意味と理由〈二次創作〉
しいな ここみ 様 主催の『リライト企画』(企画期間:R5.10.15〜R5.12.31)の参加作品をリライトした作品です。
作者:腰抜け16丁拳銃/クロモリ440 様 のホラー作品『夢オチ【ホラー】4403』 https://ncode.syosetu.com/n8006ih/ が未読の方は、そちらからお読みください。
「なに産んでくれてんのよ、堕ろしときゃよかったのに」と自分自身の存在を否定する言葉が口を衝いて出た。
それは、珍しく酔っ払って帰宅した母にうざ絡みされ、昔見たという夢の話を無理矢理に聞かされた私の率直な感想だった。
親は勝手だと思う。
子には拒否権なんて無くて、不条理をただ受け入れるしかない。
受け入れたくなくても、それ以外に方法が無い。
私がいることで仕事を思うようにできず、苛つきを隠さない母をずっと見てきた。
疲れた、しんどいとすぐ弱音を吐き、家が汚いと喚き散らし、今は話し掛けないで、と子を拒絶する。
祖父母とは疎遠で、親戚はいないに等しい。
血の繋がった父親の顔ですら、私は知らない。
保育園や学童保育の送迎も、病院受診時の付き添いも、参観日や懇談で学校に来るのも、その全てが母だった。
高校生の今では、家のことを幾らかは手伝う。
けれど、所詮それは手伝いで、家事全般、基本的には母がしている。
母曰く、部活に学業、学生の今すべきことを今しっかりやりなさい、と。
母は昔も今も変わらず、家のことをして、仕事をして、また家のことをして、という、疲れてしんどいだろう毎日を繰り返している。
荷、自分は重荷。
母の肩に乗り、背に乗り、母を押し潰す重たいだけの荷物。
成長するに連れ重さは増し、母の貯金も、体力も気力も食い潰している。
時々思う。
母は何のために生きているのだろう?
私は何のために生かされているのだろう?
母の珍妙な夢に出てきたという人面子牛に跨がり、黄泉の国に行けてしまえればいいのに。
実父面の熊ごと、猟師に撃たれてしまえればいいのに。
自分という存在がこの世から消えて無くなればいいのに。
「きっと、何でもよかったんだよ。産むことの切っ掛けにしたかっただけじゃない? 周りからは堕ろせって言われるしかない状況で、それでもどうしてもキヨミのことを産みたいって思ったから、何でもいいから産んでいいよっていう理由が自分の中にほしかったんだよ。それがどんなに馬鹿げた内容の夢でも、お告げだぁーって言って、産んでいい理由にしちゃいたかったんだ。そのくらい、キヨミのママはさ、キヨミのことを無条件に大好きなのよ」
チエリは高校からの友人だから、うちの母にはまだ会ったこともないけれど、まるで母の気持ちを知っているみたいに、断定して話す。
その優しさに救われる。
「チエリは優しいなぁ。チエリのお蔭で、母親の憎たらしさがちょっとは減るかも」
「キヨミのママもだけど、私もキヨミのこと、大、大、だぁ~い好きだもん。だから、愛されているキヨミは、しっかり生きるのよ」
命なんて、とよく思う。
自分が生きている意味、生きていなきゃならない理由をよく考える。
「有り難う。私もチエリのこと、大好きだよ」
自分の中に理由が無くても、自分の中に意味を見い出せなくても、自分は生きていていいのだと、他から与えられる愛が教えてくれる。
愛されることを意味とし、他を愛することを理由とする。
そうして、思い当たった。
だから母は生きていて、だから私は生かされている。
見方によっては、私は母の人生を犠牲にし続けているのだろうけれど、それでも、持ちつ持たれつ、私が母を生かしている。
もっと愛そうと思った。
母も、友人も。
そう思えば、もっと強く生きられる気がした。