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蠱竜陀 -最凶の四人で『蠱毒』してみた-  作者: 節兌見一
第三章『鬼門蠱竜会』
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3-4 開宴 -Duel Standby-




上方のとある名家から依頼を受け、旧都まで出張して登録済み業物の一斉点検を行う。

遠方での大仕事になるから、少なくとも一月以上は家を空けることになるだろう。


「必ず戻ってくるから、家を頼んだぞ」

「うん。どうか道中お気をつけて、兄さま」


雹右衛門は、あくまで仕事で家を離れるという体で逝原城に赴いていた。

たとえこれから始まる『鬼門蠱竜会』で死ぬことになろうと、旅先で事故死したという形で雪路に知らされることになっている。


(死ぬ気はない。だが、気概だけで生き残れる世界でもない)


マサの後に続いて逝原城の大鉄門をくぐった時点で、もう既に一般人の立ち入れない国の中枢領域内、後戻りのできない場所にいる。

ここで何かをしでかせば、城に詰めている侍や忍びどもをたちまち敵に回すことになる。

(千はくだらないか。たった四人を相手に、臆病なことだ)

雹右衛門は幕府の用心を冷笑したが、その実、千人の監視よりもたった三人のつわものの方が遥かに恐ろしく感じられた。

ビリビリと、雹右衛門の背筋が危機感に痺れていた。


(これほどの『虫』たちが都に潜んでいたとは……)


平静を装いながらも、雹右衛門は笠の下でごくりと息を呑む。

恐らくは、同格かそれ以上のつわものが三人。


雹右衛門と並び、砂利の敷き詰められた庭に座らされている。


「ほほほ、ほぇ~……蝶々じゃあァ……」

落ち着きのない童のようによたよたとその辺の蝶を追いかけまわしているのは、骸骨のような細身の老人。

『独言髑髏くも八』。


「だっはっはっは、赤ん坊みてぇな爺さんだなぁ。別嬪さんもいるし、楽しめそうだ」

『天下無双』と文字の書かれた道着の大男が、豪快に笑っている。

『天下無双の王槐樹』。


そして。

「……」

かつての依頼人『絹』は、物憂げな表情を浮かべて虚空を見つめている。

『殲姫シルクマリア』。


その誰もが、どこか毒々しい気配を放っている。

雹右衛門自身も、気付かぬうちにそうなっているのだろうか。


「まもなく、『第三代将軍』柾国さまがお見えになる。無礼の無きよう、心得よ」


高位の武家らしき老侍が重々しく告げた。

その顔には古い刀傷がいくつも刻まれ、気配の猛々しさは禍山にも匹敵する。

恐らくは『第一代』勃国の代から、すなわち戦国の時代から逝原家に仕えてきた重臣だろう。

剣の腕もさながら、業物を持ったつわもの共の扱いにも慣れていると見えた。


マサが裏の顔ならば、この男は表の顔なのだろう……)


その時だった。


「礼儀など気にすることはない。この四人と私は、対等だ」


声は、つわものたちの背後から聞こえた。

マサだ。

つわものたちの前に進み出てたマサは、座した四人を見下ろすように告げた。


「お初にお目にかかる。第三代征羅大将軍、逝原柾国である」

「「「……ッ!」」」


雹右衛門を始めとしたつわものたちは、目を剥いた。


「……ッ!」


『業物』狩りの主催者、かつての雇い主の思わぬ正体に、雹右衛門は開いた口が塞がらない。

だが、心のどこかで腑に落ちるような気がした。

将軍ならば、『鬼門蠱竜会』などという大それた祭りも企画できる。


「驚きましたか、雹右衛門先生? あなたを敬い殺しに走らせていたのは、他でもない幕府そのものだったというわけです」

「……」


雹右衛門は何をか言おうとしたが、やめた。

妹の命を握られている。そのまま頭を下げ、他の者たちがしているように傅いた。


雹右衛門にとって、自分の感情や命よりも、雪路の未来の方が重い。

この男は敵に回せない。


そういう理性が働いていたが、一人だけ例外がいた。


「逝原柾国ッ! 貴様が将軍家の……」


絹だった。

絹は、物憂げだった目を剥き、刃のような憎悪を柾国へと向けている。


「故郷を、於頭の地を焼いた私が憎いかね、『殲姫シルクマリア』。ならば撃てばよい」

「私にそれができないとでも?」


絹は、懐から業物を取り出した。

八頭拳銃『八岐大蛇』の一号。

八岐大蛇すべての複製元となった、蛇の祖だ。

その銃口を真っすぐ向けられてなお、柾国は揺るがない。


「撃ちたければ、撃てばよい。だが、私一人が死んだところで国は揺らがず、次の刹那に君は始末される。『例の業物』は手に入らず、君たちの計画はとん挫する」

「……そうやって、全てを把握したつもり?」

「無論だ。私は私で、生まれ持った業をやりくりして支配を敷いている」


柾国は


「私には、逝原の父祖から受け継いだ才能、君たちつわものが持っているような異能を持っていてね。不思議と物事の先が見えるのだ」

「つまらないことはするな。私の予想の範疇を超えたければ、な」

「……」

「安心しろ。私は約束をたがわない。優勝した暁の契約は、我が家名にかけて必ず果たす」


「早速だが、明日から始まる『死合い』の説明を……」

「お待ちくだされ!」

 閲兵場に、一人の侍が乗り込んできた。

 その顔を見て、王槐樹はぴくりと眉を動かした。


「……つまらないことはするなと、言ったのにな」


 柾国の命により、影から無数の忍びたちが躍り出て侍を取り押さえた。

 侍は全身を雁字搦めにされながらも、柾国に礼の姿勢を取る。


「不躾な願いとは存じます。ですがどうか、この夢路新右衛門斬鐘めに仇討ちの許可を!」

「ほう、仇討ちとな」


柾国が手をかざすと、忍びたちは侍を残して飛びずさった。


「申してみよ」

「はっ! 我が兄、夢路斬鉄……『かまいたち恋次郎』は、『天下無双の王槐樹』に闇討ちされ、あたら命を落としましてございます。夢路家を抜けた出奔人とはいえ、血を分けた兄。どうか某にこの卑劣に報いる機をいただきたく……」


「まあ待ちなって」

 ぶつりと、音がした。

 まるで『糸が切れた』かのように、夢路斬鐘を捉えていた力が消え失せた。

 王槐樹が手刀を振るったのだ。


「試合の意義とかアンタらのケジメってのはよく分からねぇけどよ、要は俺がこいつと立ち会えばいいんだろう? なあ」


王槐樹は咳き込む斬鐘の前に立ちはだかった。


「兄貴の仇討ちたぁ立派なことだ、俺にも兄貴がいるから同情するぜ。だがよぉ、だからって殺されてやるわけにはいかねぇなぁ」


王槐樹は拳を中段に構えた。


「ほら、来いよ。侍なら、強ぇ弱ぇで物事決めねぇとな」

「……黙れ、痴れ者がッ!」


 斬鐘は抜刀し、王槐樹に斬りかかる。


 その切っ先が王槐樹の胴を袈裟斬りに斬りつけた。

 しかし。


「……駄目だぜ、アンタ。鉄も斬れないくせに仇討ちなんてよぉ」

 刀が、武士の魂たる刀が、王槐樹の筋肉に負けて折れていた。

「そんな、こんなことが……」

「ま、そういうことだ。今のが恋次郎の剣だったら、死んでたのは俺の方だったろうになぁ」


 王槐樹は残念そうにぼやきながら、無造作に斬鐘の頸に手を伸ばした。


「じゃあな」


 ごきん。

 王槐樹の握力が、斬鐘の頸椎を握り潰した。


「ほれ、片付けといてくれよ忍者軍団」


 王槐樹が斬鐘を放ると、影のように潜んでいた忍びたちが骸を運んで消えた。


「いやぁ、流れでつい幕臣を殺っちまいましたが、どうかお咎め無しでお願いしやすぜ」

「構いませんよ。こうなることは分かっていましたが、こちらの不手際ですから」

「ハッタリだろ?」

「さあ、どうでしょう」


 綱国は眉一つ動かさず、手を打った。


「それにしても、見事であった。その力、明日からの試合で遺憾なく発揮してくれ」

 綱国が目配せをすると、刀傷だらけの老侍が、背後から木箱を取り出した。


「おみくじだ。赤い印付きを引いたら一日目、そうでなければ二日目だ」


 忍びが四人のつわものたちの前を巡り、くじを引かせていく。


「さあ、赤を引いた者同士、引かなかった者同士がそれぞれの最初の相手だ」


 くじ引きが済むと、柾国は立ち上がった。


「『鬼門蠱竜会』最終御前試合の開始をここに宣言する。これより三日の後、生き残るのはただ一人。皆の者、よく願い、よく戦い、そして……死ぬがよい」


「だっはっは! よろしくなぁねえちゃん!」

「……ええ、よろしくお願いします」


御前試合『鬼門蠱竜会きもんこりゅうえ』第一試合。


『天下無双の王槐樹』対『銃姫シルクマリア』。

 明日の陽が暮れる時、生きているのはどちらかだけだ。


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