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訪問聖女と黄金の杖  作者: KMY
第5節 唯一の力
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21.フローラ

ロゼールの意識をそらしたところまではよかったのですが、その先の話がうまくまとまりませんでした。わたくしの準備不足と反省しています。

でも最後まで聖魔法の話を続けられました。お昼になりましたので続きはまた今度話すことにして、いったん別れます。


ドアが閉まったころ、わたくし――フローラはふと、ロゼールの忘れ物に気づきました。テーブルの上に、ロゼールが過呼吸になった時に使う袋が、無造作に置かれていました。ロゼールははじめ、自身が聖女になるという話をするつもりだったようなので、あらかじめ取り出していたのでしょうね。

‥‥袋ですか。ロゼールが普段使っている袋ですか。この袋に、ロゼールが自分の口をつけて‥‥いえ、そうじゃないかもしれません。今日のロゼールは袋をお使いになりませんでした。袋は定期的に洗っていますし、新品に取替えたかもしれませんし。‥‥わたくしはなんてはしたないことを考えているのでしょうか。

忘れ物は届けなければいけません。わたくしは家を出て、坂道をのぼりました。


ふと、家と家の隙間の向こうに2人の子供を認めました。木の前に立つ男の子と女の子でした。袋を握っていたわたくしは立ち止まって、身を家の壁につけます。


「そ、その、前からカールちゃんが好きでした。僕と付き合ってください!」


愛の告白でした。貴族間では男女のお付き合いは婚約を前提とした家族くるみのものですが、平民は付き合って別れてを繰り返して最適な相手を見つけていくと聞いたことがございます。そんな恋愛も素晴らしいものです。一度でもOKを出したら人生を捧げる覚悟を決めなければいけない貴族と違って、気楽なものです。あいにくわたくしは、貴族の世界での恋愛を植え付けられておりますが。わたくしは手元の袋をさらにぎゅっと握ります。

そしてあの2人をもう一度見て‥‥はっと気付きます。男の子が、女の子にプレゼントを差し出しています。花‥‥あれは花で作った冠でしょうか。


告白する時に差し出すプレゼント。


それを、女の子は受け取りました。


「ありがとう、よろしくおねがいします」


プレゼントを受け取って、告白にOKを出して。


‥‥聖魔法を使えるのは、ロゼールでした。

ロゼールが告白と一緒にプレゼントを贈ってきて、それをわたくしが受け取ったとしたら‥‥?

ロゼールの一言でわたくしの聖の魔力が無くなったのは、あれがもともとロゼールのものだったから‥‥?


わたくしは自分の顔に熱がこもっているのに気付きます。

‥‥仮説です。これはまだ、仮説です。裏付けが必要です。それまでは‥‥‥‥。自分の頬を白い手で覆い隠して、わたくしの足は自然と坂道を下っていました。


わたくしの家には、すでにシリルが帰って料理を始めていました。「おかえりなさい」「フローラ様もお疲れ様です」そんなうわべだけの会話を交わして、わたくしの足は寝室へ向かっておりました。

そして、握っていた袋を見つめます。これは本来、ここにあってはいけないもの。‥‥ですがわたくしは、その口に鼻を近づけます。

これが持ち主のにおいかは分かりません。古い布独特のさびれた匂いがします。ですが、わたくしの心臓が全身を激しく揺らします。


「‥‥ロゼール様」

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