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それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
28/59

ショートヘア



フェスの翌朝、ミミは昼過ぎまで寝ていた。おれはその間に草原に行って、昨日感じたことを曲にしていた。


アリアが一歩前に進もうとしたことを書いた『緑の夢』と、BELIEVEを歌った時に、“おれもこんな優しい歌を作りたい”と思って作った『未来へ』。後者に関しては元々バラードにする予定だったが、作っていくうちにアップテンポになってしまった。

これをデモとして、またアリアと話しながら曲を作っていこうと思い、昼過ぎにミミの好きなメルカを買って家に帰った。



「ただいまー。起きたかー?」


「うぅ……」


(キューゥン…?)


イブキが心配そうにミミを見つめている。


「ははっ!イブキー心配だよなー。でも大丈夫。ご主人様は昨日少ーし呑みすぎただけだよ。」


「ううー頭がいたいー。」


「待ってなー。水持ってくるよ。」


水を三杯おかわりして、彼女はだいぶ回復した様子だった。


「それにしても、天界で二日酔いになほど呑むって、どれだけ呑んだんだよ…。」


「覚えてないわ…周りのおっさん連中が怯える程度には呑んだわよ…ヒビキだって結構呑んだくせに、なんでケロッとしてるのよー….。」


「あはは、おれは合間に水飲んでたからなー。それよりほら、メルカ、買って来たぞ?」


「あー、、嬉しい…けど、今はパスー。」


「そりゃそうだな…。ところで、昨日は少しもらいすぎたな…出演料。」


「あれは、ギャラの袋に保護者達が喜んで足してくれたものだから、君もそれは甘んじて受け取らなければいけないのよって、昨日言ったでしょー。」


「まぁなー。とは言っても20カーズのはずが、倍にまでなるとは……。」


「それは君の成果だよ。」


「…おれだけじゃないよ。ミミのおかげだ。」


「…ふふ♪ありがと!」


「これで、990カーズか…。」


「そうね、もう少しで1,000カーズ。メンテナンス代の三分の一を貯めたことになるわね。」


「……今日、ストリートはいけないだろうけど、配信ライブしないか?」


「…嘘でしょ?私のこの姿見てよく言えるわね……。」


「三曲でも良いからさ!なんか今日中に1,000カーズまでいきたいんだよ!頼むよミミー!」


おれミミの肩を持って前後に揺らした。


「や、やめてー!わかったから!わかったから!やるから、離して!水が逆流するー!」


「あ、悪い悪い!」



(ピンポン♪)



ミミの家のインターホンが鳴った。


「宅配か?」


「知らないわよ…。誰からも連絡は来てないし、何か届け物じゃない?出て来てよ。」


「はいはい…。」


なんとも警戒心の薄い女神だ。女性宅の郵便に男が出るのは如何なものだとは思ったが、この家の主が言うことならば従わないわけにはいかない。


(ガチャガチャ…)



「はぁい、。あ、…。」





「ヒビキー?何だったー?」


「うん、あのな?その…。」


「昨日は色々とありがとうございました!」


「……!?あ、アリア?!どうしたのそれ?!」


おれ達が見たアリアはセミロングだった空色の髪の毛をショートヘアにして、できるだけ目が見えないように隠していた前髪も、眉毛の上まで切っていた。その姿はまるで別人のようだった。


「ぼ、ボクもふたりみたいになりたくて!さ、さっき切ってきました!あ、改めて、よろしくお願いします!アリア=コリンです!」


おれとミミは顔を見合わせて静止した後、二人で笑った。


「ははははっ!うん!よろしく!おれはヒビキです!」


「あはははは!私はミミック=スクワイア!よろしく!」


「な、なんで二人とも笑うんですか!?」


彼女は不器用で、神様なのに気合いの入れ方が高校生みたいで、その純朴さがすごく可笑しかった。でも、これでようやくアリアとメンバーになれた気がした。




「で、今日はどうしたんだ?」


「そ、それは、やっぱりボクもライブしてみたいと思いまして…でも、いきなり街の中でストリートライブする勇気はまだなくて…は、配信ライブでならできそうな気がしたので!…配信ライブをさせていただただけなんひゃと…!」


しっかり噛んでいたが言いたいことはわかった。


「そ、そうかそうか!それならちょうど良かった!実は今日配信ライブをする予定なんだよ!」


「えぇ?!そ、そうなんですか!?昨日ライブして、あんなに呑んでたのに、タフですね…。」


「まぁ、もうすぐで1,000カーズ貯まりそうだからなぁ。」


「せ、1,000カーズ?!ヒビキ君まだコープランドに来て三ヶ月も経っていませんよね!?…何をしたんですか、、?」


「い、いや!悪いことはしてないぞ!?ストリートとか配信ライブで頂いたお金だよ。」


「へぇー……な、何か目標があるんですか?」


「あー、アリアには話してなかったなー。実は…………………」



おれはギターのメンテナンス代の話をアリアに話した。




「な、なるほどてますね…3,000カーズも修理代のかかるギター……。」


「ん?何か知ってるのか?」


「い、いえ!ボクは何も…。」


アリアはミミの方をチラチラと見ていたが、ミミはそんなこと気付きもせずに机の上でうなだれていた。


「…あ!そ、そういえば!ボク、このベースのお金払っていません!」


「あー、それについてはあんまり気にせずに…はは。」


「だ、だって大事なお金を使って買ってくれたんでしょう?!ボクが支払わなきゃいけないのに!おいくらでしたか!?」


「いや、本当に安く購入できたから気にしないでくれ。それに、それは必要経費だから。楽器代も含めてお金を貯めているようなものだよ。」


「そうよー。ヒビキの言う通りー。こんな男にお金を渡すだけ無駄よ。散財するだけなんだから、ちゃんと自分で稼がせないと。私もヒビキには個人的なお金は渡してないよー。」


「はは…。ほら、ミミもああ言ってることだし、お金のことは気にしないでくれ。お金で返すつもりなら、ベースの音で返してくれればいいからさ!」


「……わ、わかりました!今日から、頑張ります!」




夜の配信ライブまでは草原でアリアと作曲をした。おかげで瞬く間にデモだった二曲はほぼ完成した。『緑の夢』に関しては、アリアはタイトルを聞いた時点でおれが何をモチーフにしたかわかったようで、とても嬉しそうだった。





「よし!そろそろ始めわよ、配信!二人とも準備はできてる!?」


「おう!」

「……は、はい!」


「…アリア、大丈夫。私がついてる。」


「おれもついてるぞ!」


「…はい!大丈夫です!」



ミミが配信開始のボタンを押した。



“ヒミツだー”

“こんばんはー”

“楽しみー!”

“あれ?ヒミツって二人じゃないの?”

“増えてね?”

“誰?新メンバー?”

“こんばんはー”



画面にはいろんなコメントが現れていた。配信を始めてまだ一分も経っていないのに、すでに3万人が配信を視聴していた。

やはりコメントの多くはアリアがいることを不思議に思うものばかりだったが、おれ達は何も言わずに一曲目の『コイン』を演奏した。



“おー!ベース入ると変わる!”

“シンプルだけど良いベース”

“ベースの子可愛くね?”

“ほんと歌上手いなー”

“わしのベースじゃ”

“神ボイスー”

“渋いベース”

“ボーカルマイク買ったのか!すげー!更に良くなった!神声!”

“ボーカルすごいー”



約一名の変なコメントはあったものの、いつも通り平和なコメントが流れていた。アリアを称賛する声も多数あって、アリアの方を見ると一生懸命に、楽しそうに弾くアリアの姿があった。おれもバンドをしてる感じが楽しくて、アリアの方に体を向けると彼女はそれに気付いて顔を上げてこちらに笑顔を見せた。それは、今まで見た彼女の笑顔の中で一番綺麗な笑顔だった。



アリアが入ったおかげなのか、四曲目が終わる頃には観客も50万人を超えた。以前に比べて三倍近く数が増えた。


ラストの曲の前にミミが口を開いた。


「えーと、いつも私達を見てくれていた人ならもうわかっていると思うんだけど、今日は三人での演奏になりました。そう、ベースとして新メンバーが加入しました!イェーイ♪」



“えー!?おめでとう!”

“めでたい”

“おめでとー”

“888888”

“お祝い投げ銭!”

“お祝いコインー”

“おめでとうー!”

“見たの初めてでよくわからないけどおめでとうー!”



祝福のコメントを見るたびに肩の荷が降りた気がした。アリアは下を向きながら、少し口元が緩んでいた。


ミミは言葉を続けた。


「それで、ヒミツという名前は二人のユニット名だったので、三人になったことで改名することにしました!名前は“ヒミアス”。私達三人のバンド名です。たった今、この瞬間に名前が変わりました。これからもよろしくお願いします!……それでは、三人になって初めて作った新曲『情景』を演奏して今日は終わりです!ありがとうございました!ヒミアスでした!」



“突然の改名w”

“ヒミアス!”

“ヒミアスー!”

“ヒミツ→ヒミアス→?”

“ひみあす”

“ヒミツの一部分は残すのか、いいな”

“四人になるとまた改名か?”

“あのベースって、神じゃね?”

“新曲楽しみー!”

“新曲きたー”



『情景』はマイナー調で少し切なくてどこか懐かしい曲。アップテンポでその懐かしさが走馬灯のように駆け巡る曲だ。この曲を弾いてて思ったことは、アリアがおれを確実にリードしていることだった。アリアの安定したリズムに甘えるようにおれは自由にギターを弾ける。この感覚を天界に来てまで感じることになるなんて思わなかった。




(〜〜〜♪)



最後の一音を弾き終えた。


「今日はありがとうございました!ヒミアスでした!また見てねー♪」



そうして配信ライブが終了した。


「ミミ、お疲れ様。」


「お疲れ様!ふたりともー♪早速投げ銭チェックとアカウント名の変更をしないと!」


ミミはそのまま画面を見ていた。


「アリア、初ライブお疲れ様。どうだった?」


「……ひ、ヒビキ君、お疲れ様です。あの、、ボク…」


「?」


「…すっっごく楽しかった!!バンドって良いね!!ライブって、楽しい!…です。」


酷く興奮気味のアリアが目の前にいた。


「あはは!なら良かった!」




「ちょっと!ふたりとも!見てこれ!今までで一番の投げ銭よ!フォロワー数も過去一番の伸び方ね!」


「え?どれ?!」


「フォロワーは20万人に増えて、投げ銭は80カーズよー♪やったねヒビキ!これで1,000カーズ到達よ♪」


「おおお!!よっしゃぁー!!」


(キューン♪)



「よーし!じゃぁアリアの初ライブ成功と、ヒミアス改名と、1,000カーズ到達を祝して乾杯よ!!」


「え……?昨日あれだけ呑んだだろ?」


「バカね!こんな時に乾杯しなくて何がバンドマンよ!」


「いやぁ、そういう時代はもうとっくに…」


「ひ、ヒビキ君、呑みましょう!お祝いしなきゃ、です!」


「アリアまでー?!」


「アリア!あなたは今日は一杯までよ!」


「…え、?なんでですか?」


「昨日あなたが手を引いていた保育士さんが“誰かさん”に骨抜きにされて仕事に手がつかないって苦情が入ったの!」


「はい?…何のことですか?」


「〜〜もう!!まぁ、今日は家の中だし、好きにしなさい!ヒビキは離れて座るように!」


「何でおれが疑われるんだよ……」




こうしてヒミアスの初配信ライブは無事に終了した。その夜ミミの家で行われた打ち上げは、昨日三人だけでやりたかった打ち上げの分も混ざったかのように盛り上がった。





お読みいただきありがとうございます。

今回のタイトルはBase Ball Bearさんの楽曲より拝借致しました。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。

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