人生を少しだけ逆転する方法
陽太は落ち込んだ様子で帰宅した。付き合いたいと思ってデートを何度かしてきた女の子に告白したのだが振られてしまったのだ。
「ただいま……」
陽太は留守番していたロボットに帰宅の挨拶をした。
「陽太様、おかえりなさいませ」
意を決してデートに向かった時とは対照的な様子から、ロボットは何があったのか全て悟った。
「陽太様ならもっと素敵な彼女が出来ますよ」
「……」
陽太は何も言わずベッドに倒れ込んだ。そのまま1時間くらいそのままだった。ロボットも何も声を掛けなかった。
しばらくして陽太がロボットに話し始めた。
「俺は昔から何をやっても駄目なんだ……。中学、高校と野球部に入っていたけど一度もレギュラーに成れなかったし、高校の時も好きになった子には振られるし、大学受験に失敗して一浪したのに良い大学には入れなかった。だから今も勉強に身が入らない……。部活も、恋愛も、勉強も全部うまくいかないんだ」
「そんな時はありますよ。」
「俺の場合はずっとなんだよ……」
「何度もチャレンジしていればきっとうまくいく時がきます」
「そんなさぁ、慰めじゃなくてロボットなんだったらもっと良い具体的なアドバイスしてくれよ……」
「具体的なアドバイスとは、例えばどんなことでしょうか?」
「人生がもっとうまくいくような、今までずっと失敗とか負け続けてきた俺が逆転できるような方法だよ。お前の最新のAIを駆使して考えてくれよ」
「承知しました。今の陽太様のことはよく知っているので、この状況を打開する何か良い方法を考えてみますね。少しお時間をください」
それから10分程、ロボットは考え続けた。そして、名案が閃いた。
「陽太様、良い方法を思い付きました」
「本当に?そんな方法あるの?一応聞いてみるよ」
「陽太様は理系の大学に通われていますよね。そして今時の理系の学生は多数が大学院に進学します。だから、勉強を頑張って有名大学の大学院を受験するのです。日本は学歴社会ではなくなりつつありますが、未だに有名大学は就職や出世、恋愛に有利な面はあります」
陽太はガッカリした様子でため息をついた。
「はあ……、学歴ロンダリングって言われているやつね。それのどこが良い方法なの?」
「あまり知られていませんが、実は東京大学の大学院が一番狙い目なのです。むしろ他の大学よりも東京大学の大学院の方が合格しやすいくらいです」
「え?なんで?一番難しいんじゃないの?」
「それが違うのです。東京大学の大学院は他大学からの学生の方が凄く入りやすいのです。その理由は4つあります。順番に説明しますね」
陽太は少し興味を持った様子で聞いていた。
「まず一つ目の理由は、これは東大生に限りませんが、ほとんどの学生は大学に合格と同時に勉強をしなくなります。真面目に勉強している大学生はほとんど居ません。それまで猛勉強していた東大生も遊び始めます。だから、真面目に大学で勉強をしていれば大学院の入試ではライバルとの差を付けやすいのです」
「まあ、それは理解できるけど……」
「次に二つ目の理由は、東京大学では1・2年生は全員が教養学部に入り教養科目の勉強をし、3年生から各学部に分かれて専門科目の勉強をします。一方、他の多くの大学では1年生の時から専門科目の勉強をしています。つまり、東大生よりも大学院の入試までに専門科目を勉強する期間が長いのです」
「へぇ、そうなんだ……」
「そして三つ目の理由は、東大生は4年生になると卒業研究で忙しくなり、なかなか大学院の入試のための勉強時間を取れないのです。当然ですが東京大学で行われている研究は世界最先端なので、研究室に配属されて研究をするとなると大変です。また、東大生としてのプライドから良い研究成果を出したいという思いもあるので、大学院の入試のための勉強は後回しになりがちなのです」
「そうなのかなぁ」
「四つ目の理由は、これまで説明してきた三つの理由をほとんどの人は知らないということです。大学の入試に関しては予備校もあり多くの情報が溢れていますが、大学院の入試に関しての情報はほとんど出回っていません。なので、そこがチャンスなんです」
「なるほどねぇ」
「どうですか?勉強のやる気が出てきましたか?」
「まあ、少しは……。でも今日は無理だよ。明日からやる、かも……」
その日、陽太は早く寝た。
次の日から陽太は見違えるように勉強した。講義は最前列で聞き、放課後は図書館に籠って夜まで勉強した。ほぼ毎日勉強した。そして、四年生になった。
「やった!東京大学の大学院に合格したよ!」
「陽太様、おめでとうございます。私もお役に立てて嬉しいです。これからは世界最先端の研究が出来ますね」
「東大生になって彼女作るぞ!」
(終)