表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

01.12/21 出港②

本日2話目です。1話前からご覧ください。

出港セレモニーの余韻に浸りながら、私は近くの階段を降りた。

端にいたので、自分の部屋に戻りながら他の客室扉を眺めると、すでに個性が出始めていて楽しい。

多いのはクリスマス飾りだろうか。簡単にリースが飾られたものから、ストーリー性を持たせたものもある。

小さなサンタ達がプレゼントを作り、届けるために扉に階段をかけているものなんかは、可愛すぎて思わず立ち止まってまじまじと見てしまった。

中には今日が誕生日なのかバースデーバルーンが飾られている扉もあった。

私もあとから折り紙で扉の飾りに個性を出そう、と思いながら部屋に戻った。


船内ガイダンスを読んだり、テレビのショー案内を観たりして少し休んだところで時間になり、ディナー会場に行くために部屋を出た。


メインダイニングで席まで案内されるままについていく。

テーブルにはすでに3人の男女が座っていた。


「はじめまして。」

「どうも、はじめまして。」


お互いに軽く挨拶をする。

そう待たないうちに残りの席の人も来た。

私も含め8人テーブルは基本的には航海中変わらないらしいので、変な人がいたらダイニング会場や時間を変えなければならず面倒だ。


ドキドキしながら、メニューを見るふりをしつつテーブルのメンバーを伺う。

少ない若者が集められているのか、私とそう変わらない年代の男性が2人、女性が1人。

そのうち男女2人はカップルらしい親しさが見える。

残りの4人はご夫婦2組だろうか。年代は50-60代位の人たちだ。

とりあえず横暴そうな人達でないことにほっとする。


ウェイターの人が注文方法の説明に来てくれ、改めてメニューに目を落とした。


前菜、サラダ、スープは日替わりで1品ずつ決まっていて、なくすこととおかわりは自由。

メイン料理は日替わりで5品程度とパスタが3品あるので好きなものを選んで良い。

デザートは日替わりで2品程。

飲み物はパスキーで都度精算。


お水も有料とのことで、違うものを頼まないともったいない気がしてジンジャーエールを注文した。

迷った末にメインにチキンステーキトマトソースがけを頼み、デザートはチーズムースのベリーソースを頼んだ。

シェフお勧めになっていたので、まず不味いことはないだろう。


一仕事終えた気分で顔をあげる。

他の人たちも注文を終えたようだ。


ウェイターがメニュー表を下げていく。

おもむろにご夫婦の男性の1人が口を開いた。


「これからずっとこの席みたいだし、自己紹介くらいしておきませんか?」

「いいと思う。」


若いカップルの彼氏さんが肯定したことで、みんなが頷いて同意を示す。


「言い出したのは僕だから、僕からでいいかな。僕はディック・フロスト。今回の旅は子どもが手を離れたから、妻とバカンスを楽しもうと思ってね。地球は色々な所を回ったから、セルマーにも期待しているよ」


ちらりとディックが隣の女性を見た。


「私は妻のエマ・フロストよ。趣味は夫と旅行に行くこと。色々危ない目に遭った経験もあるから、困ったことがあったら気軽に声をかけてね」


「じゃあこのまま時計回りで、次は私かしら。マリナ・メッシングよ。今回参加したのは新婚旅行なの。ネイルが趣味よ。」


「えーっと、夫のウィリアム・メッシングです。結婚したばかりで、まだ『夫』って呼ばれるのにも慣れてないけど。趣味は料理。彼女⋯じゃなかった、妻の笑顔が見たくて、最近はスイーツにも挑戦中!」


「俺か。セルヒオ・スアレスだ。今回は仕事の関係で乗ってる。趣味⋯体を動かすことかな。」


どうしよう。変なことは言わないように。


「次は私ですね。青山さくらです。さくらがファーストネームです。私も仕事の関係で乗っています。食べることが好きです。船の食事も異国の食事もとても楽しみにしています。」


「エリザベス・ピアソンよ。セルマーの民俗学の研究者をしているわ。船の中でも講話をする予定だから、ぜひ参加してね。」

「夫のモーガン・ピアソンだ。同じく研究者。船では妻の助手を務める予定だよ。」


自己紹介が終わるタイミングでちょうど前菜が運ばれてきた。


今日の前菜は野菜のグリルバルサミコ酢ソースだ。

トマトにズッキーニ、かぼちゃに黄色パプリカと色とりどりの野菜にこんがりと焼き色がついていて色鮮やかだ。


『いただきます。』


小さな声でそう言って、口に運ぶ。

香ばしさと、バルサミコの甘酸っぱさが絡み合って、焼いただけの野菜って思ってたのに、まるで別物。

いいところのレストランに来たみたい!


次に運ばれてきたのは、ほうれん草とブルーチーズのサラダ。

ブルーチーズ食べたことなくて、クセがあるって聞いてたけど、これか。

でも、クセじゃなくて個性って感じかな。

ほうれん草のさっぱり感とチーズの濃厚さが、合ってるのがわかる。

散りばめられたナッツがまたいい仕事してるわ。


テーブルの人達も「美味しい」と食べていて、「美味しいよね、わかる」と心の中で相槌をうっていると次はスープだ。

えんどう豆のクリームスープは一口目で、ふわっと優しい香りがした。

クリームのコクがまろやかで、体の中までふんわり温まる。

はぁ幸せ。


そこそこお腹が満たされてきた所で、次はメインの登場。

チキンステーキトマトソースはカリッカリの焦げ目がつき、とんでもなく美味しそうな見た目で出てきた。

焦げ目のカリカリを損なわないようにか、トマトソースは飾りのようにお肉の周りに垂らされている。

ナイフを通すとパリパリと音が鳴り、口に入れればカリッと焼かれた皮の下から、じゅわっと肉汁⋯!

そこにトマトソースの酸味が加わると、一気に味が引き締まる感じ。

家でつくるのとはやっぱり雲泥の差があるわ。

おいっし!


心地よくお腹いっぱいの所にチーズケーキのベリーソース〜!

美味しいのはわかってたけど、想像以上だ。

濃厚なのにしつこくなくて、ベリーの甘酸っぱさが

次の一口を新鮮な美味しさで迎えてくれる。


悔やまれるのは私がもっと食べれる人だったなら、1人参加のスアレスさんみたいにメイン2つとか食べられたのにってことだ。うらやましい。

今度はデザート2つ頼もう。


食べ終わる頃には1時間は過ぎていて、ゆっくりのごはんだったなと思う。

毎日こうなんだろうか。


食事中も和やかに話ができていていい雰囲気だった。

みんなこのあとショーの予約とかしてるらしい。

何も予約とかしていなくてもったいなかったかもと思う。

「じゃあまた明日」と別れ部屋へ戻った。


扉を開け、数歩入ったところで私は立ち止まった。

なにか、違和感が⋯

後ずさって後ろ手にドアノブを握った。

「誰か、いますか⋯?」

部屋は静まり返ったままだ。

部屋の中をよく見てみる。

そうだ。カーテンが閉じてる。私、絶対開けたままだったのに!

誰か入ったのだけは確かだ!

ただ問題は、今いるのかどうか。いや、でも何か盗んだとして確実に船の中に犯人いるのに、わざわざ船内で窃盗事件なんて起こす? ということは、間違えて入った? いや、オートロックなんだから間違えて入るとか無理でしょ。え、え、どうしよ。

扉を開け、廊下を見渡してみるが残念ながら人は見当たらない。


「あの、ちょっと私離れるので、もし誰かいたらその間に出ていってください。お互い、顔なんて合わせないほうがいいでしょう? 私もそう思いますから。」


刺激しないよう落ち着いた声色でそう告げ、部屋からゆっくりと出た。


廊下から死角になるエレベーターの前まで走っていく。

ドッドッドッとなる心臓を抑えるように手を当てた。

耳を澄ませてみるが、扉の開く音はしない。

何分か待ってみても静かなままで、私はもう一度部屋に戻ることにした。


自分の部屋なのに、とりあえずノックをする。

相変わらず部屋は静かなままだ。

少しずつ扉を開け、全開にして扉を固定した。

部屋全体を見渡し、ドキドキしながらバスルームとクローゼットを開ける。

カーテンをめくって覗いてみても誰もいない。

私はようやく息をついた。

金庫も見てみたが中身はそのままで、カーテンを振り返って首をかしげる。

絶対開けてたんだけどな。


ポスッとソファに腰掛けると、ドレッサーに書類が増えている。

あれ?と立ち上がり確認すると今日の船内新聞だった。


『あれ?』


ベッドの上の書類を確認すると明日の日付の新聞に変わっている。

もしかして、ともう一度バスルームを確認する。

手拭きとして使ったタオルが新しいものに替わっていた。


⋯わかった。ただの清掃だ。

うぅっわ恥ずかしっ!!


顔を両手で覆い羞恥心に身悶える。


大丈夫大丈夫、誰にも見られてない。

大丈夫。⋯うぅぅぅ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ