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それでも尚、神に媚びる  作者: 羽曳オトカ・A
16/59

バンド



翌朝、少し遅めに起きたおれと女神はいつもの草原でしじみ汁とおにぎりを昼食にして、気持ちのいい風に当たっていた。この世界に初めて来た時よりも風が少し生温かくなっていて、夏の訪れを感じていた。




「んー……楽しかったなー、昨日。タマさんが歌って、おれがギターを弾いて…。」


「…なに?もしかして“やっぱりタマの従者になる”とか言おうと思ってるの?」


不機嫌そうに女神は質問した。


「違いますよー。なんでタマさんの話になると不機嫌になるんですか?」


「いいわよねータマは!私が女神だから区別をつけるために名前で、しかも愛称で呼ばれてさー。」


「…名前で呼ぶなって最初めに言ったのはあなたでしょう?」


「べ、別に呼んで欲しいわけじゃないわよ!そういう意味じゃない!勘違いしないでよ!」


「はいはい……。でも、やっぱり誰かと音楽やるって楽しいなって思いましたよ、昨日。」


「…まぁ、君は元々誰かと音楽するのが楽しいからバンド始めたんだもんね。」


「んー……んーーー………」


おれは横になって体をゴロゴロと回転させた。


「んーーー………あ、そうだ!」


「どうしたの?」


「女神様がおれとバンド組めばいいじゃないですか!!」


「………はぁ?!」


「女神様がおれとバンドしてくれたら全部解決しますよ!!」


「嫌よ!!私はライブを観てるのが楽しいの!やりたいなんて思ってない!人前で歌うなんてできるわけないわ!」


「別に歌うだけがバンドじゃないっすよ?ほら、ギターとかベースとか、ドラムだって…」


「いーやーよ!!言ったでしょ!?指が届かなくてギターは辞めたの!!あんな細かい動きできる気がしないわ!メンバー募集かければいいじゃない?!」


「それはそうですけどー、おれ人見知りだからなー、はは…。」


「じゃー今のままひとりでやりなさいよ!ふん!」


「大体女神様は前“何でもする”って言ってくれたじゃないですか!?おれ、女神様とバンドやりたいっす!」


起き上がって彼女を見つめた。


「まーたそうやって媚びてくる…。」


「ギターやベースの竿ものはできないとしたら、キーボードとかは?」


「弾いたことない。」


「ドラムは?」


「……昔ちょっと練習したことあるけど、遊び程度に。」


「それだ!ドラムやりましょう!!」


「待ってよ!そんな簡単に決めちゃダメでしょ!?それに、ギターボーカルとドラムのバンドなんて……」


「え?結構いますよ?知りません?」


「……あ、そうなの?」


「そうと決まれば一回叩いてるところ見せてください!ドラムセットあります?!」


「そんなものないわよ!私のバッグに何でも入ってると思わないで。」


「まぁ、それもそうか…あ、ならあそこに借りに行きましょう♪」


「……君の好奇心が時々怖いよ…。」


女神を連れて街へ繰り出した。





(カランカラン…)


「シティエストさん!どうも!」


「………また小僧か。馴れ馴れしくするな。お前のことは………おおお!ミミック様ーーー!!!何度お目にかかろうとも変わらぬ美貌!その凜とした姿!そして何より美を極めた青く艶掛かる黒髪っ!!!ありがたや〜ありがたや〜…。」


相変わらずこの変態じいさんは女神を褒め称えて拝んだ。


「今日はですねー、折り入って相談がありましてー……。」


そしていつも通りおれに対しては態度を一変させて彼は答えた。


「…くだらん!わしがお前の相談に簡単に乗ると思ったか!?」


「そのねー、今日はドラムを少し貸してもらえないかとーなんてね?」


「ドラムレンタルとな?お前は弾き語りじゃろーて!」


「だから、あるお方にドラムを叩いてもらおうと思いましてね?その腕前を見るためにちょっとの間貸して欲しいわけですよー♪」


「ふん!くだらん話じゃ!お前、無料で借りに来たな?わしにはわかるぞ!その薄汚い魂胆がの!」


「いや、ほんのちょっと叩かせてもらえるだけでいいんすよ。少しだけ叩いたらすぐ返しに来ますから…」


「ええい!調子に乗りよって小僧が!!どこの誰が叩こうとレンタル代はしっかり徴収するからの!!!」


「…では、叩く人どうぞ。」


「…あはは……すまないねシティエスト君、少しの間だけドラムセットを貸してもらえないかな?ちょっとこの子に煽られてね……まぁ、一度くらい私の腕前を見せてもいいかなと…。」


「むむ…!なんと!!!ミミック様でございましたか!!貴女様が演奏するのであれば楽器が喜びまする!!!むしろこちらがお金を払ってでも演奏してほしいものですじゃ!!なんなら、このシティエストをドラムと思って叩いてみてもらっt…」


「わかってくれましたか?シティエストさん。それならなるべく早くドラムを紹介してください。」


このジジイの変態度はおれの想像を遥かに超えているかも知れない。


「ぐぬぬ、、わかっておる!ふん…!さぁミミック様!こちらへどうぞ!」


おれ達は行ったことのない2階に案内された。

彼は奥の方にあった白いドラムセットの前に立った。


「こちらなら、ミミック様が叩くに相応しいドラムになりますかと!」


「へー、黒じゃないんですね。前“気持ち悪い”って言われたからですか?」


「ぐっ……!こ、こちらは私めの力作でございます!ミミック様なら、この重さのスティックがお似合いかと…」


わざわざスティックまで自ら選んで女神に差し出した。


「あははー!すまないねーこんなことまでわざわざ…すぐに返すからさ!」


「とんでもないことです!!ミミック様なら幾日レンタルされても構いませんですぞ?!いずれそのドラムがボロボロになったとしても!私めが喜んでメンテナンスに馳せ参じますじゃ!その際は、どうぞ私めをドラムセットだと思ってスネアロールをするようにぶったたいt…」


「じゃーこれにしますか?女神様。」


「そうだねー!シティエスト君のオススメならいい音が出そうだ!腕が鳴るよー♪」


「そうですね!あはは!じゃーシティエストさん、こちらを借りさせてもらいます!」


「…ふん!勝手にせい!ちなみに、そのドラムの名前はMimic of Sadis…」


女神様の転移スキルでドラムセットごと草原に戻ってきた。ここなら騒音問題にもならないだろう。

じいさんは最後何かを言っていたが、何も知らない。




「さーて!やるからには私のドラムの腕前を見せつけてやるわよー!」


女神が腕を回しながらドラム椅子に向かっている。


「あはは!さっきまで嫌がってたのに、なんだかすごいやる気ですね!」


「こういうのはね!勢いが大切なのよ!ここまできてウダウダ文句言ってるとどっかのダメ男と一緒だからね!」


(いちいち噛みつくよなー…)


「…はいはい。ならどうぞ、腕前を披露してださい。」


「…ふふ♪ぶったまげるんじゃないわよ!!」



ドラム椅子に座った女神が30秒ほどドラムを叩いた。



「…こりゃぁ…ぶったまげた……。」


「ふふん♪どうよ??」


「今まで見た中で誰よりも群を抜いて下手くそだ……。」


「え……?」


「いやー驚きました…。こんなにリズム感ない人って存在するんですね。あ、人じゃなくて神か…。これはなかなか…逆にリズム感がいいとも捉えれますけど…誰かと一緒に演奏するのは厳しそうですね……。」


「…え?私って、そんなに?」


「あー、まぁ。驚くぐらいには。」


「……いやいや!これでも一年くらいは練習したのよ?!…あ!あれだわ!その時は一緒に演奏してくれる者がいたから!そうよ!ひとりでドラムなんて叩いても意味がないわ!!!」


「意味なくはないんですけど…ならやってみます?おれギター弾きますけど。」


「そ、そうね!ヒビキと合わせたら、私だって!」


「じゃー軽く弾くんでエイトビートで合わせてくれますか?」


「え、えいとびーと…?」


「一年練習したならさすがにその言葉知ってると思いますけど……。いきますよー?」




(〜〜♪ドチャ!)





「はぁはぁ……。」


「……。」


「はぁはぁ……。」


「……。」


「…れ、練習してたのは本当よ?一日一回スティック持ってバットの代わりにしたり、お箸の真似してみたり…。」


「……それが練習になるなら、バンドマンもコープランドに押し寄せてくるでしょうね?」


「………はい…。」


女神はドラム椅子にちょこんと座り込んで膝を抱えてしまった。


「……はぁー。でも、これじゃぁさすがにライブはできないし、諦めて知らない人を探すかー。」


ギターを持ったまま仰向けになって『息吹』のサビ部分を弾きながら口ずさんでいた。


(〜〜♪)

(〜〜♪)


誰かの声が重なった気がした。

耳がおかしくなったと思っておれはギターは止めずに口だけを閉じた。


(君が跳ねたら〜♪僕も跳ねよう〜♫言葉が無くてもわかるように〜♪)


間違いなく、この声は女神から発せられた声だった。その声が、おれの心の中に強く響いた。


(ガバッ…!)


おれはギターを止めて彼女の顔を見た。


「女神様?!今歌ってた!!?」


「〜♪あ…ごめんごめん、君の歌を聴いてたら覚えてしまってね、ついつい一緒に歌っちゃったよ。優しくていい歌だよねこの曲。」


「いやいや!そこじゃなくて!あなたそんなに歌上手かったの!!???」


「歌?上手いのかな?誰かの前で真剣に歌ったことなんてないしね。。ヒビキの曲はハイトーンのものが多いから私でも歌いやすいだけじゃない?」


「いや!そんなレベルじゃないって!そういえば今まで、遠くで口ずさんでるのしか見たことなかったな…。」


「ふーん、そうかなー。」


(ガシっ…!)


おれは急いでドラム椅子へ駆け寄って、女神の両肩に手を置いた。


「ちょ、、なによ?!」


「決めた!あなたがボーカルだ!おれの曲は、あなたが歌うべきだ!」




こうして、ボーカルが決定した……はず。





お読みいただきありがとうございます。

本タイトルはクリープハイプさんの楽曲から拝借致しました。バンドマンへのアンセムのような曲です。そちらも是非。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。

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