なぜ…
シャーロットへの配信ライブ開始まであと一分。
「ふたり共、準備はできてるか?」
「当たり前よー!シャーロットの魂達を驚かせてやるわ!なんならそのまま浄化させてやるわよ!」
「は、はい!ボクも準備は万端です!」
「…よし!ならそろそろ始めるぞ!」
おれは配信開始のボタンを押した。
“こんばんは”
“ばんは”
“誰?”
“見たことねー”
“ばんは”
“こんばんは”
早速と視聴者が入ってきた。
ミミが曲に入らずに口を開いた。
「こんばんは。ヒミアスです。いつもはコープランドで活動しているんですが、今日はシャーロットの方達に向けて演奏をします。よろしくお願いします。」
おれ達は一曲目の『情景』を始めた。『情景』を一曲目にしたのは、きっとシャーロットの住人達はスロウなテンポよりもアップテンポの方が好みだからだと予想したからだ。
“ほぉーん”
“コープランドかよ”
“なにしにきたん?”
“うざ”
“割と普通の演奏”
“見下しにきた?”
“歌うまいな”
いつも通り色々なコメントが飛び込んできた。今までのコープランドでのコメントに比べて、やはり好意的なものばかりではなかった。それは覚悟していた。
二曲目の『未来へ』に入った。この曲もアップテンポの曲だ。ノリが良い曲は嫌いではないだろう。
この時すでに10万人を超える視聴者がいた。
“ギター下手じゃね?”
“もっとガンガンこいよ”
“つまんな”
“さすがコープランド。軟弱な音楽”
“見るのやめるわ”
“ベースの子タイプだわえろい”
“ベースえろい”
“男邪魔消えろよ”
好意的なコメントがなかったわけではないが、下品なコメントばかりが目についた。
ただ、アンチのコメントがマイナスになるとも思わない。おれは心の中で“もっと言ってこい”と思っていた。そう思いながら、アリアの方を見るとすごく不安そうな顔をしていた。
三曲目、『咲った』を演奏した時には20万人の視聴者がいた。これで終えることさえできれば、500カーズが手に入る。そんな邪なことを考えている時に、あるコメントが現れた。
“ってかドラムいなくて何がバンド?”
コープランドで配信をしている時もたまに見かけたこのコメントは、シャーロットの民達の心に刺さったのだろう。コメントが一気に荒れ始めた。
“ほんとだよ!ドラムいねーのにくんな!”
“だから軟弱!”
“しょーもない音楽、見るのやめるわ”
“ドラム連れてきてからライブしろやクソが”
“ベースがえろいだけのバンドwww”
“リズム隊ベース1人ってwおれの腰の上でリズム刻めやw”
“しょっぱいバンドwwwドラムいないのにバンド名乗んな”
“ベースの子は下手だけどエロいから正義”
“男は存在価値なし”
“男はハーレム気取んな”
“コープランドに帰れよ”
“さっさと帰れよ”
“帰れ”
“帰れ”
酷いコメントばかりで画面が埋め尽くされた。アリアは、ずっと下を向いていた。“あと三曲我慢するだけだ”、そう思いながら彼女を見ていた。
四曲目に入る頃、視聴者数は減って15万人になっていた。正直そんなことはどうでも良かった。早くライブを終わらせたいと思うばかりだった。
“ボーカルが少し上手いだけのバンド”
“消えろ”
“ベースはシャーロットに来い”
“早く消えろよ”
“上級民ぶりやがって”
“帰れよ”
“頼むから帰ってくれよw”
“二度とくんな”
“男マジでいらねー”
“男が消えればまだ見る価値あり”
“くそつまらんav見てる方がマシ”
“ドラムいないくせにシャーロットに来るな”
“歌唄ってるだけ、発表会ですか?”
“消えろよ”
“消えろ”
“消えろ”
“もっと言ってこい”と思っていたものの、少しずつ溜まっていたおれの怒りはピークに達しようとしていた。
四曲目が終わって、MCをするタイミングになった。ミミの声色も少し暗かった。
「えー、次の曲は…」
“バンドじゃないやん”
“男は消えろキモい”
“喋りいらんから歌ってろ”
“ベース服脱いだら投げ銭したる”
そのコメントを見ておれの中で何かが切れた。どうでも良くなった。深く息を吸い込んだその時、
「舐めんな!クソども!!」
ハウリングを起こす声量をミミが出した。
「好き放題言いやがって!嫌なら見なきゃいいだけでしょ!?アリアのこと変な目で見るな!ヒビキのことを“消えろ”とか言うな!…お前達全員地獄にぶち込むぞ、こら?かかってこいや!下民どもがよぉー!!!」
(プシュン…)
そこで画面が真っ暗になった。
数秒後、画面にブラウン=ヒステリアが現れた。
「ライブお疲れ様です♪大変恐縮ですが、あまりにもMCに酷い言葉が並びましたので、強制的に終了させて頂きました♪」
「い、いや!これはコメントが…!」
「コメントにいちいち制限をつけられるほどコチラも暇ではないんですよ〜ヒビキ君?君ならわかるでしょ?ミミックさんが放った言葉は明らかに煽りです。そして、コープランドとシャーロットの溝を深める発言です。これはあってはならないことですよ。従って、違約金を支払って頂きます♪」
「……わかりましたよ。そちらの言うことも最もです。支払いますよ。確か違約金は50カーズでしたよね?」
「ん?いえいえ♪桁が間違っておりますよヒビキ君♪500カーズです♪」
「は、はぁ?!書面には確かに50カーズって!」
「こちら、書面になりまーす♪」
手渡された書面には確かにおれのサインと違約金500カーズの文字が刻まれていた。
「ちょっと貸して!」
ミミがおれの手から契約書を取った。
「て、手書き…?!!」
「オホホっ♪さっさとお支払いしてくださいますか?」
「………ヒビキ、私達の負けよ。」
そう言ってミミはブラウンに書面を返した。
おれは500カーズを支払ってその場にへたれ込んだ。
「オホホっ♪今回は残念でしたけど、またいつでも連絡くださいね?その時はいつでも配信して差し上げますわ♪」
(プシュン…)
画面が真っ黒になった。
アリアは“帰ります”とだけ言い残して家を出ていった。
おれとミミは、その場から動けなかった。
「……ごめんヒビキ…」
無言の数分間を破ってミミが口を開いた。
「……何がだよ。」
「…私が、、あんな煽りコメント見て乗せられたせいで…」
「……ミミが言わなきゃおれが言ってたよ。それに、元はと言えばおれが書面をちゃんと確認してなかったから悪いんだ…50と500を見間違えるなんて……。」
「……書面に関しては、ブラウンの策略よ。」
「ん?」
「…普通の契約書は打ち込まれた文字で書かれてあるの。それは誰にも改竄できない、神でもね。ただ….あの契約書はブラウンの手書きだった。その場合、文字を編集できるのよ……それを書いた本人だけは…。迂闊だったわ…。」
「そ、それじゃぁ!書面を書き換えたのは!」
「十中八九ブラウンの仕業よ。あいつはこうなることを予測して、始めからお金を巻き上げることだけを考えていたのよ…。」
「……まじかよ、ってことは、始めからおれ達はあの神の掌で踊らされてただけだったのか…….。」
「……ごめん、せっかく3,000カーズの半分まで届きかけていたのに…。私は…」
「……いや、ミミのせいじゃないよ。コメントのせいでもない…。目の前のギャラに舞い上がっていたおれのせいだ…。」
おれ達はそれから一言も交わすことなく就寝した。
翌朝、ミミは神殿から呼び出されて家を出ていった。
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルはHysteric Blueさんの楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




