブに身を包んだ白髪の老人が凛と佇んでいた。





お読みいただきありがとうございます。

今回のタイトルは、my bloody valentineの楽曲から拝借致しました。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。

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