ささやかな
アリアの加入が決まってから数日、彼女からの連絡は途絶えた。
アリアには、それまでにできていた九曲のオリジナルソングと作曲中のデモの録音データをミミに送ってもらったが、返事も来ないまま一週間が過ぎた。
残されたおれ達二人は回数の制限されたストリートライブをしつつ、たまに配信ライブをして950カーズまで届いた。
シティエストの店にミミと向かってベースの件について話すと、“ミミック様以外でも女神様が使用するなら”ということで格安の値段で購入できた。
これでもし、万が一アリアから一切の連絡が途絶えても、またシティエストから泥棒呼ばわりされることはないだろう。
その日はストリートを終えて、仕込んでおいたうずらの煮卵で二人晩酌をしていた。
「それにしても、なんでそんなに歌上手いんだよ。誰からも言われたことなかったのか?」
「だからぁ、言ってるでしょ?言われたことないし、そもそも本気で人前で歌ったことなんてなかったの。今だって音楽理論も何もわからないまま、君が歌ったメロディに沿って歌ってるだけだよ。」
「それが信じられないんだよなー。神様にもそれぞれ才能とかってあるのか?」
「んー?才能…そんなこと考えたこともなかったなー。あるんじゃない?」
「そんな適当な…」
「君達だって現世ではそんな感覚でしょー?」
「まぁ確かになー。……。」
「……アリアのこと考えてた?」
「あ……うん。やっぱり無理やり勧誘し過ぎたかなって。」
「…そんなことないよ。大丈夫。あの子は嘘をつくような神じゃないよ。」
「…そうだな。それより、アリアが入ったらヒミツって名前変えるか?」
「あ、そうね!アリアも入って3人だからー…“ヒミスリー”ってのはどうかしら!?」
肩にイブキを乗せたミミは自信満々の顔を見せた。
「……ダサいし、アリアの名前が入ってないから却下。」
「えー?!なんでよー!…ん?あ、ちょっと待って!」
急におれとの会話を止めた。誰かからテレパシーが入ってきたようだった。
「…もしもし?…うん、久しぶり……大丈夫よ?……え?今?!ちょ、ちょっと待って!すぐ開けるから!」
ミミは急に玄関へ走って行った。
そして、ゆっくりと玄関からこちらへ向かって来る足音が聞こえた。
「ヒビキー♪お待ちがねの神が来たよー!」
「…や、夜分遅くに失礼します。」
おれに頭を下げたのは、健気にベースのソフトケースを背負って肩を丸めたアリアだった。
「アリア!」
「お、おふたりとも…連絡取らず、すいませんでした。あの、あれから自分なりにベースを研究して、それでひとまずいつも演奏しているというカバー曲のフレーズと、持ち曲にベースをつけてきたので合わせてみようかなと思いまして……。」
「はい?!まだ初めて1週間だぞ?!フレーズはおれが考えるって言っただろ?そんな無茶な…。」
「か、勝手にごめんなさい…!!ただ、曲を聴いていたら…なんとなく頭に鳴る音があったので、それを弾いてみただけで…その、全然イメージと違ったら、ぼ、ボツで構わないです…。」
かなり緊張しているのか、アリアは顔を真っ赤にしていた。
「ヒビキー、せっかくアリアが考えてきてくれたんだから聴いてあげてもいいじゃない?」
「い、いや、そうなんだけど、、。」
ひとまずギターを手に取って、アリアにも準備をしてもらった。
「じゃーどれからやる?自信あるやつとかあるか?」
「じ、自信…はどれもない…けど、『情景』って曲は一番好き、です。」
「それ、まだできてないんだけど…。」
作りかけの『情景』はアリアと出会った翌日の朝に、アリアの好きなゲームと、アリアのことを想って作った新曲だったが、何かが足りない気がして、1コーラスできたところで一旦デモとして置いていた曲だった。
「じゃぁ、やってみるか?それはまだミミが歌えないから、おれが軽く歌う感じになるけど…。」
「……ん。」
彼女は深く頷いた。
「せーの、」
無いはずの2コーラス目に入った段階で、手を止めたのはおれの方だった。
「……ひ、ヒビキ君?やっばり合わせにくいですか…?」
「…どうやった?」
「…は、はい?」
「どんな研究したんだ?!」
「…!は、はい!えっと、まず三日間エレキベースの仕組みと基礎知識の本を100冊読みました。」
「100冊……?」
「は、はい。で、その後の三日間現世の音楽、バンドを中心に他ジャンルも含めてベースの立ち位置とアプローチの仕方を聴き漁りました。たぶん70年分くらい。」
「ななじゅうねん……。」
「で、昨日頂いていた曲を聴いてベースを考えてみました。カバー曲から取り掛かったらオリジナルもできそうな気がして…『情景』に関しては、1コーラスしかなかったけど、ヒビキ君の好きなコードの運びはこの感じかなと思って…で、でも、違いますよね…。」
「……寝た?」
「え?」
「この一週間、ちゃんと寝たか?」
「あ、はい。もちろん。寝ないと頭に入れた知識が整理できませんからね…。ただ、寝る時もずっと音楽は聴き続けていました。」
正直引いた。ドン引きだった。あまりにもストイックすぎる内容と、それを平気で話すあたりが、人智を超えている気がしてならなかった。
そして、それを裏付けるように、彼女のベースは美しいハーモニーを奏でつつ、しっかりとおれのギターを支えていた。
おれは唖然とし過ぎて、それを通り越して笑いが込み上げてきた。
「はは……あはは!!あははははは!!アリア!最高!」
「…え?え?」
「すごいよ!めちゃめちゃ上手い!アリアは知識から入るんだな!さすがだ。そんで、ありがとう。このデモ曲に足りなかったのは、アリアだったんだって気付いたよ。」
「え?ほ、本当ですか?」
「ああ。この曲は後で一緒に作るとして他の曲も聴かせてくれるか?」
「は、はい!やってみます!」
彼女が弾くフレーズはおれのイメージ通りの箇所もあれば、時々それを飛び越えて来るフレーズもあって、理想のベースだった。もちろん技術が足りないところも沢山あるが、そんなことよりも彼女との呼吸が合うというか、彼女がしっかりベースとしてリードしてくれている感じがした。
(〜〜〜♪)
全ての曲を一通り終えた。
「おおー…!!!」(パチパチパチパチパチパチ……!)
(キュン♫キュン♫)
ミミとイブキも驚きながら拍手していた。
「すげぇ…ほとんど95点以上だよ…。」
「ほ、本当ですか?…えへへ。」
ようやくアリアの顔にささやかながら笑顔が見えた。
「一週間で、ここまで仕上げてくるなんて…天才か?」
「そ、そんなわけありません!全然です!す、少し喉が渇きました…これ、頂きますね?」
「それにしてもほんとにすごいな。まぁ、多少の細かい修正はこれからしていくとしても、全曲大枠は今の感じでいいよ!ミミはどうだ?歌いにくかったりするか?」
「え?なんで私に聞くのよ!」
「ミミがボーカルだからだよ。ボーカルが歌いにくいところがあったら変えるのが普通なんだよ。」
「私はヒビキの教えてくれたメロディを歌うだけだから周りが何してもそれに乗って歌うだけだよ。」
「ははは…こっちも天才かよ…。」
「私は天才なの?!えっへん!」
「謙虚さの差はだいぶあるみたいだな……。よし、じゃぁ新曲を作ろうと思うんだけど、一緒に作ってくれるか、アリア……ん?」
ミミの方に向けた顔を、向かい合っているアリアの方へ戻すと、ベースボディのくびれに、強調するように右胸が乗せられていた。
「………ありあー、作ってくれるか?」
またミミから殴られる気がして目を無理やり逸らした。
「…もっと見ていいよ?」
「は?」
「…それとも触る?ボクの胸♡」
「ん?お、おいアリア!さっき飲んだのって…!?」
アリアのそばにあった缶を見ると“アルコール度数GOD”と書かれていた酎ハイだった。さっきまでミミが呑んでいたやつだ。
「ヒビキ君を音楽でもベットの上でもボクがリードしてあげるから、君はボクに身を委ねたらいいんだよ…?」
おれの手を柔らかく摩る様子を見て、般若の顔をしたミミが飛び込んできた。
「何やってんの!!そういうことするならどーぞホテルへ!!どこへでも行きやがれ!このど変態エロ豚M男!!!」
「な、なんでおれ?!アリアは疲れ溜まりまくってだんだって!この間はこんな程度じゃ酔ってなかったのに!」
「ん〜?溜まってたのは疲れだけじゃないんだよ?ヒビキ君♡」
「あー!うるさい!だまれ!!!何アリアたぶらかしとんじゃいボケ人間が!!」
「だからなんでおれ?!!」
アリアを2人で無理やりソファに寝かせた。中断した作曲の続きは明日彼女が起きてから再開することにした。
ミミはその日“汚らわしい”と言っておれを寝室には入れず、たまたまイブキが怒らなかったので、イブキの部屋で初めて寝かせていただいた。
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルはSUPER BEAVERさんの楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




