Passion
配信が開始されたことを確認して、おれ達は演奏を始めた。SNSで宣伝もしていないし、ミミにMCまで任せるのは酷だと思ったので、始めは分かりやすくカバー曲から始めた。ミミの好きなサカナの曲だ。
始めは視聴数が5、6人だったが、一曲目が終わる頃には1,000人を超えていた。さすが、地球の人口の1,000倍ある世界だ。
“この曲知ってるー♪”
“嬉しいなーまた聴けるなんて”
“女性ボーカルバージョンとかマジ神。歌うま過ぎ”
“地球の曲?いいね!”
“ってか歌ってるの神じゃね?”
“初めて見たけど、歌うま過ぎて神”
流れているコメントを見ると、ミミの歌に対するコメントが多く寄せられていた。コープランドだけあって、誹謗中傷のようなコメントは全く見当たらなかったが、地球人特有の言葉のだらしなさのせいで“神”という文字の意味が、どういう意図で使われているかわからなかった。他の星の人と思われるコメントもあって、知らない文字だけど、なんとなく読み取ることができた。
一曲目を終えた。二曲目もおれはカバーを選んだ。二曲目までは彼女の緊張をほぐすことと、集客を目的とした。ミミの好きな日本を代表する女性シンガーの曲。おれも大好きな曲だった。
“うわー!すげ!ギターリバーブ超良い!”
“この曲ギター1本で歌うんかよヤバ”
“ゲームの曲だ!懐かしいーやったなーあの神ゲー”
“この楽器、ギターっていうの?地球の楽器?”
“ってか歌神がかってる”
“羽衣ついてるしリアル神じゃね?”
“神曲キターー!”
“羽衣とかコスプレできるやろー”
“ヒミツって聞いたことない誰?”
“どなたか存じませんが、今日でファンになりました!神ー!”
“もっと聴きたいー”
“歌上手いな”
“ワイ、ハチノクニ住み。最近ストリートしてる人見かけたことあるけど、ギターの人その方がも”
いろんなコメントが流れていた。二曲目が終わった頃には視聴者が2万人を超えていた。さすがに驚いたが、冷静に考えると、地球で考えれば20人が見ている程度だ。気にするほどでもなかった。
三曲目、ミミが歌いたがっていた『息吹』を演奏した。
“知らない曲ーでも良い曲だなー”
“たぶんこれオリジナルだわ、ボーカルさんの良さが出てる”
“男の方も歌うんかい”
“男の歌も悪くないけど、女性の方がうま過ぎる”
“サンノクニでライブしてくれ”
“マジ歌良すぎて神”
“神ボーカル”
“みんな、マジで神じゃね?”
“神じゃね?”
“さすがにない”
“女神様じゃ”
“歌マジ神だー”
“男の方はコーラスが映えるな”
“男ハモリ良い”
“ギターも良い音してるなーどこのメーカー?”
“MDC?知らないメーカー。超良い”
“この曲好きー、生で聴きたいー”
おれが思っていた以上にこの世界は平和だった。視聴者の数は5万人を超えたあたりで安定し始めたが、投げ銭は確かにそんなに見かけなかった。金額もどこに表示されているかもわからなかったので、見ることができなかった。
三曲目が終わり、次は『クラゲと静寂』を演奏した。
“リバースディレイでルーパーの多重録音かー良い趣味してるわこのギターの人”
“ギター1本でこんなことできるのすご”
“この楽器すごい!”
“まじで1人で弾いてるん?ギターって楽器すごすぎん?”
“幻想的な雰囲気ー”
“幻想的な中にこのボーカルの声が合ってる”
“ボーカルさん生歌?!マイクでリバーブとか付けたらもっとギターと合うのに!”
“生歌でこれは神すぎ”
“部屋の雰囲気良くしたらもっとやばくなりそう”
“いや、逆にこれがリアルでライブ感あってわたしは好き”
コメントをチラホラ見ていると、誹謗中傷というよりかはアドバイスのようなものは幾つかあった。そのどれもが的外れなものではなく、特に押し付けがましい感じもなかった。ただその中にひとつだけ目を引いたコメントがあった。
“ボーカルは神。ギターの男は圧倒的に駄目。この男は好きになれん”
こんなコメントの中にたったひとつのコメントでおれの心はほんの少しだけ揺らいだ。だがむしろ非難のコメントがつく方が嬉しいことだ。
それが理由になっだけではないが、四曲目が終わって、ミミに“次で終わろう”と耳打ちした。
彼女ができないだろうと思っておれがMCとして口を開いた。
「えー、次で最後の曲になります。今日は僕達の初配信をご覧いただきましてありがとうございます。」
“えー”
“えーーー”
“もっとしてー”
“もっと聴きたいぞー”
“次回も待っています”
“早速フォローさせていただきました!次回も楽しみ!”
“次はいつ?”
“888888888”
“ボーカル最高!顔も美しい!黒髪最高!浄化される!男の方は性格悪い。”
“ありがとー8888”
みんなの感謝のコメントの中にやはり、引っ掛かるコメントがあった。コメントにつけられた色を見る感じ、さっきの非難コメントをした人と同一だろう。性格の話までしてくるなんて、音楽とは関係ないところまで悪くいう人がこの世界にもやはりいるのか。
続いてまた同じ人物がコメントした。
“男は犯罪者。コープランドへの不法入国!借りたものを返さない泥棒!”
妙に具体的なコメントだった。
さすがの誹謗中傷に視聴者がその1人を攻撃し始めた。
“おい!さっきからなんだよ!出鱈目言いやがって!”
“言葉遣い汚いあなたの方が不法入国じゃないんですか?”
“文句あるなら見るなよ!”
“人のことそんなに悪く言いたいならシャーロットへ行かれれば?”
“違う!わしは本当のことを言っておる!”
“運営に誹謗中傷過多で通報しました。そろそろ追放されるので最後よろしければコメントを…”
さすがに焦っておれは口を開いた。
「いや、みんなちょっと!ひとりの方を攻撃するのは良くないですよ!別にアンチコメントは嬉しい部分でもありますから!」
“良い子ぶりおって小僧が…あ、みm”
コメントを打っている途中で追放されたのだろう。このコメントを最後にこの人物からのコメントはなくなった。
そして、おおよその特定ができた。
「え、えーでは最後の曲になります。本日はありがとうございました!またいつか。良い夜を。」
五曲目は『コイン』の予定だったけれど、おれは『プラネタリウム』に急遽変更してイントロを弾いた。この曲は、水族館に行った時に見た水槽の魚達がまるで綺麗に輝く星に見えたところから作った思い出の曲だ。
ミミは始め驚いてこっちを見たけど、おれが間違って弾いたわけではないのを確認すると、笑ってカメラの方を向いて歌い始めた。
今日は初めて天界で配信をした。配信は人の顔が見えないし、拍手も聞こえないけど、温かかったり時々冷たかったりするコメントが、全て拍手に聞こえた。こういうライブもたまには良いなと、そう思いながら五曲目が終了した。
「……よし!配信終了したよ!お疲れ様ー。」
「ミミお疲れ様ー。イブキもよくそこでジッと我慢してくれたな、ありがとうな?」
(キュンキューゥン♪)
「みんな私のこと神神ってすごかったねー!」
「…あれはきっと、人間の言葉遣いの悪さが出てる部分でもあるけどな、、はは…それより、バレちゃまずいか?」
「え?神ってこと?別に何もまずくないわよ?他の神もいろんな趣味持ってるから。」
「そ、そっか。なら良かった。」
「そんなことより投げ銭チェックー♪……へー!割と最後にみんな投げ銭してくれたみたいね!」
「へーいくら?」
「50カーズよ。」
「おおー!すげえ!でも、やっぱりミミの言った通りだな。人数に対して考えると、ストリートの方がお金は入るのか。」
「まぁそれでも、名前は少しは拡まったと思うわよー♪ほら、さっき作ったヒミツのアカウント、3万人がフォローしてくれたみたいね。」
「へーそれは嬉しいな。たまにはこういうのもやっていきたいなー。」
「そうね!…で、さっき追放されてたアカウントなんだけど…」
ミミが画面をいじっている。
「え?そういうの特定できるの?」
「いいえ、特定まではできないけど、アカウント名くらいなら私にも覗けるわ。なんなのよねーヒビキのことボロカスに言いやがってー。不法入国なわけあるかい!私が呼んだんだぞ!」
「あー…あはは…それなら、大体の検討はついt…」
「こいつね!アカウント名は…“街S人”…ですって。ヒビキの知り合い?」
「…。はぁー。知り合いっていうか、まぁそんなところかな。明日お昼に少しひとりで会ってくるよ。悪い人じゃない。…ついてきたり覗き見しないでくれよ?その人にもプライバシーはあるんだから。」
「へー、君にこの世界でそんな知り合いがいたなんて知らなかったよ!了解♪」
「あ、あと空中バッグって、借りることって可能?」
翌日、おれはある店に向かった。
(カランカラン…)
「……また小僧か…今日は一体d…」
「おいクソジジイ…余計なコメント打ってんじゃねーよ!」
「わ、わしゃ知らん!知らんぞ!」
「なんで喋り方がコメントにまで反映されるんだよ!!?“街S人”ってなんで自分の名前わかりやすくモジってんだよ!つーかなんで日本の漢字理解してんだよ!!なんかすげームカつくんだよ!シティエストー!」
「いやー知らん!!わしゃ何も知らんからの!」
「…で、どうだったよ?女神様の歌声は。」
「そりゃーもうあの声は誰もが魅了されておかしくない!素晴らしい歌声じゃ!そしてあのオーラ!見ているだけで気を失いそうじゃったわい♪」
「しっかり見てんじゃねーか!変態クソジジイ!」
「チッ…わしは変態ではないぞ!それに嘘のコメントなどしておらん!!」
「くっそジジイが……!…えっと、こうやって掴んで…。ほらよ!」
(ドサッ…)
シティエストの目の前で、女神から借りた空中バッグを使ってドラムセットを取り出した。
「返してなかったのは悪かったよ。たった三日そこらで泥棒扱いされるとは思わなかったけどな!」
「へへーん♪わしゃ嘘はつかんわ!あっかんべーじゃ!」
非常にイライラする態度だった。
「このヤロー……。ただ、不法入国は嘘だからな!!?それだけははっきりと言っておく!おれは女神のミミの指名でここに呼び出されたんだ!」
「……!?」
ジジイが急に棒立ちになって表情が消えた。
「……なんと言った…?」
「は?」
「…今、なんと言ったのじゃ?」
目の前の男は荒い呼吸をしながらプルプルと小さく震えている。
「だから、ミミの指名でこの世界に呼び出されたんd…」
「…みみみ、み、“ミミ”じゃとー!!!!????お前神様に向かって、しかもよりにもよって“わしの”ミミック様を愛称で気安く呼ぶなんぞ……!!!そんなこと許さん!!!わしゃ許さんぞ!!!!」
「いやいや!別にミミはじいさんのもんでもないし、これはメンバーになったから対等でいようという女神からの提案で…」
「なんじゃと!??ならばすぐにわしもメンバーに入れんか!?!!ほれ!!!」
「じいさんも呼びたいんかい……」
「お、お前だけずるいのじゃ!!!…はあーーお前のことはやはり好きになれん!!!!好きになれん!!!!」
「ほぉー?そんなこと言って良いのか?じいさん。」
怒り狂うシティエストにおれは少し口角を上げながら言葉を続けた。
「おれが今ここにミミを連れてこなかったのはひとつ、大事な情報をあんたにくれてやろうと思ったからだよ。」
「な、なんじゃ?!」
「……おれがそのドラムに触ったのは今じいさんの前に出した一瞬だけだ。そして、全てスタンド部分を掴んだ。」
「そ、それがどうした!?……っ!!!お、お前、ひょっとして……?!!」
おれはニヤリと笑ってみせた。
「そうさ、その椅子には確かに女神様は座ったんだよ。数分間だけだけどな?スティクに染み込んだ汗も、スネアドラムに刻まれた跡も、そして、ドラム椅子に残ったケツの感触も!女神様だけの痕跡なんだ。おれがあんたのために大事に保管しておいたんだぜ?」
「…な、なんと!ぐぬ、ぬおーー!!!……………ほ、ほっほっほ!!ヒビキ殿!昨日は大変に失礼なことをした!詫びようじゃないか!」
「いえいえ、わかってくれれば良いんですよ、シティエストさん♪」
「またいつでもお前の頼みなら聞いてやろう。その際には、、な?」
「ああ!」
(ガシッ!)
おれ達は深い握手を交わした。
「ふぅー…ただいまー。」
「おかえりなさーい。会えたー?マチエスジンって人。」
「…あー、ちゃんと仲直りしてきたよ。」
「ふーん…なら良いけど、仲直りすることと、昨日夜中に君がいつもの草原でドラムを叩いていたことと、何が関係あるのよ?」
おれは全ての動きを止めてニヤリと笑ってみせた。
「…ふっ、男の“情熱”のためさ。」
「んー??」
(キューゥン??)
お読みいただきありがとうございます。
今回のタイトルは世界で活躍するシンガー、宇多田ヒカルさんの楽曲より拝借致しました。ゲームの世界観に相応しい幻想的で素晴らしい曲です。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




