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それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
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すみれの花咲く頃



ヒミアスの活動停止から2週間が経った。

おれはその間、新しい曲を考えるよりも既存曲につけるドラムフレーズを考えていた。シティエストに聞いたところ、頭の中のフレーズを機械的に打ち込めるソフトが販売されているらしく、早速それを注文してドラムを打ち込んだ。現世でPCを使って打ち込んでいた時よりも格段に早く打ち込むことはできたが、その分疲労感がすごかった。

タマさんがメンバーとして加入した時も想定して、どの曲もドラムフレーズはそこまで難しくないリズムパターンにした。元々難しいドラムフレーズよりもシンプルなものの方が好みではあったので、個人的には全く問題なかった。



その日、大体の曲のドラムフレーズが固まってきたので、新曲制作のために草原に行った。コープランドの夏は空気が乾燥していて苦しいほどに暑くはなかった。




(……ドッツッタッドドッツタッ!)


「ほら!またズレました!」


「あーー!!!なんでだよ!!?くぞー!!」


「タマさん、今日もお疲れ様です。どうですか調子は?」


「なんだヒビキかよー。調子はいいんだけどよー、アリアが厳しいんだよー。ちょーっとズレただけでアタシを怒鳴るんだ。」


「ぼ、ボクは怒鳴ってなんか、!…ひ、ヒビキ君、お疲れ様です…。今日は曲作りですか?」


「アリアもお疲れ様。そうだな。久しぶりにいい曲ができそうな気がしてな。」


「ふん!何アーティスト気取ってんだよ!“久しぶりにいい曲できそうだ”なんて、誰だって言えるわ!いい曲作ってから言いやがれ!」


「こ、こらタマ!なんでそんな悪態つくんですか!?」


「…ふん!」


「はは…。ドラム叩けなくてイライラする気持ちはわかるけど、ドラムに怒りぶつけてもいいドラムは叩けないと思いますよー?」


「うっ…!」


「タマさんは元々体格も恵まれていて力もあるんですから、普通に叩くだけでもきっとしっかりいい音出ますよ。」


「う、うるせー!なんかよぉ、思ってたより窮屈なんだよ。ドラムってもっと振りかぶるもんじゃねぇのかよ…。」


「んー…ん??これ、アリアがドラムセットを組んだのか?」


「は、はい!ボクが椅子に座って、タマの身長にできるだけ合わせたつもりなんですが…。」


「へぇ……タマさん、少しドラム借りてもいいですか?」


「ん?嫌だ。これはアタシのだ。」


「一応金出したのはおれなんすけど…はは。」


「チッ….わかったよ!ほら!」


タマさんはドラム椅子から離れた。

おれはその椅子に座ってドラムセットとタマさんを交互に眺めた。


「なんだよお前、エロい目でアタシのこと見やがって。」


「見てねぇっすよ!………んー。」



おれはシンバルとドラムの各位置を調整した。



「タマさん、試しに一度これで叩いてみてくれませんか?」


「ああ?何も変わってねぇだろうが。ったく…。」



ぶつぶつと文句を言いながらドラム椅子に彼女が座った。



「……ん?」


「叩いてみてもらえますか?」


(ドッツッタッ♪ドドッツッタッツ♪)


「お、おお!!叩きやすい!叩きやすいぞ!どうだ!?アリア!叩けてただろ?!」


「は、はい……叩けて、ました、、嘘……こんなことで…?」


「タマさんは身長に対して腕と脚が長いんだよ。本当にモデルみたいに。椅子からの距離が腕の長さと合ってなかったから、窮屈になって変な力が入っちゃってたんだろうな。」


「ぼ、ボクのせいで…。」


「いや、それは違うよ。今タマさんが上手に叩き始めてるのは紛れもなくアリアの指導の賜物だ。おれは、タマさんの悩みを少し聞いただけだよ。」


「ひ、ヒビキ君…ありがとうございます。」


「うぉーー!!!これでなんでも叩けるぜぇ!!」


「あ、こら!タマ!またズレてます!!」




太陽みたいにメラメラと燃え盛るタマさんと、海みたいに穏やかで何でも受け止めるアリアは、まるで正反対の性格なのに、おれはその二人が合わさった時の反作用でエネルギーが爆発しそうな気がしていた。



その日、おれは二人の練習音がギリギリ聴こえる位置でまた二曲を作った。

『ロータス』と『ナイトステップ』。

轟音で激しく掻き鳴らす『ロータス』と、音数が少なくて小気味いいリズムが特徴の『ナイトステップ』は、まるでヒミアスのリズム隊の二人のようだった。







翌日も、その二曲を完成に近づけるために草原に行ったが、ドラムの音は鳴っていなかった。ドラムセットの前で三角座りをしているアリアが一人で俯いていた。



「アリア、おはよう。…タマさんは?」


「ヒビキ君…おはようございます。……た、タマは、来ていません…もう約束の時間を四十分も超えています……。ぽ、ボクのせいでしょうか?」


「……まぁ、タマさんなら寝坊してる可能性もあるからさ、ほら、昨日練習後にまた呑みすぎたとか?あはは…。」


「………。」


「……おれも待つよ。」



二人で並んで座ってタマさんを待った。日差しが少し暑くて汗ばんだ。アリア曰く、今年は猛暑の予定らしい。とは言え湿気などはなく、気持ちいいと思えるくらいにスッキリした猛暑だった。


アリアとタマさんの待ち合わせ時間から一時間を過ぎようとしていた。


「……ん?アリア、あれって……。」


「……タマ。」


小さい人影がだんだん近づいてくる。特に急ぐ様子もなく、トボトボとあくびをしながら歩いてきたのはタマさんだった。


「ふわぁ〜、、よぉー今日はヒビキも一緒かい?」


「ずいぶん眠そうですね……寝坊ですか?」


「寝坊…?何言ってんだ?まだ時間には…」



「…タマ!!!」



アリアが今までで一番大きな声で叫んだ。


「っ?!…なんだよぉ?ビックリしたぁ……。」


「寝坊してその態度は何!??」


「え?寝坊ってなんだよ。間に合ってるだろって…げっ!?見間違えてたっ!!一時間遅くきてたのかよアタシ…。」


「そ、そんな言い訳聞きたくない!!」


「いや、言い訳じゃなくてよぉ…」


「誰のためにヒビキ君とボクがここで待ってたと思ってるの?!」


「お、おれはたまたまここに来ただけだかr…」


「ヒビキ君は黙っててください!!」


「あ、はい…。」


「タマは!相手に対してよく偉そうなこと言ってるけど!!そんなこと言える立場?!少しは自分の立場理解しなさいよ!!」


「……アリア、ちょーっと言い過ぎじゃねぇか?いくらお前でもアタシには限界があるんだよ。あんまり舐めてるとお前のこt…」


「舐めてるのはどっちよ!!!!」



二人はすごい剣幕で睨み合っていた。

こんなアリアを見たのは初めてだった。そもそもタメ口で話すシラフのアリアなんて見たことなかったし、本人も怒ったりすることに慣れてないんだろう。彼女の目には涙が溢れていた。


先に痺れを切らしたのはタマさんだった。



「……チッ!アタシが悪かったよ!これで良いか?!」


「だめ!ちゃんと謝って!」


「だから今謝っただろうg…」


「ちゃんと謝って!!!」


「…………遅刻してごめんなさい。」


タマさんはゆっくり頭を下げた。

おれはアリアがこのままヒートアップするかと思って心配になった。


「あ、アリア……?」


「……!!ひ、ヒビキ君!?すいません!!す、少し取り乱してしまいました…!」


「少し、か……。」


「た、タマもこうして反省してるので、今回は大目に見てやっていただけませんか?」


「あの、おれは元々怒ってないから…はは…。それに…。」


おれはゆっくりタマさんに近づいた。


「タマさん、頭を上げて手見せてくれますか?」


「…なんでだよ。嫌だね。」


「……見せてもらえませんか?手のひら。」


彼女は上げた顔を横に向けながらしぶしぶと両手の手のひらをおれ達に見せた。


「こ、これって…?!」


「……スティックの握りすぎでマメが潰れたんだな。しかもまだ血が出てるってことは、ついさっき潰れたってことだよ。」



タマさんの手はマメが幾つもできて、幾つも潰れた痕があった。



「じゃ、じゃぁ…。」


「タマさんはたぶん、寝てないんだよ。寝坊じゃなくて、本当に時間を間違えただけだ。」


「う、うるせぇ!」



タマさんは恥ずかしそうに手を引っ込めた。



「た、タマ、あなた寝てないんですか?!」


「…知らねぇ。」


「寝ないと頭が整理できないから、少しでもいいので寝てくださいって言いましたよね?」


「…忘れた!」


「も、もしかして何日も寝てないの?!」


「………。」


「い、いくらここがコープランドでも疲労は存在するんですよ?!何でそんなに無茶してるんですか!!?」


「……う、うるせぇなぁ!!……アタシは下手くそだからよぉ、何倍も練習しなきゃいけねぇだろ?アポロンがたまたま電子ドラム持ってたから、五日前に借りたんだ…。それからはアリアとの練習以外は、それをずっと叩いてる…。」


「い、五日も!!?…お酒は!?」


「…呑んでる時間なんてねぇよ。せっかくアンタがアタシを推薦してくれたんだ。恥なんてかかせられねぇしな。」


「……タマのバカ!!!そんなにしてまで…!!バカ!!」


(ぎゅう…)



アリアはタマさんに抱きつきながら何度も“バカ”と言っていた。

身長差のある女性同士のハグを見て、“あぁ、こういう劇団関西にあったなー”と考えていたおれは、きっと(よこしま)なんだろう。



その後、二人は無事に仲直りをした。

アリアはタマさんにその日の練習をやめて睡眠を取ることを命令した。そして、息抜きとしてお酒もたまには呑むことを命令口調で伝えた。


タマさんが家でまたこっそり練習しないように見張る、と言ってアリアはタマさんについていった。

タマさんはついてくるアリアを面倒くさそうにしながら少し嬉しそうだった。“なら一緒に呑もうぜ”とお酒を誘っていたのが、少しだけ気がかりだったけど、二人の後ろ姿に強い信頼関係が見えて、おれはタマさんがドラムになれば良いなと思っていた。





その翌朝、草原へ行くと、“酔ったアリアに寝かせてもらえなかった”とげっそりしたタマさんと、ずっとその話を不思議そうな顔で聞いているアリアの姿があった。



そんな話を聞いて変な妄想をしてしまったおれは、きっと(よこしま)なんだろう。





お読みいただきありがとうございます。

今回のタイトルは宝塚歌劇団の楽曲から拝借致しました。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。

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