大丈夫
「…はぁ??!なんでよりによって私がボーカルなのよ!嫌よ!あんな目立つポジション!」
女神はおれのボーカル勧誘をほんの二秒足らずで断った。
「おれだって諦めるのは嫌だ!あなたがボーカルだ!そう決めた!」
「勝手に決めないで!ひとりでやればいいじゃない!他にも歌上手い者はいっぱいいるし私は神だよ?神がバンドなんて…」
「嫌だ!あなたの声が良い!さっき聴いて確信した!今までのオリジナルも歌いにくいならキーを上げます。だから、おれの作った曲を歌ってください!」
ギターを下ろしておれは深く頭を下げた。
「な、なんでここまでするんだよ!?意味わかんない!….タマに頼めばいいじゃん!君も昨日“最高”って褒めてたでしょ!?」
「あれはタマさんの心意気がカッコよかっただけで、タマさんは歌は上手くありません。あなたの声が良いです。」
頭を下げながらおれは話を続けた。
「今まで…いろんなアーティストに出会いました。歌が上手い人達には、揃って何か特別なものを感じていました。それがあなたにも感じました。しかも、ワンフレーズ聴いただけで、間違いないと思いました。あなたにおれの曲を歌って欲しい…歌ってください!」
「……本気?」
「超本気です!おれは、今の声を聴いて他の誰かをボーカルにすることも、おれ自身が歌うことも捨てました。」
「そ、そこまでしなくてm…」
「それくらいの覚悟です。」
「…顔、上げてよ。」
ゆっくりと顔を上げると、真っ赤な顔をして横を向いた女神がいた。
「そ、そこまで言うなら、や、やってあげても良いんだけど…」
「ほんとですか?!」
「でも…私からもお願いさせて…。」
「はい!いくらでも!」
「…ヒビキにも歌って欲しい。」
「はい?」
「私は誰かの前で歌ったことがないんだよ。心細いじゃないか…。」
「あー、えっと、ハモリとかで良いですか?」
「…出来れば、君もメインで。」
「えーと、、どうしましょうか…なら、ツインボーカルって形で、基本は女神様が歌って、所々おれがメインで歌ったり、女神様のコーラスしたりとか、そういうのならどうですか?」
「……わかった。」
「よっしゃー!!ボーカル決まりー♪」
「……あ、あと、」
彼女はまだ赤い顔をして下を向いた。
「え?まだ何か?」
「あ、あ、あのさ?一応め、んめ、め、メンバーになる、わけじゃない?わた、わたしたち。」
「…?はぁ、まぁそうですね。」
「だ、だから、…その、め、女神様ーみ、みたいなの?そ、そういうのはなしにして、あ、あげてもいあかなって…。」
「………?」
「ち、違うわよ!?あ、あくまでもこれは提案よ?!君がそうしたいなら、まぁ、さ、させてあげても良いかなーって……!」
彼女はなぜか少し怒りながらこっちを見てきた。
「…んー、、言いたいことはわかりました。……なら、これからよろしく!ミミ!」
「…っ!………ま、まぁ仕方ないわね!この女神が甘んじてタメ口も受け入れてあげるわ!」
「…なんか嬉しそうっすね…あはは!」
「ち、ちがわい!これは、夏に近づいたら暑くなってだねー、!!!」
こうしておれ達はその後、今持っている七曲のオリジナルソングとミミが歌いたがっていたカバー曲の三曲、計十曲を軽く練習した。さすがは神というべきか、歌詞とメロディラインは全て間違いなく記憶していて、なぜかドラムの時よりリズム感は遥かによかった。たまに独特にズレるリズムは、彼女の良いクセになりそうな気もして言及しなかった。
彼女の歌声はピッチ感が完璧というよりかは、自由で伸びやかに優しく人の心を揺らす声をしていて、おれから指摘する箇所なんてひとつもなかった。むしろ、何も気にせず歌わせる方が彼女の個性を伸ばせるような気がした。
現世でたまに現れる凄い女性シンガーのことを“天使の歌声”ということがあったが、まさにこれは“女神の歌声”だった。
暗くなる前に練習を終了させ、二人でいつもの激安スーパーで買い物してから家に帰った。
その夜は珍しくおれが乾杯の音頭を取った。
「では、ミミのボーカル加入を祝しまして!カンパーイ♪」
「かんぱーい!…」
(キューゥ♪キューゥ♪)
「っプハー!!!イブキー♪お前の曲のおかげでミミがメンバー入りしたぞー?ありがとなー♪?」
(キュウー?)
「そ、そんなことより、明日…本当にストリートするのよね…?」
「だから、明日からやるって何度も言ってるだろ?そんなに緊張するなら、まずは子ども達の前で歌ってから行こうか?そっちの方が気が楽になるかもだし。」
「…いえ!いいわ!私を誰だと思ってるの!?女神よ?!」
「お、おー…。」(パチパチ…)
「ま、任せなさいよ!」
震えながらそう言って、彼女は缶チューハイのお酒を一気飲みした。
「あ、あの、そういうの喉に良くないよー?明日に響くから、やめといた方が…」
「…ああん?なんだーこら?呑まなきゃやってられるかい!」
(うわー、相当緊張してるな…)
「あ、あのー、そういうおれの姿を見て。あなたはおれをアル中呼ばわりしたんですよねー?あはは…。」
「揚げ足取りばっかりしてんじゃないよ!…それに、天界のお酒は喉にきたり身体に害を与えることはないから安心して!…大体ここで死ぬことがないんだから身体壊すわけもない♪」
「だからって一気飲みは、、」
「うるせー!…よし!歌うわよ!今からもう一回明日のおさらいよ!」
彼女はおれにギターを手渡した。
「いや、近所迷惑だって…」
「ふふ♪ある程度防音もあるし、それに君が認めた歌声なら誰も文句言わないでしょ♪」
「調子のいい神だなーほんとに…。よし、じゃぁいきますよ!せーの……」
そうして夜のお酒を飲みながらの練習を進めた。観客はイブキだけ。それでも緊張していたのか、二、三箇所ピッチが合っていなかった。
「…ふー。じゃだそろそろ寝ようか?」
「えー?何でよ?!もう一回!」
「練習も大事だけど、睡眠も練習のひとつ!寝てる間に上手くなることだってあるんだから!」
「…人に説教喰らうなんて屈辱だわ。」
「説教っていうか、ちょっと頑張りすぎだよ。いつもおれに言ってくれてるだろ?“頑張らなくていいから楽しめ”って。…別にミミが間違ったっていいし、歌が止まってもいいよ。おれがその代わりに歌うから。キーが高くなってるからきっと下手くそに歌うだろうけど、それでもミミが嫌ならおれは歌うよ。」
「…うん。そうだね。その時はよろしく…。」
「で、出来ればそんなことない方が嬉しいんだけどなー?」
「…君は本当にカッコつけるのが下手くそだよね…。…ふふ♪ありがとう、ヒビキ。明日は楽しく歌えそうだよ!」
「それならよかった。ミミらしく、二人で楽しもう!」
翌日、ストリートを終えて帰宅した。
(ドッサァ……)
「……60.カーズ…。」
ほぼ白目を向いておれ達二人はその金を見ていた。
「あ、あのミミ、様…?」
「はい、なんでしょうか…ヒビキ、様…?」
「い、一日で、600万円近く稼げたんですけど……。おれがひとりでストリートしてた時の約十日分…。こ、これはミミ様のおかげ?」
「ど、ど、どうだろうか?タイミングかなー?」
「…乾杯……します?」
「……できる気分かい?君は。」
その日、今までで一番の稼ぎを達成したものの、その額の跳ね上がり方にビビり倒して呑むことさえできなかった。
お読みいただきありがとうございます。
本タイトルはマルシィさんの楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




