プロローグ
1.登場する国はすべて架空の国です。
連想される国があっても、すべて架空の国です。
アベリカ、フレンス、イテリア等は誤字ではありません。
2.『それぞれの国の言葉』「公用語」をイメージして読んでいただければと存じます。
よろしくお願いします。
ボァァァァァァァァー!
汽笛の音が高らかに鳴り響き、人々から歓声が上がった。船はガタガタと振動しながらゆっくり陸地から離れ始めた。
陸では様々な人種の人が大きく手を振り、「Have a nice trip!」「Seien Sie vorsichtig!」「Ik kijk ernaar uit om uw souvenir te ontvangen!」と別れの言葉をかけていた。それに応える乗客の声が華やかに響き、同じように手を大きく振る顔はみんな笑顔だ。
私は特に見送りに来た人はいなかったけど、その雰囲気に高揚しながら周りに合わせて大きく手を振っていた。
船がいくらか離れ、揺れも収まった頃、船の放送が流れた。
「皆様、テープの準備はよろしいですか? 紙テープの端を離さないよう、ご注意ください。」
乗客は振り続けていた手を止め、いそいそと紙テープの準備を始めた。私も左の手の平に何度か紙テープを巻き付てしっかり握りしめると、右手で本体を持ち、腕をぐっと後ろに引いた。
注意事項の放送を聞き流しながら準備万端で待っていると、おおよその人も準備ができたようだ。
「それではご一緒にカウントしてください。」
「「「「スリー、ツー、ワン、ゴー!」」」」
腕を振りかぶって紙テープを投げると、きれいな曲線を描いて陸に向かって飛んでいく。周りが投げた紙テープと合わさり、澄んだ青空の中に船と陸を結ぶ大きな虹が出来上がった。
私は自分が投げた紙テープの行方を目で追う。無事に陸地まで届いたそれを、警察官みたいなガタイのおじさんがパシッと掴んだ。紙テープを辿って私を見つけるとニカッと笑って手を振ってくれた。
人にぶつかることもなく、寂しく海に叩きつけられることもなく、無事に誰かと繋がれたことがすごく嬉くて、伸びていく虹の川の一本を握りしめて、満面の笑顔で手を振り返した。
遠ざかる港をまだ見つめる人を横目に、私は歩き始めた。
12月の割に暖かいとはいえ体は大分冷えてしまったが、出港セレモニーの高揚感がまだ続いている。
跳ねるように船首へと移動すると、手すりをしっかりと掴んで乗り出すように体を前に寄りかけた。
興奮にため息をつくと雲のように後ろに流れていった。顔に当たる風は冷たいが、堪えきれない喜びに顔がニヤける。
遮るもののない視界にはどこまでも海が広がり水平線で交わる空は少し曲線を描いている。…気がする。
実際はまだチラホラ漁船らしきものとか浮いてるのだけれど、見るものすべてが美しく新鮮に見えるほど気分が昂っているのだ。
なんと言ったって、ついに始まったのだ。
約100日の異世界一周クルーズが!!