名前
翌朝、やはり豹変した後の記憶を一切抱えずにアリアは目を覚ました。
ミミが用意してくれた三人+一匹分の朝食を摂りながら、おれは話を振った。
「アリア、気になってたんだけどさ…。」
「は、はい、なんでしょうか?」
「一週間の間、すごく頑張ってたのは昨日のですごく理解できたんだけど、その間、好きな落語やレトロゲームはどうしてたんだ?」
「…あ、あれはひとりだけの趣味なので、ボクがやらなくても誰にも迷惑はかかりません。でも、これはメンバーが揃ってすることなので、入りたてのボクが早く二人に追いつかないといけません…。」
「相変わらず勉強熱心というか、真面目というか、アリアはこういう子なのよー。」
少し困り顔でミミはおれに言った。
「んー……アリア、できたらその趣味もやめないで欲しいかな、おれは。」
「…え?な、なんでですか?」
「なんて言うんだろ…今のアリアが持ってるものって、それまでのアリアの趣味とか、経験したものでできてると思ってるんだ。だから、それを全て無くして音楽だけに絞ったら、アリアの良さが減っちゃう気がするんだよな。」
「…な、なるほどです。」
「練習したり研究してくれるのは嬉しいけどさ!それは程々で充分アリアは上手いんだから、いつもの生活も大事にしてほしいんだ。」
「…わ、わかりました。善処します。」
「…そんなこと言って、ヒビキがアリアに追い抜かれるの怖がってるだけじゃないのー?」
ニヤニヤしながらミミはおれを見た。
「う、うるさいな!まぁそれもあるけど!……ははっ!」
「あはは♪」
「うふふ!」
(キューゥン♪)
「そういえば、アリアはいつからライブするんだ?昨日の演奏を見る限り、もういつでもできそうな気がするんだが。」
「そうねー。私もいつでも大丈夫よ♪」
「ら、らら、ライブ……。」
アリアの顔が少し曇った。
「…緊張するか?」
「…は、はい。」
「アリアの心の準備が整ったらでいいよ。その時にヒミツの名前も変えよう。」
「…え?な、名前変えるんですか?」
「そうよ!あれは私とヒビキの名前が入っているから、そこにアリアの名前も入れようってなったわけ♪私はヒミスリーがいいと思ったんだけど、却下されたんだよねー。」
「へ、へー…。そ、その名前だと、ボクの名前は入ってないんですけど、、。」
「ミミは少し黙っててくれ…。アリアは、何か名前の案あるか?」
「そ、そうですね。名前を変えるとしても、急に大幅な名前の変更はファンの方が困ると思うので、マイナーチェンジがいいと思いますね…。……ボクのラストネームの“コリン”を使って、“ヒミコリン”はどうでしょうか?」
「い、いや、だいぶアリアが占めてきた気がするんだが……はは…。」
「…で、では!思い切って“コリンズ”なんてのは…!」
「いやいや、マイナーチェンジどころの騒ぎじゃなくなってるよ…。」
(意外と根は目立ちたがりなのか…?)
「た、確かにその通りですね…。」
「あのさーあのさー!やっぱり“ヒミスリー”だよ!」
「ミミまでバカみたいなこと言うな!ややこしくなるだろ!」
「ぼ、ボクはバカみたいなことは言ったつもりじゃ…」
「あー、ごめんごめん!」
(くっそめんどくせー!)
少しだけ時間を置いて口を開いた。
「ならこれはどうだ?ヒミツの“ヒミ”はやっぱり残そう。その上でアリアの“ア”を加えて、ミミが言う“スリー”も入れて、“ヒミアス”。」
「おお!」
「い、いいですね!」
(キューン♪)
「よし!じゃぁヒミアスで決まりだ!名前はアリアがライブデビューする時に変えよう!」
「おー♪」
「お、おー。」
(キューゥン♪)
その日の午前中は三人で草原に行って既存曲の練習と、作りかけていた『情景』のフルコーラスを完成させた。
特に既存曲に関して顕著に感じたことだが、ベースが入るだけで自分の作った曲にようやく血が流れ始めたような気がした。
午後は子ども広場へアリアを連れて行った。子ども達の前で三人で童謡を歌った。アリアはベースは弾かずに歌っていたけど、すごく楽しそうだった。子どもが好きなようだ。
帰り際、いつもの保護者からのお捻り鬼ごっこをアリアには事前に伝えていたものの、日頃の運動不足のせいでおれ達と並走することができなかった。
彼女も頑張って走っていたが、最終的に保育士さんらしきお姉さんに捕まってしまった。
「アリア!」
「あー……うぅ……。、すいません…。」」
「はぁはぁ…やっと捕まえましたよ!今日こそは…」
お姉さんはポケットに手を入れて何かを取り出した。おれはそれを報酬のお金だと思って拒否しようとした。
「あ、あの!おれ達はそういうのをもらうつもりは…」
「これ!これです!明後日!子ども達のお遊戯会があるんです!!」
「……え?」
お姉さんがポケットから出したのは“キッズフェス”と大きく書かれたチラシだった。
「明後日、あの子達とか、他の広場の子ども達の演劇や演奏会とか、そういう催し物があるんです!みなさんも、どうかと…はぁはぁ…」
「…あ、すいません。てっきりお捻りかと…。」
「…みなさんがお金を受け取らない気持ちは理解しています。なので、是非このフェスにゲストとして子どもと保護者達の前で演奏していただけないかと!出演料に関しては、そんなに多く払えませんが…検討してくれませんか?!」
思ってもいなかった依頼に少し拍子抜けした。だけど、こういった話なら受けないわけにはいかなかった。
「あー、そういうお誘いなら、全然、、。というか逃げてしまってすいません。。」
「いえ!みなさんのご活躍は今街中で話題ですし、お忙しい中、急に明後日の依頼なんて失礼だとは思うんですが、、。いつもそれを伝えようとしても逃げてしまうので…。」
「そ、それは、おれ達のせいですね…はは…。」
「是非ご出演頂けないでしょうか?!」
「あー、それはおれだけじゃなくて、メンバーが良ければ…」
ミミを見ると二回軽く頷いていた。
アリアは下を向いて、少し不安そうな顔で軽く頷いた。
「ありがとうございます!!みなさんが出てくれたら子ども達も喜びます!で、、出演料なんですが…50カーズでどうでしょうか…?」
「は!?いえ!そんなに要りませんよ!」
「ヒビキ!!くれるって言ってるんだから貰えるものはm…」
「タダでもおれは出ますよ!」
「タダなんて…そんなお願いはできません!でしたら、、20カーズではどうでしょうか?これ以上引き下げるのは気が引けまして…」
現世ではあり得ない出演料の引き下げ交渉がそこにはあった。
「えー、、ミミ?」
ミミの方に目をやると何度も小刻みに頷いて、こちらを少し睨んでいた。
「あ、あー、ならそれで…。」
「本当ですか?!嬉しいです!!では明後日のお昼の出演でお願いします!詳細は後でお送りしますが、、出演は御三方ですか?」
「あーえっと、一応三人で。」
「かしこまりました!楽しみにしています!25分ステージですので、その間はいつも通りの感じで歌ってもらえれば!それでは失礼します!」
保育士らしきお姉さんは子ども広場へ向かって走って行った。
「……ってことで、早速明後日ライブ出演が決まったんだけど、アリア…どうだろうか?」
「…………。」
「アリア……ん?」
アリアは、おおよそ女神とは思えない白目を剥いた顔で泡を吹いていた。
「「アリアー!!!??」」
おれとミミの二人で彼女を呼び覚そうとしたが、彼女が我に返るまで約十分かかった。
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルはハンブレッターズさんの楽曲より拝借いたしました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




