ハネウマライダー
ヒミアスの活動停止から三週間と少しが経った時、アリアから“ミミとふたりでタマのドラムを見てほしい”と言われた。
ミミは最近歌う機会も少なかったためか、割とワクワクしながらいつもの草原へ向かった。おれもおれで、この期間でタマさんがどれだけ上達したのか見るのは楽しみだった。
「アリアー♪」
「ミミ!お、お久しぶりです!」
「タマも久しぶりだねー?どう?少しは上手くなったのー?」
「……チッ!性格の悪い聞き方すんなミミ!…まぁ、やれることはやったよ。」
以前の威勢が良かったタマさんとは少し変わって、潮らしくなっていた。
「ふぅーん、何だかおとなしいわね。まぁいいわ♪見せてもらうわね!ヒビキ!しっかり見てあげてね!」
「お、おう、、。」
アリアはタマの横についた。
「じゃぁ、タマ。エイトビート叩けますか?」
「よ、よし!」
(ドッツッタッドドツッタッツ………♪)
「裏打ちにしてください。」
(ドッツッドッツッドッツッドッツッ……♪)
「16ビート。」
(ドッツッタッツタツッタ!ツタドッツッタッツタツッタ…………♪)
「へぇー!割と叩けてるんじゃない?すごいわねー!ヒビキ!……ヒビキ?」
「………。」
確かにタマさんは正確にリズムを刻めるようになっていた。ただ、どこか引っかかった。何か思っていた感じとは違っていたんだ。
「オーケー!タマ、止めてください。」
「……ハァハァ……ど、どうだ?」
(パチパチパチパチパチパチ…!)
「すごいわよ!タマ!正直驚いたわ!アリアも!どんなマジック使ったのよ!」
「えへへ…。」
「は、ハハっ!そうだろ!?自分の才能が怖いぜー!」
「タマさん……楽しいですか?ドラム。」
「はぁ?楽しいっていうか、、今はそんなこと考えてる暇ねぇよ。」
「叩いてる間、ずっと難しそうな顔してましたね。」
「あ、当たり前だろ!?こちとら真剣にやってんだよ!」
「そうよヒビキ!そんなすぐに笑えるようになれるわけないじゃない!ねぇアリア!?」
「………ひ、ヒビキ君が言いたいことはわかります。」
「ヒビキが言いたいこと?」
「…タマさん、おれ達と一緒に合わせてみましょうか?この間ヒミアスの曲も練習してましたよね?」
「あ、ああ…。お前から送られてきたデモ聴いてアリアが教えてくれたよ。ただ、完璧に叩けるかは……」
「完璧とか要りませんから、合わせましょう。ミミ、ギター出してもらえるか?アリアもベースの準備を。」
「何なんだよお前。一応言っておくけど、アタシは神だぞ?」
「はは!そういうの気にするタイプだったんですね!意外です。」
「………。」
全員の準備が整った。タマさんのリクエストで『コイン』を合わせることにした。
「……何してるんですか?タマさん。」
「あぁ?」
「ほら、入る時のカウント打ってもらわないと!」
「え、あ、あぁ…せ、せーの…」
「違う違う!スティックでカウント打つんですよ。アリア、教えてないのか?」
「あ…す、すいません…。」
「はぁ…スティックを交差させて音鳴らすだけの簡単な行為ですよ。幼稚園児でもできます。できますか?」
「……お、おう…。」
(カッカッカッカッ)
コインのイントロが始まった。タマさんは割と安定した演奏をしていた。顔を見るとすごく真剣で、下唇を噛み締めながらドラムを叩いていた。
おれは、こんなドラムを彼女に期待していなかったんだ。とてもつまらなかった。
タマさんの方を見た。彼女はこちらを見ずにドラムを見つめている。
「タマ!!!!」
演奏中におれは彼女に向かって名前を呼び捨てた。
「っ!!??」
ようやく彼女がおれに気付いた。
おれはギターやベース、ドラムが爆音で鳴り響く中、彼女だけに届くように笑いながら大きな口を開けて言葉を伝えた。
「(つまんねぇんだよ、そんなドラム。もっと来いよ、下手くそ。)」
「〜〜〜〜!!!!!」
彼女の顔がどんどん変わって、おれを睨みつけた。
そして、ドラムの音は安定感を少しずつ失いながら音がどんどん大きくなっていった。
リズムのヨレに気づいたアリアがおれ達のやり取りを見て、何かを察してくれた。おれがアリアを見て頷くと、彼女も首を縦に振った。
暴れ馬のようなドラムはおれの心を踊らせた。さすがにリズムと音の変化にミミも気付いたみたいでおれの方を窺っていたが、おれが笑っているのを見て安心したのか、楽しそうに歌い続けた。
ドラムは安定感をどんどん崩していきながら、アリアが彼女の顔を見つめて少しずつ正しいルートに誘導していく。アリアは不自然にならない程度にリズムをコントロールしながら、それに気づかないタマさんの好き放題に叩かせていた。
おれが彼女に求めたドラムの形はまさに今の状態だった。まだまだ安定感は必要だけど、彼女らしいドラムはこれだ。
『コイン』のアウトロを終えると、すぐさま彼女は怒りながらおれに駆け寄ってきた。
「おいこら…。お前人間の分際でアタシを呼び捨てにしたな!?その後言った言葉も全部聞こえてんだよ!!」
「あははー……ごめんよ、タマ…。」
「また呼び捨てにしやがった!!こいつ、神を何だと思ってやがる!!アリア!ミミ!こいつをボコボコに……なんでお前ら全員笑ってんだよ?」
「あはは♪タマ!今のドラム!すごい素敵だったわ!あなたらしくて良いじゃない!」
「うふふ♪そ、そうですね、リズムはバラバラでしたけど、やっぱりタマらしいドラムがいいです。」
「悪かったよタマ。タマらしくないクソ真面目な顔でドラム叩くよりも、感情の乗ったドラムを叩くタマの方がおれは好きなんだよ。」
「な、なんだよ!?笑うな!うるせぇ!じゃぁ今までの練習は無駄ってことかよ!」
「そ、それは違いますよ、タマ。ちゃんと練習してたからリズムを刻めたんです。これから練習していったら、感情を乗せても乱れないリズムになりますよ。」
「あ、アリア……。それよりアタシの合否はどうなってんだよ!!!??さっさと伝えやがれ!!」
「………あははは!♪」
「…………うふふふ!♪」
「な、なんでふたりして笑うんだよぉ?」
「タマ!メンバーに入ったら対等の立場になるのがこのバンドの条件よ♪」
「なんだよ、ミミ。それくらいお前達のやり取り見てたらわかるっつーの。」
「た、タマは、気付かないんですか…?うふふ♪」
「はぁん…?!」
「タマ!よろしくな!」
(ポンっ♪)
おれはタマの肩を軽く叩いた。
「……あー!そういうことかよ!?…なんだー!ヒビキー!お前性格悪いんだよー!♪このヤロー!なはは♪」
こうして、おれ達のバンドにドラムが入った。それもとびきり上等な暴れ馬が。
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルはポルノグラフィティさんの楽曲より拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




