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13.1/2 恐竜の国②

みんながアトラクションを終えるのを待ち、再び恐竜車へと乗り込んだ。

恐怖で強張っていた身体も、今はゆったりとした揺れが心地よく感じられる。


「みなさま、恐竜アトラクションはいかがでしたか?」


相変わらず爽やかなガイドさんの声に、楽しめたらしい何人かが弾んだ声で返事を返す。

そのやりとりを耳にしながら、恐竜車は来た道をゆっくりと戻っていった。


やがて大きな広場に出る。どうやら駐車場のようで、同じような恐竜車が何台も並んで停まっていた。

その中でも私たちの乗っているトリケラトプスモドキは堂々たる大型車両で、周囲の車体はひとまわりもふたまわりも小さい。

中には落ち着きなく首を振る小型竜の姿もあり、その仕草が妙に可愛らしい。


「それでは、これより昼食のお時間でございます。遅れないよう、はぐれないようお気を付けください。」


ガイドさんの声に促され、私たちはぞろぞろと列を成して街の中へと進む。

街へ近づくにつれ、むわっとした肉と香辛料の香りが鼻をくすぐった。

市場の喧騒はすぐそこにあって、屋台の奥からは鉄板の上で肉を焼く音や、鍋をかき混ぜるしゃもじの音が混じり合い、まるで音楽のようだ。

それでもガイドさんの声はよく通り、私たちの一団はきちんとまとまって進んでいく。


途中、串焼きを掲げて「安いよ!  新鮮だよ!」と呼び込む少年がいて、思わず立ち止まりそうになる。

その横では、小さな籠に入れられた卵のようなものを売るおばさんがいて、卵の殻からはかすかに温もりが伝わっているように見えた。


やがて案内されたのは、一際目を引く建物だった。

扉の上から床まで、まるで柱のように伸びる大きなドアノブが1本。

近づいてみると、それは恐竜の脚の骨を削り出して作られたもののようだった。

少し黄ばんだ白い骨は、磨かれた表面は光を反射し、触れるとひんやりと冷たい。


「これは狩人たちの誇りなんですよ。」


ガイドさんが軽く説明してくれる。


「昔は自分達が狩った骨からしかドアノブは作られませんでした。大きな骨や強い恐竜の骨ほど価値があるとされていまして、こうして店の顔、家の顔として飾られるんです。」


店の中に入ると、木の梁に吊るされた干し肉や、香草の束がずらりと並び、すでに食欲をそそられる。

店員が朗らかな声で「ようこそ!」と迎えてくれ、私たちはグループ毎に木の長テーブルへと案内された。

窓の外からは、まだ市場の喧騒が聞こえてくる。

恐怖で固まっていた先ほどまでの自分が嘘のように、いまはもう「早く料理が来てほしい」とわくわくしていた。


運ばれてきた「恐竜ランチ」は、見た目からして迫力満点だった。



まずは大きな皿にどん、と盛られたティラノサウルスモドキのボーンステーキ。

表面はこんがりと焼き色がついているのに、ナイフを入れるとごつごつとした筋が刃を押し返してくる。

口に運べば、野生の強い香りが鼻を抜け、噛んでも噛んでもなかなか噛み切れない。

私以外の人が難なく食べるので、焦って必死に噛み進める。

たっぷり振りかけられた香辛料がその獣臭をうまく押さえ込み、噛みしめるたびにスパイシーな熱気が口いっぱいに広がった。


次に深皿盛られたステゴサウルスモドキの煮込みが登場。

かみごたえも残しつつ、柔らかなお肉だ。

そのビーフシチューのような料理と一緒に添えられているのは、見慣れぬ緑色のトマトのような野菜だ。

口に入れると、想像以上に強い酸味が走り、こってりしがちな口の重さをさっぱりと切り裂いていく。大量に盛られているため、食べ進めるごとに爽快感が増していき、皿のバランスを絶妙に整えていた。


結構な食べ応えがあったメイン2品の後には、ブラキオサウルスモドキのスープ。

大きな鍋からよそわれた湯気は、どこか懐かしい香りを漂わせている。スプーンですくえば、透き通った黄金色のスープの底に、驚くほど柔らかく煮込まれた肉片が沈んでいた。

一口すすると、骨から染み出した濃厚な旨みが舌を包み、まるで豚骨スープを思わせるコクと深みが広がる。

一緒に出された小さなまるパンは、そのままだとモソモソとした食感でイマイチな感じだったのに、勧められてスープに浸すと絶品なパンに変わった。

空洞の多いパンの隙間に、ちょうどよくスープが絡み、パン特有の香ばしい香りが足されていた。


荒々しい恐竜料理の豪快さと、意外に計算された味の組み合わせに、テーブルを囲むみんなの表情は驚きと満足に満ちていた。


恐竜料理に圧倒されながらも、皿を空にした一行は、ゆっくりと腰を上げて街へと繰り出した。


お店の外に出て、改めて見渡せば、石造りの家々は低く安定感があり、緑色の屋根とは対照的に壁には花が彩りを添えている。


そして何より目を引いたのは、街の通りを普通の顔でのし歩く恐竜たちだった。

背に籠を背負った小型の恐竜が荷を運び、翼竜の影が当たり前のように道に影を落とす。

街角では、子どもたちが小さな翼竜に凧糸のような紐をつけて遊んでおり、笑い声が空に響いていた。

人々はそれを当たり前のように受け入れ、恐竜と共に働き、暮らしているようだ。

⋯私は翼竜の影はちょっとトラウマだけどね。



「ツアーの最後は、この市場での自由散策となります。ぜひ恐竜の恵みと、人々の知恵が織りなす文化を味わってください! 集合は2時間後、先ほどのダイノリア広場でございます。遅刻のないようお願いします。」


胸を高鳴らせながら市場を歩いていると、目に飛び込んでくるのは見たことのない品ばかりだった。

恐竜の皮で作られたバッグや財布は、ショーウィンドウ越しに覗くだけでも存在感がすごい。

けれど、その値札を見た瞬間、思わず二歩三歩と後ずさる。

冷やかしで中に入るのも躊躇われるほどの高さだ。


「⋯キーケースやキーホルダーなら、まだ手が届きそうかな。」


視線を移すと、棚には小物が整然と並んでいる。

だが、どうも私の感性からするとピンとこない。

色も形も、どこか野暮ったくて「可愛い」とは言いがたい。

せっかく市場に来たのだから、もっと心が踊るような出会いを期待していたのに。


本当は食べ歩きをするつもりだった。

市場の通りには香ばしい匂いが漂い、焼き立ての肉や揚げ物の香りが、鼻腔をこれでもかと刺激してくる。

けれど──お腹にはまだ、あのティラノサウルスモドキがずっしりと居座っている。

さっきまでレストランで「満足!」と笑っていた自分が、今は少し恨めしい。


出店の前を歩いていると、目に入ったのは地球公用語で「ステゴサウルスモドキの串焼き」と書かれた立て札。

串に刺さっているのは、すでに一口大に切られた肉の塊。

肉汁がじゅうじゅうと滴り落ち、煙と一緒に広がる香りはまるで誘惑そのものだった。


「⋯うーん、レストラン、失敗だったかな。」

いや、でも、あれはあれで美味しかった。

それに、あの瞬間の感動は間違いなく本物だった。

──なのに、今こうして市場の匂いに包まれていると、体が正直に「まだ食べたい」と訴えてくる。


食欲と満腹の間で揺れ動くうちに、私はふと横目で見つけてしまった。

人通りの多い通りから外れた、小さな脇道。

お店とお店の間にするりと伸びていて、そこからは表通りの喧騒が嘘みたいに静けさが漂っている。


「⋯行ってみようかな。」


誘惑に負けたような、冒険心に駆られたような気持ちで、私は小道に足を踏み入れた。


小道に入ると、空気が一変した。

さっきまでの市場の喧騒は遠ざかり、聞こえてくるのは恐竜の鳴く声と、どこかの家から漂ってくる煮込み料理の香り。

左右に並ぶ家々はどれも石造りでしっかりしていて、けれど装飾にはブロリランドらしい個性があふれている。


特に目を奪われたのは、各家のドアノブだった。

どの家も普通の真鍮や鉄ではなく、恐竜の骨や角を削り出して作られている。

ある家は白く磨き上げられた恐竜の骨、別の家は湾曲した角。

小さな家なのに、ドアノブひとつで堂々とした存在感を放っている。


『⋯すごい。本物の骨、なんだよね。』


触ってみたい衝動に駆られるけれど、さすがに勝手に手を伸ばすのはまずい。

感動で目を輝かせながら歩いていると、不意に声をかけられた。


「お嬢ちゃん、迷子かい? 大丈夫?」


セルマー公用語で話しかけられ、振り返ると、買い物かごを抱えたおばちゃんが立っていた。

年の頃は五十代くらいだろうか。丸顔で人懐っこい笑みを浮かべている。

突然の声に少し身構えたが、とっさに「大丈夫です」と返した。


するとおばちゃんは安心したように頷き、「でもせっかくだから」と道案内を買って出てくれた。

しかもただの案内ではなく、歩きながら各家のドアノブについて解説までしてくれる。


「ほら、あそこの家はね、トリケラトプスモドキの角なのよ。立派でしょ? 向かいのはステゴサウルスモドキの骨板。あれは加工が難しいから、かなり腕のいい職人さんさんの仕事ね。奥の青い花の家、あれは珍しいわよ。ヴェロキラプトルモドキの爪を組み合わせてるの」


「へぇぇ⋯!」


時折電子辞書を開きながら解説に聞き入っていると、思わず声が漏れる。

ドアノブひとつで、こんなに多彩なバリエーションがあるなんて。

ただの骨じゃなく、暮らしの中に恐竜の歴史が息づいているのだと実感する。


けれど一方で、心の片隅では少しだけ不安が顔を出していた。

──このおばちゃん、本当にただの親切な人だよね?

観光客を油断させてから財布を狙う⋯なんて話も旅先では耳にするし。


それでも、ドアノブの解説を聞いているとその不安も薄れていく。

彼女の声には悪意らしきものはなく、ただ純粋に誇らしげで、嬉しそうだった。

この街の人々にとって、恐竜は観光資源というより生活の一部なんだと、改めて胸に沁みてくる。


おばちゃんに導かれ、こわごわとさらに小道を奥へと進む。

市場の喧騒はすっかり背後に消え、代わりに聞こえてくるのは「カン、カン」と何かを叩く硬い音だった。


「ここ、観光客はあまり知らないのよ。」


おばちゃんはそう言って、古びた木の扉の前で立ち止まる。

扉のドアノブは白く削られた太い骨。さっきまで見ていたものより、ずっと無骨で力強い。


「骨や角を加工する工房。覗いてみる?」


にっこりと笑うおばちゃんに頷くと、ギィ、と扉が開いた。


中はひんやりとしていて、外の暑さが嘘のよう。

棚には大小さまざまな骨や角が整然と並べられ、天井からは乾燥中の革が吊るされている。

奥の作業台では、年配の男性が小さなハンマーで骨を叩き、形を整えていた。


「いらっしゃい。」


顔を上げた職人さんは、無骨だけれどどこか柔らかい眼差しをしていた。

おばちゃんが「観光の子よ」と紹介すると、彼は少しだけ口元を緩めて頷いた。


「見ていくといい。うちは派手な土産物は作らんが⋯本物を手にしたいなら、ここだ。」


案内された棚には、恐竜の骨で作られたナイフの柄や、角で彫られた小さなペンダント、骨を磨いて石をはめたキーホルダーなどが並んでいる。

どれも市場の店先にあった商品よりもずっと素朴で、しかし骨そのものの質感や温もりが生きている。


「これは?」


思わず手に取ったのは、掌に収まるほどの小さなブローチ。

白い骨を薄く削り出し、表面に繊細な恐竜のシルエットが刻まれている。


「ディプロドクスモドキだ。あの長い首のやつな。」


職人さんの声は低く落ち着いていて、作品への愛情がにじむ。


「市場にある派手な飾りは観光用さ。だが、ここの品は住民たちが普段使いするものでもある。丈夫で長持ちするからな。」


どこか誇らしげな言葉に、私は心を奪われた。

観光のきらびやかさの裏に、こんな本物の職人さんの世界が隠れていたなんて──。


おばちゃんが横で満足そうに頷きながら言った。


「ここなら、きっと気に入るものが見つかると思ったのよ。」


棚の一角で、ひときわ目を引く小さなブローチに目が止まった。

薄く磨かれた骨の板に、極細の線で花のシルエットが彫り込まれている。

光の角度によって模様が浮かび上がり、まるでそこに本物の花が咲いているかのようだった。


「これは⋯すごくきれいですね。」


思わず声に出すと、職人さんの男性が作業の手を止めて近づいてきた。


「気づいたか。この花はこの土地じゃ見かけない。だから、思い出として残せるように彫ってみたんだ。」


彼の声には少しだけ懐かしさが混じっていた。


「これはとてもきれいです。どのように作られていますか?」


尋ねると、彼は工具をひとつ手に取って見せてくれた。

先端が細い針のようになった小さな刃物。


「骨は硬いが、削って磨けば独特の光沢が出る。失敗すれば割れて全部やり直しだ。時間がかかるが⋯まぁ好きでやってるんだよ。」


その言葉に、胸の奥がじんと温かくなる。

観光用の派手な土産物ではなく、ここにしかない「命の痕跡」が詰まった一品。

私は迷わず「これをください」と伝えた。


職人さんは頷き、小さな布袋にブローチを丁寧に包みながら言った。


「いい目をしてる。きっと、大事にしてくれるだろうな。」


代金を渡すと、おばちゃんが横でにっこり笑って「いい買い物したわねぇ」と囁く。

布袋を手にした瞬間、不思議と心が軽くなる。

恐竜の骨から削り出された繊細な花。

それはブロリランドでの特別な時間を象徴する、小さな宝物になった。



はっと気づいて時計を見た瞬間、胸がヒヤリとする。集合時間が近づいている。


「あ⋯もう戻らなきゃ⋯!」


慌てて立ち上がると、職人さんが笑って手を振ってくれた。


「また縁があったらな。骨も人も、不思議と出会うべき時に出会うものだ」


その言葉は冗談めかしているのに、どこか深く響いた。



「ほら、あんた、急いでるんでしょ?  広場までの近道を教えてあげるから、こっちこっち!」


ありがたいけれど、少し心配になって「えっと⋯それは近道、本当ですか?」と確認してしまう。


「疑り深い子だねぇ。でも安心しな。こんなとこで悪さしても、恐竜が先に怒るわよ。」


おばちゃんはケラケラ笑い、私は半分ほっとしながらついていく。


石畳の間を抜け、恐竜の角を飾った門の下をくぐり、小さな噴水のある裏通りを通り過ぎる。

普段なら見入ってしまいそうな景色も、今はただ後ろ髪を引かれるように横目で眺めるばかりだった。


「昔はねぇ、保護区なんてものはなかったんだよ。」


おばちゃんは先を歩きながら、笑い混じりにそんな話を始めた。


「だから、そこらを歩いていても肉食恐竜がひょいっと顔を出すなんて、珍しくもなかったのさ。市場のど真ん中にだってね。」


さらりと言うけれど、こちらとしては背筋がぞわりとする。


「で、今はどうなったかっていうと⋯肉食恐竜はまとめて保護区に入れられてるのよ。狩りをしたい人間は、わざわざそこまで行かなきゃならない。まぁ、街の外に突然出てくることはなくなった分、ずいぶん安全にはなったけどね。」


私は思わず「え⋯狩りをします。それは危ない、違うのですか?」と尋ねてしまった。


「危ないに決まってるじゃないか!」


おばちゃんはケラケラと笑いながら振り返った。


「狩りに出る人も、相手の恐竜も、どっちも命がけさ。矢一本の油断が命取りになるし、逆に恐竜だって食べ損ねれば餓える。お互い必死なんだよ」


歩きながら話す声は、怖いことを言っているのにどこか軽やかで、長年この街に生きてきた人の強さを感じさせた。


「でも、まぁ⋯昔に比べたら、今はずっとマシさね。何しろ『突然現れる』なんてことはなくなったんだから。それだけでも、私らにとっちゃありがたいもんだよ」


おばちゃんはそう言って、すぐ先に見えてきた通りを指差した。


「さぁ、こっちを抜ければもう市場よ」


やがて大通りに出ると、市場の賑やかな声が近づいてくる。


「ここまでくればもう大丈夫。あとは真っすぐ行きなさい。」


おばちゃんが指差してくれた方向には、人の波と鮮やかな店のテントが広がっていた。


「ありがとうございます!」と頭を下げると、「いいのよ、いい出会いに迷いはつきものだもの」と、にこにこ見送ってくれる。


そのおかげで、ほんの少し余裕を持って広場に戻ることができた。

胸の中で小さな布袋を握りしめながら、私は安堵の息をついた。



恐竜車が停まる広場に戻ると、まだ少し時間があった。

乗ってきたトリケラトプスモドキのそばへ行き、御者に声をかける。


「この子、触ってみてもいいですか?」


御者がにこやかにうなずいて許可をくれた。

顔の近くはさすがに怖いので、前足と後ろ足の間あたりにそっと手を伸ばす。

お腹とも背中ともつかない場所で、ちょうど手が届く位置だ。


指先に伝わるのは、ヘビやワニの肌を想像させるような感触。

表面は固く、ごつごつとした凹凸がある。けれど、その奥には確かに柔らかな肉があり、温もりも感じられた。

意外にも指がひっかかることはなく、滑らかにペタペタと触れることができる。


夢中で手を動かしていると、トリケラトプスモドキがふいに身をよじった。

思わずビクッとして手を離す。


すると御者がのんびりした口調で笑った。

「大丈夫、大丈夫。踏まれたら危ないから、足だけは気をつけてね」


その声に、少し肩の力が抜けた。


手を離したあとも、鼓動のようなものが耳の奥に残っている気がする。

大きな生き物に触れた余韻が、不思議と胸の奥に温かく広がる。


トリケラトプスモドキは、こちらをちらりとも見ずに、のそりと首を振って地面の草をむしゃむしゃ食べ始めた。

まつげが意外に長くて、目元はどこか穏やかにさえ見える。

近くで観察してみると、皮膚の皺の間には土埃がたまり、小さな白い鳥が一羽、背中にとまっては羽毛を震わせていた。

どうやら虫をついばんでいるらしい。


「こいつら、案外きれい好きなんだよ」


御者がにやりとしながら鳥を指さす。


「鳥に寄生虫を食べてもらってる。ああ見えて、けっこう気持ちいいみたいでね。」


確かに、恐竜の体は揺れるように震えていて、まるでマッサージを受けているみたいに見えた。

その仕草がおかしくて、つい笑ってしまう。


御者は話を続けた。


「触ったの、初めてだろ? 勇気あるな。大きい生き物は怖いけど、慣れると可愛いもんさ。人間のこともちゃんと覚えるんだぜ。」


そう言われると、もう一度触ってみたくなる。

恐る恐る手を伸ばすと、トリケラトプスモドキは耳をぴくりと動かし、重たい鼻息をふうっと吐いた。

その風が顔にかかり、少し生臭い草の匂いが漂ってくる。


巨大で怖いけれど、どこか親しみを感じる。

生き物と生き物が、ちょっとだけ心を通わせたような気がした。


ちょっと余裕が生まれると、他の恐竜車の恐竜達も気になり始めた。

キョロキョロと辺りを見回すと、周りの御者さん達が「この子達も触ってみる?」と声をかけてくれた。

手綱に繋がれた小さな恐竜たちも待っているように何匹かうろうろしていた。


すすめられるままに手を伸ばす──が、犬のように元気いっぱいで、まともに撫でさせてはくれない。

手を近づけるたびに、すばしっこく動き回って逃げたり、逆に勢いよく鼻先で突いてきたりする。

その突き方が軽い頭突きのようで、笑ってしまうほどだ。


恐竜といっても小さく、子犬のようなあどけなさが残っている。

けれど動きは力強く、じゃれつかれるだけでも押し返されそうになる。

撫でようと必死になる私と、遊びだと思っている小さな恐竜との攻防が続いた。


御者さんはそれを見て、愉快そうに肩を揺らして笑っていた。


トリケラトプスモドキの恐竜車の御者さんが手綱を確認しながら、「もうすぐ出発だ。座席に戻ってくれよ」と穏やかに声をかけてくれ、私の恐竜ふれあい体験は幕を閉じた。


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