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訪問聖女と黄金の杖  作者: KMY
第2節 不労の代価
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5.ロゼール

今日は月曜日だ。毎週月曜日の午前はくっすり寝ている。おじいさんの手伝いで大変だから月曜日の午前くらい休ませてと父にお願いしたら、昼いっぱいまで寝ても叱られないことになった。ありがたい。


私――ロゼールは、昼過ぎになってようやく起きた。朝食だか昼食だかよく分からない食事をとったあと、家の外に出てみる。フローラ以外にも仲いい子はいるのだが、今はフローラが恋しい。昨夜ずっと通しで一緒だったのに、たった半日あけただけでも寂しい。

変装していない時の私は、天然パーマがかかって毛先がくねくね曲がっている赤い長髪を背中まで伸ばして、水色のワンピースを身に着けている。作業する時はさすがに別の服を着るけど、ワンピースはフローラと色違いのおそろいだ。


フローラの家へ向かっていると、すれちがった男から声をかけられる。ここの近くの家の父親だね。


「やあ、こんにちは、お疲れさん」

「こんにちは。あの‥お疲れっていうのは?」

「あっ、すまん、仕事仲間と話すうちに癖になっちまったみたいだ、ははは」


男は笑ってそのまま通り過ぎた。お茶目な人だね。すると突然、後ろからぽんと頭を撫でられる。振り返ると、村長の奥さんだった。白髪を隠すように、黄土色の布をフードのように頭にかぶせている。


「今日も元気だねえ」

「元気だよ! ほら、この通り」

「ふふふ」


村長の奥さんは私によしよししてくることがある。子供なら誰にでもよしよしするわけではないらしく、確か私も最初によしよししてくれたのは9歳の頃だっけか。はじめは緊張していたが、今では慣れたものだ。


「ああ、そうだ、メル市は最近瘴気騒ぎがあったから気をつけるんだよ。当面は行かないほうがいいだろうね」

「ありがとうございます!」


昨日大変だったのはそれのせいだったのか、どうりで。私は行くけどね。


情報をもらったお礼を伝えてからさらに歩くと、向こうの市場で何人かの大人が集まって話している。私がそばまで歩いていくと、大人たちが一斉に私を取り囲んだ。


「こんにちは、みんなどうしたの?」


そう尋ねると、いきなり白菜、人参、トマトの入ったかごを差し出される。


「うちの野菜が余ってな、差し入れだ」

「わあ、ありがとうございます! おいしそう!」

「ああ、うちの野菜は一番だからな」

「えへへ」


笑顔を振りまいてお礼を言って通り過ぎたところで、ふと後ろからさっきの大人たちの話し声が聞こえる。「来週は俺の番だからな」「いやいや、私の家のほうがたくさん余ってるのよ」「いや、俺んだ!」一体何の話だろう。

何年か前から毎週1回差し入れをもらうんだ。それも、村の中で私だけらしい。フローラも受け取ったことがあるらしい。差し入れをもらう曜日は決まってないけど、月曜日が多いね。月曜日は私も暇でよく外で遊んでいるから会いやすいのだと思う。

私はふと思い出して、くるりと戻ってその大人たちに話しかける。


「ねえ、おじさんたちはどうして私に差し入れをくれるの?」

「そりゃもう、俺たちはみんなロゼールが好きだからだよ」

「あいつもこいつも、村人たちはみんな好きだよ」

「みんな君の味方だからね」


どうして私がそこまで好かれているのか聞きたくても、有無をいわさず頭を撫でられる。くすぐったい。


粘土のようにこねくり回されてようやく解放された私は、ついにフローラの家についた。私の家と同じような、2部屋しかない小さい平屋だ。この村の家はほとんどが、リビング兼キッチン、寝室の2部屋しかなく、小さい。前世の教会と比べると、悪く言えば小屋だ。それでも私には幸せだった。

ドアをノックすると、黒髪の少年が出てくる。フローラと一緒にこの村に来た少年で、名前をシリルという。服はクリーム色のシャツの上に緑のベストを装着している平民そのものであったが、まるで貴族の執事のようにすらりと背筋を整えていて、私とフローラが一緒にいる間も脇役に徹している。私より少しだけ年上なのに、立派な大人のような落ち着いた佇まいがある。村人たちはこの2人を貴族の駆け落ちとか噂していたけど、私は本当に貴族絡みだと思う。だってシリルは、フローラのことを様をつけて呼ぶから。


「フローラ様、ロゼールさんでございます」

「あら、ロゼール」


ちなみにこのシリルも私の正体を知っている。フローラが私に協力する以上、どうしても伝えなければいけなかったと思う。いま私の秘密を知っているのは、兄のジャック、フローラ、シリルの3人だね。私が今まで秘密を隠し通せているのは、フローラたちもしっかり気を付けてくれているのが大きいかな。本当にありがとう。


リビングのテーブルで上品に座っていたフローラが椅子から下りて、私の前まで来てピンク色の無地のスカートを持ち上げる。


「こんにちは、ようこそいらっしゃいました。おかけください」

「うん!」


振る舞いが貴族みたいだね、というのは私も村人も言わないようにしている。なんとなく触れてはいけない気がしている。村人たちは、フローラに対して協力的だと思う。


「野菜のお裾分けをもらったからフローラにもあげるね」

「ありがとうございます」

「いえいえ、私も、いつも一緒に来てくれてありがとう」


野菜を半分くらいぼろい木のテーブルの上に置こうとしたら、シリルがかごを持ってきてくれた。


「昨日は大変でしたね」

「最近、メル市で瘴気騒ぎがあったらしいよ」

「なるほど、そういうことでしたか。しばらくは大変になりそうですね」


さっき教えてもらったばかりの情報を伝える。今朝市から村に戻る途中フローラとはあまり話していなかったので、今は話したいことがたくさんある。メル市の噴水のこと、近所のおじさんのこと、母の務めている店のこと、話題は尽きないのだった。

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