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第9話 起死回生

 ゴブリラに何度も石壁に投げ付けられた俺は、ケンとタクの二人がゴブリラに攻撃出来るようになるまでとにかく耐えることだけを考えていた。


 だが物事には限度がある。その限度は時として意外な形で現れることがあるだけで。


 何度目かは分からないが俺が石壁にぶつかった時だ。既に罅が入っていた石壁は俺がぶつかった衝撃に耐えきれなくなり上の方からガラガラと音を立てて崩落を始めた。

 そして俺の上にも大きな石の塊が落ちてきたのだが、俺の体が小さかったのが幸いして直撃を免れた。


 ほっと一息付いたところで、壁に空いた穴があることに気が付いた。このスライムの視覚は僅かな光量があれば行動に支障を生じない。穴があったら入りたい程恥ずかしい状況でもない。

 ゴブリラを倒すか全滅するかのデスゲーム真っ最中なのだから。


 そんな事は分かっている。しかし俺は無性にこの穴に入って行かねばならないような気がしてならなかった。

 ハムスターが狭い空間を好むようにスライムも狭い空間が好きなのか?

 確かに身を隠すなら狭い空間の方が落ち着くのは間違っていないかも。不安な時は自分を抱き抱えるようにするのと同じじゃない?


 でもそんな事とは全然違う何か不思議な感覚が、穴から俺を呼んでいる気がするのだ。

 直感とか第六感とか超能力とか色々あるけど、そんな感じの何かだ。若干動きのおかしくなった体を引き摺りながら俺は穴へと進んでいく。


 穴はそれ程深くは無かった。イヤ、これを穴と言うべきなのか。

 そこは岩に掘られた畳一枚程の小さな空間になっていて、その中央に誰かの遺体が大きな魔石を護るように倒れていたのだ。

 完全に白骨化した遺体が何故骨格標本のように人の形を保っているのか?

 幾つかの装飾品は生身の体に付けているかのように浮いている。


(何でこんな処に?)


 場違いにも程がある。ダンジョンの奥にこんな意味不明な墓所があるなんて。俺が人間だったら、装飾品を持ち帰って金銭に換えるだろう。

 だが今はスライムだ。装飾品なんて俺には何の価値も無い。それに不自然な装飾品の纏い方…アンデッドではないのか?


 何か起死回生の一手がここにある、そんな気がしていたのに予想外の光景に混乱したし、ガッカリもした。

 だからこの場を去ろうとした時だ。


(やっと来たか。俺にお前の魔石を預けてくれ)


 そんな声が脳に響いた。

 改めて周囲を見渡すが誰も居ない。石が崩れて塞がれているんだから、ここには誰も入れないのだ。

 もしかしたらこの奥に隠し部屋でもあれば話は別だが。


(俺だよ、俺)


 脳に特殊詐欺のようなフレーズが響く。


(この骸骨さんが喋ってるのか?

 まさかな…この電話は現在使用されておりません)


 いや、電話じゃねえ!って突っ込みは帰ってこないだろう、と分かっていたのだが…


(そう、喋ってんのは目の前の骸骨だよ。

 それにしても電話か…懐かしい言葉だな…)

と予想外の返事が帰ってきた。


 スライムが念話を使うご時世だから、骸骨が念話を使うってのもおかしくは無いのか?

 骸骨に意識があるってことにもビックリだが、それよりも、

(懐かしいって?

 お前、転生か転移かしてきたのか?)

と、そちらの方が気になった。


(あぁ、今はこんな姿になっちまったが、地球から転移してきたんだよ。

 お前もだろ…てっ、え~っ!)

(なんだよ、急に叫ぶなよ。びっくりするだろ)

(いや、びっくりしたのはこっちだよ。お前、スライムだよな?

 地球から人類は滅びたのか?

 まさか地球はイカが支配してんのかっ?)

(滅びちゃいねえし、イカに支配されてねえよ。

 何で俺がスライムになってんのか訳が分からん)

(…それなら…まあ良いか。

 随分と外が賑やかだな…状況は…うん、分かった、ゴリラみたいな魔物が暴れてんのか)


 ほお、この骸骨、外の状況が分かるのか。

 耳が無いくせに…うん、俺にも耳は無いな。

 チッ、見事にブーメランだぜ。


(お前らスライムじゃ、奴は倒せないだろ?

 俺なら奴を倒せるぜ)

(いやいやいや、あんた、ただの骸骨じゃん?

 ここから動けもしないだろ。

 どうやってゴブリラに勝つってんだよ?)

(お前の魔力を分けてくれ。

 俺の胸の上にちょっと乗っかってくれれば良い)

  

 今の俺達じゃどう足掻いても勝てやしない。全滅して別の俺に未来を託すつもりだったんだけど。

 本当にコイツが勝てる?

 もしかして凄いアンデッドの魔物なのか?

 まあ嘘でも良いか。俺達に失う物なんて無いし。


(オッケー。じゃあ、遠慮なく…)


 俺はズルズルと骸骨さんのダラリと垂れた腕の骨を伝い、肋骨の上によじ登った。

 骨の上を歩くなんて体験はもうこれっきりにしてくれよ?

 やっぱり気持ち悪いよ。


(乗ったよ。で、これからどうすんの?)


 心なしか骸骨さんの体が震えたような気がする。

 外からはもう音がしなくなったから、ケンもタクも動けなくなったんだな。


(…まさかスライムがこんなに魔力を溜め込んでいたなんて…んじゃ、行きますか!)


 その声が脳に届いた直後、俺の魔石からゆっくりと魔力が骸骨さんに向かって流れ出した。

 その速度は次第にどんどん早くなっていき、それとともに俺の体の中で赤く輝いていた魔石の灯りが少しずつ弱くなり始めた。

 魔石とはまさに命の灯火だったのかも知れないな。


(骸骨さん、俺は死ぬの?

 まあゴブリラを倒さない限り、ここから出られないからどっちでもいいんだけど)


 そう、俺達スライム三人だけではどう足掻いてもここから出られない。それならこの正体不明の骸骨さんに任せてもいいんじゃないかと思う。


(死なないよ?

 それとも俺はスライムになって死にたがりに変わってしまったのかな…)


 骸骨さんのセリフを最後まで聞き届ける前に、俺は意識を失った。


(ウィズは落ちたか)


 二本の触手を引き千切られ、体もボロボロになった俺はウィズが居る方向に視線を向けた。


 俺達三人は常に意識や視覚情報をリンクしている。あの場所に正体不明の骸骨があった事、そしてウィズの魔力を骸骨が吸い取った事も分かっている。


 この世界の魔物はよく分からないが、あれは上位のアンデッドか何かなのだろうか?

 俺達だけでは詰んだ状態だったのだ。骸骨だろうが死神だろうが、この状態を動かすことが出来るのなら万々歳だ。


 ケンはまだ変身した状態のままだが、あの状態では自力で動けない。もし骸骨さんが剣を扱えるのならケンを使ってもらえば良い。


 自信たっぷりにゴブリラを倒せるって言ってたんだ。早く姿を見せてくれよ。

 それより俺の体って元に戻るのか?

 結構液漏れしまくってるぞ。


 などと俺の体の心配をしていると、あの場所から突然魔力が爆発的に高まったのが俺にも分かった。

 その魔力は壁を塞ぐ岩さえ弾き飛ばす程の圧力を持っていた。まるでバトル漫画の主人公が気合いだけで石を吹き飛ばしたみたいな感じだな。


 吹き飛んだ石の幾つかはゴブリラに命中したようで、不意打ちにより僅かながらダメージを与えたように見えた。


 それより注目すべきは中から出て来た人物だ。

 黒目黒髪、金属で部分的に補強した革鎧と手脚を守る装備を身に纏った中年男がそこに立っているのだ。


(あれが骸骨さんの元の姿か)


 スライムの俺でもすぐに分かる。圧倒的な強者が存在すると言うことを。


「ほぉ、結構いい感じな俺?

 チャチャチャのチャッと片付けますかね」


 そう言うが早いか、彼は腰を落とすと一瞬でゴブリラとの距離を詰め、両方の掌を勢いよく分厚いゴムの塊のような腹へと打ち付けた。

 殴ったのではない。掌底打ちだ。格闘ゲームで見たことはあるが、まさかこの目で直接見るとは思わなかった。


 その攻撃を受けたゴブリラは思わず腹を抱えて蹲った。

 元骸骨さんはすかさずゴブリラが下げた頭に膝蹴りをぶちかまし、ゴブリラの顔面の各パーツの配置を変える程の衝撃を与えた。

 色々聞こえちゃいけない音が聞こえて、その凄まじい威力に恐怖を覚えた。


 そのたった二発の攻撃で、彼はゴブリラを撃沈したのだ。ただのビッグマウスでは無かったのだ。


「やっぱり運動不足だわ、寝たきりだったからな」


 そんな意味不明なボヤキを吐くと、スタスタとケンの元へと歩いて行く。そしてゆっくりケンを拾うとその場で軽く振って確かめたようだ。


「しっかり気合い入れてろよ!」


 何に対して言ったのか分からないが、元骸骨さんのは僅か数歩でゴブリラの元に到着、俺の目に映らない程の速さで一振りするとゴトリと音を立ててゴブリラの頭部が太い首から切り離された。


「中々の切れ味。いい仕事してますねぇ」

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