BELIEVE
キッズフェス当日、おれ達三人は指定された時間の三十分前に会場に着いた。出番は二時間後だ。
キッズフェスは既に始まっていて、おれの知らない子ども達が今ステージで楽しそうに踊っていた。きっと別の子ども広場の子達だろう。観客はその子ども達の保護者と思われる人が後ろに、前の席には子ども達が座っていた。子どもの中には知っている顔もいたので、きっと出番じゃない子達がそこで観ているんだろう。
全てをひっくるめて、400〜500人ほどの観客がいる平和な野外フェスだ。
「へー♪みんな楽しそうでいいわねー!あ!ヒビキ、見て!あそこに出店があるわ!ちょっと行ってくる!」
ミミはいつも通りのテンションで足早に出店が立ち並ぶコーナーへ向かって行った。
おれは誘ってくれた保育士さんに挨拶をして、関係者パスを三つもらった。
その内のひとつを横で震え上がっているアリアに渡した。
「アリア、これ、首から下げてくれ。出番以外はそれを首から下げとかないといけないんだ。でも、それを見せたらフードが安くなるってよ。ミミのやつ、これ持たずに出店に行っちゃったよ。急ぐやつは損するよなーははは!」
「……は、は、はい。あ、ありがとうごじゃります…。」
「……昨日も練習したし、大丈夫だって。たった25分のステージだ。始め二曲ははみんなで歌う童謡曲だし、ベースは弾かなくて良いんだぞ?最後の曲も合唱曲だし…。」
「は、ひゃい……。」
「……あのさ、女神とかって結構大勢の人前で話すことあると思うんだけど…そういうのは緊張しないの?」
「……ぼ、ボクはそういうことをずっと避けてきたので……べ、勉強は好きだけど、こういうのは、、。」
「あー、そうなんだ…。」
「アリアー!ヒビキー!ねぇ!見てよこれ!たこ焼き屋なのに中に入ってるのカニなんだって♪じゃあカニ焼き屋って名前にしないと詐欺よねー♪美味しいから良いけど♪二人も食べてみなよ!」
「ミミは元気でいいな…はは。コレ、関係者パス。出番以外は首から下げとけよー。それ見せたら出店が半額になるんだってよ……ぷぷっ!」
「え……?!…ちょっと店の親父に見せて半額返してもらってくるわ!」
「おい!女神がそんなセコいこと言ってんな!あはは!」
「だってー…あれ?アリア?あなたまだ緊張してるの?たこ焼き食べる?カニだけど。」
「……い、要りません。」
「ふーん……。」
ミミがおれの方を少し不安そうに見つめた。なんとなく、ミミの言いたいことは理解した。
「…あ!おれもちょっと出店見てくるから、二人は楽屋で準備しといて!」
「ん?ほーい。いってらー。」
おれは保育士さんのところへ走った。
出番までもうすぐ。楽屋で最終打ち合わせをしていた。肩にかけたベースが揺れるくらいに、アリアは緊張していた。
「よし!そろそろステージの袖で待つか!」
「よーし!行くわよー!アリアも行こ♪大丈夫よ♪」
「……は、はい。」
司会の男女二人がステージで話していた。
「さぁ!お次はなんと!子ども達じゃないんですねー!」
「お?!このフェスに大人が!?」
「そうなんですよー。聞くところによると、最近ある子ども広場によく来て子ども達と一緒に歌を歌ってくれるお兄さんが現れたそうで!」
「おお?!それはもしかして!?」
「そう!最近ハチノクニに現れた、コープランドでは珍しいストリートミュージシャン!今回は保育士さん達からの熱いリクエストでお招きさせていただきました!」
「最近男性ひとりから変わったと聞きますよー?」
「よく知ってますねー!その通り!今日お招きしたのは…えっと、、“ヒミツ”のおふたりでーす!それではみなさま、拍手でお迎えください!」
(パチパチパチパチ………!!)
“兄ちゃん!出てくると思ってたぞー!”
“今日もいい歌聴かせてねー!”
“知らないけど頑張れー!”
「うわ!司会の人達、間違えておれ達のこと“ふたり”って言っちゃったよ!しかも、“ヒミツ”って……ミミ、今日はおれ達二人で出るか!!」
「そ、そうね!あんな間違え方してー!後で怒らないと!」
「ってことだからアリア、悪いんだけど、今日はふたりでライブさせてくれるか?」
「え?……あ、、はい…。」
「よし!行くぞ、ミミ!」
「おうよー♪」
二人でライブを始めた。昨日ミミはシティエスト激推しのマイクを購入して、それをここで初めて使ったが、確かにいいマイクだ。ミミの声がよりリアルに、綺麗に届く。
「みんなー!私達がヒミツでーす!名前はヒミツだけど、いっぱいの人に聴いて欲しいから、秘密にせずにどんどん拡めてねー!」
“““ドッ…!”””
観客が笑っていた。
最近ミミが積極的にMCに臨むようになったのはすごくいい傾向だ。彼女にボーカルとしてのプライドみたいなものが芽生え始めているんだろう。
一曲目は子ども達が一緒に歌える『森のくまさん』を歌った。
子ども達は楽しそうに合いの手を入れていた。
二曲目は初めて子ども広場に行った時に演奏した『幸せなら手をたたこう』にした。特別深い意味を持たせる気持ちはなかったが、子ども達が楽しそうに手を叩いている姿は、やっぱり少し心にくるものがあった。客席の後方では、涙を流している保護者もいた。
三曲目はヒミツの持ち曲を披露した。暗い曲だといけないので、『街恋』、そして、子ども達と出会ったことで、この世界に来て初めてできた曲『咲った』を四曲目に演奏した。
観客はミミの本気の歌声に一瞬どよめいたが、曲が進むにつれてその日一番の盛り上がりを見せた。
「えー、次で最後の曲です!」
“えー?もっとやってー!”
“そうだ!後ろのことなんか気にするなー!”
“もう何曲かやっても誰も怒らねーよ!”
“もっと聴きたいー!”
「わがまま言わない!みんながそう言ってもね!タイムテーブルがある以上、時間を越したら怒られるのは私達なのー!」
“““ドッ…!”””
会場が笑いで包まれた。ミミのこういう正直なところが、観客の心を掴むんだろう。
「最後はの曲は……私達の曲ではありません。私の横にいるギタリストが暮らしていた日本という国で、歌われていた曲です。本当は、できるだけ沢山の人が知っている歌を選ぼうと話し合ったんですが、彼が“どうしてもこの曲を、このフェスでしたい”と言って、最後の曲に選びました。合唱曲だから、知ってる人は一緒に歌ってくれてもいいからね?それでは、聴いてください、『BELIEVE』。」
この歌は合唱曲で何度も歌ったことのある曲だ。優しいメロディに優しい歌詞。どうしても、ここにいる子ども達に届けたかったんだ。そして、今ステージの袖で見ている女神にも。
-----
たとえば君が傷ついて
くじけそうになった時は
かならず僕がそばにいて
ささえてあげるよ その肩を
世界中の希望のせて
この地球はまわってる
いま未来の扉を開けるとき
悲しみや苦しみが
いつの日か喜びに変わるだろう
I believe in future 信じてる
もしも誰かが君のそばで
泣きだしそうになった時は
だまって腕をとりながら
いっしょに歩いてくれるよね
世界中の優しさで
この地球をつつみたい
いま素直な気持ちになれるなら
憧れや愛しさが
大空に弾けてひかるだろう
I believe in future 信じてる
いま未来の扉を開けるとき
I believe in future 信じてる
-----
子ども達は楽しそうに適当な歌詞で一緒に歌っていたり、手を叩いていたりしていた。
後ろにいた保護者や保育士さん達は、誰もがミミの歌声を聴いて涙を流していた。泣かせるつもりはなかったけれど、“コープランドだから、死後の世界だから未来がない”なんて簡単におれには思えなくて、来世でもいいから、この子達が幸せな人生を歩めることを祈って、この曲にしたんだ。
ステージの袖を見ると、泣き崩れている女神の姿があった。
最後のアルペジオが終わった。
「今日はありがとうございました!ヒミツでした!引き続きフェスを楽しんでねー♪」
“さいこー!!”
“次ライブする時絶対に行くねー!”
“後でお捻り渡すから受け取ってくれー!”
“いい歌だったぞー!ありがとうー!”
“ありがとー!”
“ありがとうー!”
(パチパチパチパチパチパチパチパチ……)
鳴り止まない拍手の中でおれ達はステージを降りた。
「ミミ、お疲れ様。良かったよ、歌もMCも。それにマイクも。」
「お疲れ様ヒビキ!いい感じだったでしょ?!へへーん!それにしてもマイクがあるとこんなに歌いやすいのねー。変に力まなくてもいいし……そういえば、“一度使ったらマイクをメンテナンスするから店に持って来てくれ”ってシティエスト君に言われたんだけど、マイクってそんなにメンテナンスいるの?」
「…持って行かなくていい。絶対に。」
(あの変態ジジイが…!)
「そっかー…あ、アリア。どうしたの?目真っ赤じゃない?」
おれ達の前に俯きながらアリアが立っていた。
「……ぼ、ボクは、、怖かったです…。逃げたくて…ずっと人前に立つのが、怖くて…。きっと、会場のスタッフさんに無理言って変更してくれたんですよね…?すいません…。やっぱりボクはy…」
「いいんだよ。アリアはアリアのペースで。こんな優しい平和な世界で、辛くて泣く必要なんかない。怯える必要もない。怖いなら、怖くなくなるまで練習付き合うから、今言おうとしたことは心の中にしまっといてくれないか…?」
何故か目を合わせずにその言葉を言って、おれは一人で楽屋に向かった。アリアの気持ちが痛いほどわかるのに、こんな時に掛けられる言葉が少ししか浮かばない自分がまた嫌いになりそうだった。
「…ひ、ヒビキ君…怒ってましたよね…?」
「んー…いや、怒ってはない、かな?たぶん昔の自分見てるみたいだったんじゃない?」
「…む、昔の?」
「…そうね、アリアには話しておいた方がいいかもね。でも、ヒビキには内緒にしてよね?」
「…は、はい。」
私は彼の一番誰にも見せたくない心の箱を少しだけ開けることにした。
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルは杉本竜一氏によって作られた合唱曲の題名から拝借致しました。
この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。
とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




