やさしい気持ち
「私は嫌よ!タマは楽器弾けないじゃない!?」
「ほぉーん?ミミ、アタシはボーカルでもいいんだぜ?お前も楽器弾けないだろ?」
「うっ……。」
「いや、ボーカルはミミで決定してます。」
「……チッ!お前ら熱々かよ!ならまぁー、ドラムでもなんでもいいわ。」
「ヒビキ!こんなの入れたってどうせすぐに飽きるだけよ!タマはそういう神なの!」
「んー………。」
「なんで真剣に考えてるのよ!あんたまさかタマの身体目当てなの?!」
「い、いや!そういうわけじゃなくて…。」
「…ぼ、ボクは、タマの勢いの良いところは、ドラムに向いているかなと……。」
「…!そうそれ!おれもそう思った!」
「なんでふたりしてそんな意見なのよー!」
「……アリアに言われてずっと考えてたんだよ。“ヒミアスにはドラムが必要じゃないか”って…。」
「べ、別にそれならドラム経験者探せばいいだけの話でしょ?!」
「んー…そういう話でもない気がするんだよなー。」
「なら、何よ?」
「んー……」
「…り、リズム隊は、息が合わないといけません。」
「……!それ!リズム隊がふたりでしっかり土台作ってくれないとおれとミミは自由にできないんだよ!」
「はぁ?!このふたりが仲良いのはね!アリアがタマに合わせてあげてるだけよ!」
「…っ…っ…!プハーッ!そこまで言うか?ミミ。アタシはアリアと息ぴったりだぜ?」
「馬鹿なこと言わないの!この酔っ払い!あんたは…」
「ぼ、ボクは…!タマがドラムなら合わせられそうな気がしなくもないです、たぶん…。」
アリアはどんどん声量を小さくしながらそう言っていた。
「おー!よく言ったアリア!アタシとアリアは一心同体だからなぁ!?なはは♪」
「な、何言ってんの?!アリア!タマと仲良いのは知ってても、それがバンドに…」
「影響するよ。」
「…ヒビキ?」
「実際、物凄いスキルを持った人達ですら、息が合うかどうかは大切なことなんだ。おれ達みたいにスキルの足りないバンドが何より必要なのは、息が合うかどうかだと、おれは思ってる。」
「そ、そんなこと言ったって!」
「ミミ、とりあえず今日はこの会を楽しもう。明日タマさんにドラムを叩いてもらって、合いそうならバンドに正式に加入してもらおう!…ってことで、タマさん明日ドラムを叩く時間はありますか?」
「ん?任せときな!アタシの才能を爆発させる時が遂にきたね!」
その日は四人で宴会を楽しんだ。
その最中から帰宅した後までミミは少しだけ怪訝な顔をしていた。
翌日、またシティエストの店に出向いてドラムセットを購入した。買ったのは、もうそろそろ借りることに忍びなさを覚えていたからだ。ミミを連れていくと変態ジジイは鼻息を荒くしながらドラムコーナーへ案内して、できるだけレンタルにするようにおれにすがんできたが、それを断った。
草原にドラムセットを置いて、タマさんがくるのを三人で待った。
予定時刻丁度に彼女は現れた。
「いやー!昨日は楽しかったねー♪」
「タマ、遅いよ!ギリギリじゃない!?」
「ん?なんだよ?ギリギリってことは間に合ってんだろ?ミミはいちいち細けぇんだよ。」
「もー!ヒビキ!こういう神なの!タマは!」
「あはは…。まぁまぁ、間に合ってはいるわけだし、そんなに怒るなよ。…じゃぁタマさん!ドラムセット用意しておいたので叩いてみてくれますか?」
「おぉ?!いいねいいねー♪新品かい?!かっこいいじゃねぇかよー!よし!」
タマさんは椅子に腰掛け、スティックを持った。その姿は、すごくサマになっていた。
「アタシはね、ドラムの音ゲーもやったことあるんだ!」
「へぇー!なら、エイトビートってわかりますか?」
「舐めるなよヒビキ!」
スティックでおれの方を指した。
「アタシがそんな基礎知識を知らないと思ったかい?」
自信満々の彼女が頼もしく見えた。
「おお!それならエイトビートからお願いします!テンポはおまかせしますので!」
「任せな!せーの!……」
一分程経ったと思う。
「ふぅー!!どうよ!??」
「…………ミミ。」
「……なに?」
「………女神っていうはリズム感がないのか?」
「……たぶん、そんなわけないかな。アリアもいるし。」
「…………そうだな。」
「何コソコソ話してんだよ!?どうだ?!アタシのドラムはよぉ?!」
「あ…あははー…タマさん、今回はご縁がなk…」
「…ま、待ってください!」
アリアがやけに真剣な顔をしておれを見ていた。
「アリア…?」
「こ、こんな、短い時間だけでタマを見切らないで、欲しいです。」
「……いやぁ、でも…」
「ぼ、ボクから言います。」
アリアはタマの方に近寄った。
「何だよアリア?」
「……下手くそです。」
「んだとてめぇ!」
「ほ、本当のことを言っただけです!あれだけ自信満々にボク達に啖呵切って、、ヒビキ君は、タマのためにドラムセットまで買ってきたんです!なのに、こんな酷い演奏…す、推薦したボクの身にもなってください!」
「……ほぉ?言ってくれるじゃねぇか、アリア…ドラムセットはこの男が勝手に買っただけだろーが!知るか!アタシが下手くそ?どこが下手なのかはっきり言ってみろや!」
「……まず、スティックを強く持ちすぎです。か、体が力んでる。タマはドラムを叩いている感覚でしょうけど、ドラムはリズムを作るものです。ただ叩いているだけでリズムなんて作れません。ど、ドラムはタマのストレスをぶつけるためだけの道具じゃないです。スネアを打つポイントもバラバラですし、それにエイトビートはハイハットを……………。」
信じられないくらいの知識をアリアはタマさんに説明した。タマさんはさすがに何も言い返せない様子だった。
「………なんだよ。そんなに詳しいならアリアが叩けばいいじゃねぇかよ。」
「…ぼ、ボクよりタマの方が適任です。」
「なんでだよ!?」こんなにボロクソに言われて叩く気になるか!」
「た、叩いてください!タマはきっとリズム感がいいはず!今は力任せに叩いてるからリズムが刻めてないだけで!タマの腕力にちゃんとリズムがついたら、きっとみんなが驚くドラマーになります!」
「アタシは別に一流のドラマーなんて目指してねぇよ!」
「…そ、そうですね。…ならボクのためのドラマーになってくれませんか?」
「はぁ?」
「ボクは、やっぱりドラムがバンドに必要だと思います。ぼ、ボクは知らないドラマーと上手くできる気がしません…。でもタマが横にいたら、きっと楽しくできると思うんです。」
「……下手くそと一緒にやってもつまんねぇぞ?」
「い、今、下手なだけです。初めて生のドラムを叩いて上手に叩ける者なんていません。……ひ、ヒビキ君!」
「ん?あ、ああ、なんだ?」
「この活動停止期間中、ぼ、ボクはタマにドラムを教えようと思います!活動再開前に、もう一度タマのドラムを聴いてくれませんか?判断はその時……その時まで待って欲しいんです!」
「………おれは構わないけど、ミミはどうだ?」
「…ま、まぁアリアがそこまで言うなら仕方ないわね!タマ!その酷い演奏少しはマシにしておきなさいよね!メンバーになったら私があんたの前で歌うことになるんだから!今のままじゃ気持ちよく歌えないじゃない!」
「う、うるせーミミ!まだアタシはやるなんて言ってねぇんだよ!」
おれは気になっていたことをアリアに尋ねた。
「アリア、なんでそんなにドラムに詳しいんだ?」
「……き、昨日、タマがドラムを叩くって聞いて…家に帰ってからずっとドラムの仕組みと基礎知識を勉強していました。」
「……だから昨日呑まなかったのか。…寝たのか?」
「…少しだけ。」
「はぁー、タマさん。おれやタマさんがしこたま呑んで爆睡してる間、アリアは貴女のことだけ考えて、貴女のためだけに勉強していたらしいですよ?こんなアリアを見てまだ“やらない”とか言いますか?」
「………あー!もう!やってやるよ!!ヒビキ!ミミ!!それからアリア!!!お前らがビックリするようなドラムを見せてやるよ!?覚えとけよ!」
「あはは!楽しみにしていますよ!」
「そうねぇ、タマの本気を見せてもらうわ♪」
「ぼ、ボクも頑張ります!」
こうして、アリアはドラム育成月間に入った。結果的におれ達に与えられた活動停止期間は、必要だったのかもしれない。
隣を見ると、ずっと怪訝な顔をしていたミミの顔が、いつもの優しい顔に戻っていた。
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルはCharaさんの楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




