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それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
20/59

カレーのうた



初の配信ライブから数日が過ぎた。その間もストリートや作曲をしながらミミを連れて子ども達に会いに行ったりもした。


不思議と自分の中にある創造力が尽きることはなく、また新たに二曲の新曲ができた。

ひとつは配信ライブでの感覚を忘れないように書いた『見えない顔』。少しダークめだけど、あの時の感覚を大事にしてちゃんと肯定的な歌詞にした。

もう一曲はシティエストさんのことを書いた『街恋(マチコイ)』。あの爺さんの性格は気に入らないが、“老人だって恋をしても、ドキドキしてもいいじゃないか”というメッセージをこの曲に込めた。



そして、おれ達の稼ぎは600カーズを超えていた。これにはかなり安心した。まだ活動を始めて二ヶ月も経っていないのに、メンテナンスに出しているギターの修繕費3,000カーズまで五分の一にまで届いたんだ。ストリートするたびに観客の数は増えていく一方だし、これならばもう少し頑張れば3,000カーズも夢じゃないような気がしていた。


その日はミミが朝から神殿に呼び出されたらしく、おれは一日中彼女の家でギターを弾いたりイブキと遊んだりしていた。



(ガチャガチャ…)


「…ただいまー。」


「あ、おかえり!…うわ!めっちゃ疲れてる顔!ずっと神殿にいたのか?こんな夜まで。」


「そうよー。あの神達しつこいこと、しつこいこと…」


(キューゥン?)


おれの頭の上にいたイブキも心配そうな声を出した。


「ごめんねーイブキー、今日はもうかまってあげられ…ん?何の匂い?」


「いやー帰りが遅くなりそうな気がしたから、スーパーに買い物に行って料理作ったりしてて…まぁ、おれも腹減ってなかったから、待ってたよ。」


「おー?!ほんとに!?君が!?……ヤーン♪たまにはいいことするじゃないか!確かに君の現世での唯一の取り柄は料理だったもんね!貧乏なくせに美味しそうな料理作っては、女の胃袋だけ掴んでt…」


「ミミ?別にお前に食べさせなくてもいいんだぞ?」


おれは無理に笑顔を見せて言った。


「う、うそよ!冗談!この匂いは、、カレーね?♪」


「ん?ああ。牛すじが安かったから牛すじカレーにしたよ。ここ最近暑くなってきたからこういうのもいいかなって。」


「えー!?♪美味しそう!すぐ食べましょ!」


「あ、いや、一応…風呂も沸かしたんだよ。いつもシャワーばっかりだからさ。勝手にだけど…。」


「えー?!何?これは夢?!それとも奇跡?!そんな簡単に奇跡が2回も?!明日はこの世界に大悪魔が現れt…」


「おーい?ミミさん……?」


「あ、あーごめんごめん!すぐにお風呂入るよ!」


「…ったく。さっき沸かしたばかりだから、あったかいはずだぞ?どうせならイブキと入ってこいよ。おれはカレー温め直しておくからさ。」


(キューゥン♪)


「やったー♪よかったねぇ、イブキ!一緒にお風呂入りましょ♪」


嬉しそうに彼女はイブキと浴室へ向かって行った。






「いただきまーす♪……んーー♪おいひいーー!!!」


(キューーーー!♪)


お風呂上がりの一人+一匹が美味しそうにカレーを頬張った。


「あー、そう。それは何より…。」


「君、どこに料理の才能持ってるわけ?!私はあげてないはずなのに!すごいねー♪しかも冷蔵庫に残ってた食材まで使ってくれて!主夫?!君は主夫なのかい?!」


「あはは…違うって。料理は好きだったからなー。余計なこと考えなくて済むというか、息抜きみたいな感じでよくやってたら、気付いたらそこそこ美味しいの作れるようになってたな。」


「最高じゃん♪疲れなんか吹っ飛んだわ!ねー?イブキー♪」


(キューゥ♪)


なんとも幸せな風景だった。そして確かにミミの言う通り、今この瞬間だけは主夫になった気分だった。



「…で、神殿で何があったんだ?そもそもなんで呼び出されたんだよ。」


「あー、うん。…君のことだよ。」


「おれ?!…やっぱりあれか?不法入国的な…」


「いや、それは違うよ。君は不法入国なんてしていない。それを言うなら連れ込んだ私の罪だからね。でも私はちゃんと神殿に許可を取って君をここに呼んだから、そこを怒られることはないわ。」


ミミはカレーを口に運びながら話していた。それどころではないおれは、目を丸めて彼女の言葉に耳を傾けてた。


「じゃ、じゃぁ何なんだ…?」


「そうねー。簡単に言うと、君のストリートが人気出過ぎて神殿が困ってたのよ。」


「はぁ?!」


「君のしていることは別に違法ではないし、神殿サイドも悪く思ってないわ。ただ、そのせいでこれからどんどんストリートをしたり道端で何かを披露する者達が現れて、街の治安が悪くなることを危惧してるのよ。」


「あー…。」


「そして、これが一番の理由なんだけど、観客が立ち止まるせいで迷惑している者がいるってこと。」


「う…。」


「君も思い当たるところはあるでしょー?演奏を聴いてる者は楽しそうだけど、その人混みを一生懸命抜けている通行人もいるんだよ。」


「まぁ、確かに…。」


「これはある種、嬉しい悲鳴ではあるのよね。現世でもこういうケースはあるでしょ?」


「…おれは経験したことないけど、ストリートでプロになる人達は、観客を集めすぎて警察に補導される事がひとつのステップとか…。」


「そう、それが今まさにヒビキ自身の身に降りかかってるってことだよ!」


彼女は空のスプーンをおれの方に向けた。皿のカレーは綺麗に無くなっていた。


「…あ、おかわりいるか?」


「ええ♪もちろん!」


おかわりのカレーをミミに差し出して話を続けた。


「それで、おれ達はこれからどうしたらいいんだよ?ヒミツって名前だけに本当に秘密裏に活動しろとか?」


「そこまで向こうも厳しくはしないわね。別に私達に敵意がある神なんて、少なくともあの神殿にはいないわ。」


「…じゃぁ、」


「まず、街の中でゲリラ的なライブをする時、神殿側が指定した場所と時間内で演奏をすること。それ以外のストリート演奏は基本的に禁止になったわ。どうしても別の場所、時間でしたいなら神殿側に事前に許可を取ること。このルールを与えられたわ。」


「うげ!めんどくせー!」


「あと、街の中じゃない、例えばヒビキがいつも作曲する時に使ってるあの草原の場所みたいな、道じゃない場所でのライブはいつでもOK。」


「そりゃそうだろ?そんな決め事までするのかよ。」


「しょうがないのよ。神殿だって、君を守るために考えていることなんだ。それから、配信ライブもOKだし、こらからもしイベントに呼ばれることがあっても、出演はOKだよ。」


「なるほど、、とにかくみんなが歩く道に迷惑をかけるようなことをしなければいい、ってことか?」


「簡単に言うとそうなるわね♪」


「そうかー。まぁ、神殿側が言ってることは最もだし…何も反論できないな。…あ!あそこは!子ども達の広場!」


「そこ!そこを今日何度も話し合ったのよ!向こうが“広場も禁止”って、演奏場所として認めなかったから、君が絶対に嫌がるだろうと思って、そこだけは守り抜いたわ。いつもの時間くらいしか使えないけどね。」


「ま、まじかー!ありがとう!あそこがなくなるのは結構辛いからさ、本当にありがとう!」


「…ふふ♪君はそういう人間だもんね。…で、その上でひとつだけ条件なんだけど、“子ども達をロックの道に導かないこと”。これが条件よ。」


「はぁ?そんなことするわけない…というか、ロックの道って何?」


「要するに今みたいな歌詞ならいいけど、反世界的思想や反神的思想の歌詞の曲を作るなってことだよ。歌って、時に強い啓蒙活動になり得るからね。」


「言いたいことはわかるけど、おれ達にそんな力が…」


「あるかも知れないって思われてるのよ。」


「…ほー。…これは喜ぶべきこと?」


「ええ♪もちろん!」


また彼女は空のスプーンをおれに向けた。


「…お、おかわりかな?」


「ええ♪もちろん!あ、今度はルウ多めライス少なめで♪」




牛すじカレーを四杯もたいらげたミミはソファでイブキとくつろいで、おれは空になった鍋と、食べ終えた食器を洗っていた。



「…ったくよー。カレーって二日目が美味しいのに……あ、そういえばミミ、ストリートできる場所とか時間とかおれは聞いてないけど、どうしたらいいんだ?」


「んー?結構あるから覚えられるかなー?私が覚えておくからヒビキは気にしなくていいよー。」


(きゅ…)


洗い物が終わって水を止めた。


「ふーん、じゃぁ明日はどこでできるんだ?」


「明日はないよー。」


「え?!ダメな日とかもあるのかよ!」


「まぁーそんな怒らないの。決まったことなんだから。」


「……もしもの話、おれはそんなことするつもりはないんだけどさ、もしルールを破ったら?」


「現世の君の体は消滅して、スリップノートまで連行されるかもねー。私は始末書を一ヶ月間くらい寝ずに書かされるかな。」


「………。」


「そういえば、神殿の神達がヒビキのギター褒めてたよー。“なかなかエレキギターとは思えない程、実に美しい音色だ”って。」


「へぇー…い、いや!騙されんぞ!そうは言っても稼がなければ!」


「配信すればいいんじゃない?」


「あーまぁ確かに。」


「…あ!じゃぁさ♪じゃぁさ♪明日も何か作ってよ!料理♪」


「なんでそうなるんだよ…。」


「いいじゃない!配信まではどうせ暇でしょ?」


「その“どうせ”ってやつやめてくれないか…?」


「あはは♪配信終わったらヒビキの料理で乾杯しようじゃないか!」


「はいはい。わかったよ、何が食べたい?」


「そうだなー♪何にしよっかなー♪」


「…はは!じゃ、明日はお昼に一緒にスーパーに行くか?そこで決めよう。それでいいか?」


「おーけー!そうしましょ♪やったー!」


ミミは楽しそうに笑っていた。一瞬女神だということをを忘れてしまうくらいに。






翌日ミミと、いつもより少しだけ質の良いスーパーへ行った。今まで来たことがない店なのに、ミミは一人で自由に行動していた。ある程度の広さはあるものの、適当に買い物をしていればいずれ会えるだろう。


「んー…さっきミミはブリ大根が食べたいとか言ってたなー、本当に日本食好きなんだなー。」


そんなことを呟いていると、特売コーナーに1本だけ残っていた大根を発見した。


「お!これはゲッt…」


(ちょん…)


同じ大根に向かって伸ばした誰かの手に触れてしまった。


「あ、すいません!」


おれが触れたその手は、止まったままピクリとも動かなかった。


手から伝って全身を見ると、セミロングで空色の髪が、顔を隠すように被っていたパーカーのフードからチラチラと見えた。小柄でオーバーサイズの服の上からでもわかる程、柔らかそうな肉体を持った女性がそこにいた。彼女もまた、羽衣を纏っていた。


止まっていたその手がプルプルと震え始めた。


「あ、あの、もしかして女神様ですか?すいません、どうぞ、大根の方は貴女様がお取りください…あはは。」


「…して。」


「はは…え?」


「大根はそちらにお譲りしますので、どうか許じでぐだざい!か、身体だけは、カラダだけは……!!」



翡翠色の瞳から涙を流しながら、その女神らしき女性はその場にしゃがみ込んでしまった。




お読みいただきありがとうございます。

今回のタイトルはアニメ『みなみけ おかえり』の劇中歌より、拝借致しました。声優、小野大輔さんの素晴らしい歌声を聴くことができます。そちらも是非。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。

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