42.ロゼール
翌日の朝、私――ロゼールはフローラと一緒にメル市へ行った。浮遊魔法で。私は髪の毛を結ばず、長髪のままで。マスク無しで。
ここに兵隊がいる間、私たちはメル市の人たちの治療ができなかった。そして、こうなった以上、正体を隠す必要はないと思った。
十字に走る2本の大通りの交差点にある噴水広場に降り立つと、市の人たちが目を丸くして、私たちに視線を集めている。
敵意はない。それは分かってるけど、多方向から見つめられるのは怖い。でも、フローラが手を握ってくれている。
「病人を治しに来ました。病人のいる家へ案内してください」
「ま、待って‥」
市民の誰かが呆気にとられたまま尋ねてきた。
「聖女、隠すんじゃなかったんですか‥‥?」
「昨日国王陛下がいらっしゃって、フローラと一緒に聖女をつとめることになりました、ロゼールです。でも王都には行きません。ふつつかものですが、よろしくお願いします」
市民たちは戸惑いながらも歓迎してくれた。
私とフローラは、次々と家に入っていった。
フローラも聖魔法を使えるし、あのあと聞いたところ精霊と話すこともできるし精霊魔法も使えた。私と離れて別々に動き回ることもできたし、そのほうが効率は高い。
でもフローラはそれをしなかった。ずっと私の隣にいてくれた。
ある家を出ると、国王が玄関の外に立っていた。
「ディアナ、来ていたなら教えてくれ‥」
「お父様、まだ昼過ぎですよ。それに、今回の一連の騒ぎで治せなかった人が他にもいます。お話は夜にゆっくりいたしましょう。そうだ、確かお父様と一緒に王都から来られた兵士がいらっしゃいますよね、お会いできますか?」
「‥分かった。ともに行こう」
国王は「ついでだ」と、またフローラに話しかけた。
「これからもあの村に住みたいのか?」
「はい」
「ディアナに継承権を与えた以上、警護の兵を置かなければいけない。村が少々物騒になるが‥‥」
「‥ロゼール様、メル市に引っ越してみますか?」
「うん」
私は二つ返事で頷いた。母もいるし、何よりフローラがいるなら大丈夫。私はさっきからずっと握り続けているフローラの熱い手を、さらにぎゅっと握った。




