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それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
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天国と地獄



目の前の草っ原に落ちたギターはサンバーストのレスポールタイプだった。見るからに古そうで、パッと見て分かるほど弦が錆びていた。

ベッドに目をやるとメーカー名が記載されるところにLegenda(レジェンダ)と刻まれていた。似たような名前のメーカーを知っていたけれど、フェイク品を作られるようなメーカーでもないと思いながら、また女神の方へ目をやった。



「あのー、ところで女神様?」


「何よ?君、この形のギター使ってたわよね?ちょーっとだけ古いけど、悪いものじゃないから安心しなさい?」


「いや、ギターはまぁ、コレも使ってたんですけどね…。」


「相変わらず煮え切らない男だねーヒビキは!」


「あ、そう!それ!あの、おれの名前はシュンタロウなんっすよ!自分の作った魂の名前間違えるのは、どうかなー?」


おれは胡座をかいて腕組みをしながら少し首を傾げた。彼女は真っ直ぐ立ちながら腰に手を当てて、こちらを怪訝な顔で見下していた。


「はぁ?ヒビキは私がつけた名前よ。」


「へ?」


「現世では親が付けた名前だろうけど、君の本当の名前は“ヒビキ”。転生して何度も現世では名前が変わるから、私はソウルネームを使ってるだけ。悪い?」


感情の起伏もなく淡々と彼女は話していた。


「大体ねぇ君、今まで何回転生してると思ってるの?数えきれないよ?その度に名前覚えなきゃいけないとかやってらんないわよ。ほら、君達の世界にあるでしょ?育成ゲームの……ぽ、ポキモン?あれだって、始めは楽しくて色んな名前つけたりしてても、結局めんどくさくなって名前変えなくなるじゃない?ソレと一緒よ。」


この女神はやけに日本に詳しいみたいだ。


「あはは…非常に分かりやすい説明をどうも…。」


「なので、君の現世の名前で呼ぶことは一度もないので、悪しからず!」


「いやまぁ、理由がわかればなんでもいいんですが…あ、それなら女神様にもその、ソウルネーム?というのがあるんですか?」


「……私のことを名前で呼ぶ気?」


「い、いえ!そんな滅相も…!」


「……まぁ、あるにはあるわね。どの世界でもすべての魂に名前は付いているから。特に神に選ばれた魂には、君達でいう苗字と名前の2つが与えられるわ。」


「そうなんですね…。で、お名前は?」


「……ミミック=スクワイア。」


彼女は少し声を小さくして、目を地面に向けながらそう答えた。


「へー。ミミックがその、本名ってことですか?」


「……そうよ、文句ある?」


「いやいや!…でも、なんか聞き覚えg…」


「やめなさい!」


彼女は表情を隠して下を向いていた顔を少し上げておれを睨んだ。


「……あんた今…た、宝箱のモンスターを思い浮かべたでしょ?」


「あ……はい、まぁ。」


「ふっざけんじゃないわよ!!あんなのと一緒にしないで!!いい?!あんなのより私は何百年も前から存在してんの!それまでは割と名前は気に入ってたのよ!なのに、つい最近!現れたあの忌々しい化け物のせいで、天界でもイジられ倒したのよ!わかる?!急に周りの神達から“要らない宝箱”だの“舌出し箱女”だの呼ばれるようになった私の気持ちが!!」


「ふ、不便だとは思いますけど!そんなボルテージ上げなくても…。それに、元々の英語の意味も“真似る”みたいな意味でしたし、はは…。」


「…英語と天界の言葉を一緒にしないで。…そもそもの元凶はアレを生み出した漫画家よ…あいつが、漫画家のくせにゲーム業界でデザインなんかするから……!」


「いやいや!それは言い掛かりでは…」


「…しかも!ムカつくことに、私がこの手であの漫画家を天界の中でも最下層にぶち込んでやろうと思ったのに、地球に残した業績があまりにも大きすぎて私の手には負えないじゃない…!!」


「へー。確かにずっと世界的に有名ですもんね…。じゃぁ、あのお方は今はどこに?」


「ふん!最悪だけど、ここにいるわ。」


「ここって?」


「さっきも言ったでしょ!?ここ!コープランド!」


「こーぷらんど…。」


「…そうね、そこは教えとかないといけないかもね。」


「…やだぱりここ、コープランドは天国?」


「まぁ、さっきの質問と少し違うから、それに対しては“YES”になるわね。」


「…ここは天界で、天界の中に幾つか世界があって、ここはコープランドという天国に近い場所、ってこと?ですか?」


彼女の表情が少しずつ柔らかくなっているのが分かった。


「ふーん、飲み込みは早いみたいね。今の説明はほぼ合ってるわ。ひとつだけ指摘するとしたら、コープランドは地球の人、いえ、他の星の民も含めてほぼ全ての者が想像する天国で間違いないわよ。全宇宙中の人に“天国ってどんなイメージ?”って聞いて、大体の者が想像するソレがここに該当するね。」


「へー!じゃ、おれって死んだら天国に…」


「いけるわけないでしょーが!」


彼女の顔がまた曇って、おれを威圧するように顔を近づけた。


「君がコープランドなんて、あと12、3回は転生しないと無理よ。少なくとも自殺を図るような人間はコープランドに来る資格はないわ。君がここにいるのは、君を生み出した私の担当世界が今ここだから。それだけ。」


「え?おれ地獄行きってこと?!」


「…私の見る限り、今のヒビキは“シャーロット”か、自殺が成功していたら“スリップノート”ね。」


彼女はまた直立して、顎に手を添えて考えていた。


「え?天界ってそんなに世界が何個もあるんですか?天国か地獄かの二択くらいかと…。」


「そりゃーあるわよ。簡単に“善人”、“悪人”なんかで分けることなんてできないでしょ?人間以外の動物や植物、無機物に入っている魂とかの話をするとかなりややこしくなるから、人間だけの話を持ち上げると大まかに魂は5つの階層に分けられるね。」


おれはもう黙って彼女の授業にも似た説明を聞くしかできなかった。


「あ、一応初めに言っておくけど、この説明は君のこれからの活動に必要なので話すことだから、君が現世に戻る時には私の任意で“現世に不必要”と見なした記憶は消させてもらうからね?」


「活動……はい。」


「じゃぁ話を続けるけど、人間の魂が集まる世界は例外を抜いてほぼ全てが5つの世界のどれかに行くことになるの。上から順に、“ホピボラ”、“コープランド”、“シャーロット”、“スリップノート”、“カールマイア”。この5つがある。」


「ここが2番目の天国ってことか…。」


「まぁ、今の説明だけ聞くとそうなるのも無理はないね。簡単に各世界の説明をしていくから、それを聞いてから質問してくれる?それが答えられる質問なら、いくらでも答えてあげる。」


彼女が真面目な顔になった。

とにかく今は、この授業を受けなければならない。




お読みいただきありがとうございます。

今タイトルはあまりにも有名なオッフェンバック氏の楽曲を拝借致しました。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからもよろしくお願い致します。

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