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帝王宣言

 数日後、母上としばらく楽しく過ごした後に俺はセインと共に帝都へ戻った。

 帝都には既に人が戻り始めており、かつての活気を取り戻しつつあった。

 俺はまだ顔を知られていない事を良いことに特にコソコソすることなく街中を歩いて城へと入っていった。

 住民達はまだ不安が残っているような雰囲気を残しつつもようやく訪れた平和を享受しているようだった。

 俺は、まだ帝王の宣言式典まで日があったので今の内に内政を見直していた。

 帝国の政策は帝国国民には評判が悪く、俺はまず全ての政策の一時停止を命じた。

 つまり、今は税は無い。

 そして、戦後ということもあるので兵には治安維持の目的で帝都、及び周辺の警備に当たらせている。

 もちろん広大な面積があり、動員する兵もかなりの数だ。

 だが、それは帝国が溜め込んでいた莫大な資金と今回の戦争で職を失った者達を兵として運用し、警備に当たらせることで事なきを得ている。

 警備に当たらせている兵は徴兵ではなく、全て志願兵にやらせている。

 それに、警備だけではなく、今回の戦争で崩れてしまった建造物の修復や行方不明者等の捜索をさせている。

 これで国民の信頼はある程度得られたと思う。

 ……多分。

 既存の兵は城の警備や残党の掃討に当たらせている。

 あの戦の折に逃亡した者や、俺の帝王就任に反対する貴族なんかが残党と手を組んで反乱を起こしているのでそれの鎮圧だ。

 幸いまだ規模は小さいので、直ぐに鎮圧は出来た。

 だが、まだ残党がいる可能性があるので掃討作戦は続けている。

 現に成果報告は受けている。

 また、今回の戦で帝国が行った徴兵により住民が減り、領地の運営が成り立たなくなりそうな所が多数出て来たので屯田兵政策を進めている。

 屯田兵とは日本で言うと北海道で行われた物で、志願者を募り、当時未開拓の北海道へ送り、平時は農民として土地の開拓を、有事の際は兵として運用するというものである。

 まあ、実質は明治維新により行き場を失った武士たちに仕事を与えるためのようなものだが、途中からは農民も志願が可能になった。

 主な活躍は西郷隆盛との西南戦争や日露戦争なんかが有名である。

 それを見習って帝都は人口が多いので志願者を人口が減少した領地へ移住させる計画を進めていた。

 既に国民には知らせており、すでに多くの志願者が集まっている。

 編成は既存の軍をトップにつけ、その下に志願してきた屯田兵をつけると言うものにした。

 既存の軍の指揮官は俺に対して忠誠心の低いものに任じた。

 理由は必然的に帝都から離れた場所へ住まわせる事になるので、万が一反乱が起きても直ぐに帝都が落ちることは無いようにしたのだ。

 つまりは徳川幕府の外様大名を遠くに配置したのと同じ意味だ。

 そして、俺は明日の帝王の就任の宣言を行うための準備をしていた。

 既にシャムス広場では式典の準備が行われていた。

 俺は自分の部屋で明日の文言を考えていた。

「うーん、こういうのはしたことが無いからな。どういうのが良いんだろ……。」

 めっちゃ上から目線で自分の偉さをアピールしたほうが良いのか、それとも腰を低くして民と同じ目線でやってますよアピールの方が良いのか……。

「どうされましたか?」

「セインか。いや、明日の事でさ。」

 こういうのは誰かを頼った方が良いだろう。

「そうですね……。自分もはっきりとは言えませんが、若は若らしく行けば良いと思いますよ。」

「俺らしく……か。」


 翌日。

 大衆がシャムス広場に集まり、活気に満ち溢れていた。

「では、この度フローゼル皇帝陛下より皇帝の座を次ぐことになられた、アルフレッド・シャム・エルドニア様よりお言葉がございます。」

 司会の男が俺に合図してくる。

 俺は合図に答え、前へと出ていく。

 さほど高くは無いが、台の上から見下ろす景色は壮大に感じる。

 これからはこんな機会が増えるのだから慣れておかなければ。

「まず、私は前皇帝フローゼル・シャムスの娘フレン・シャムスと前エルドニア国王アロン・エルドニアの実子、アルフレッド・シャム・エルドニアである。」

 こういう場では自分の血筋を言うのが正しい作法らしい。

 因みにだが、この世界では母親の姓、またはその一部を自分と父の姓の間につけるという風習がある。

 理由としてはどこの血筋かはっきりさせるためだ。

 まあ、元々姓を持っていない人物が母親だった場合は父親の姓のみだが。

 アーロン兄上やジゲンなんかがいい例だ。

 この世界、まあ前世も大昔は一般の庶民は姓を持っていないものだ。

 最初は違和感がすごかった。

 まあ、国王に就任すればミドルネームは必要無くなり、多くの場合は無くすのがほとんどらしい。

 これはアロンがいい例だな。

 まあ、俺は母上との繋がりを無くしたくは無いので名乗り続けるが。

「この度、フローゼル前皇帝より皇帝の座を譲られた者である。」

 懐からあのときの帝位を譲るという書状を取り出す。

「また、先の戦でエルドニア王国の国王も戦死したことにより、私はエルドニア王国の国王の座も継ぐことになった。これより、この国はエルドニア・シャムス2重王国として、歴史に刻まれる事になる。」

 国民達からざわめきを感じる。

 まぁ、無理もないだろう。

「そして、私は皇帝でもあり、国王でもある者として、帝王を名乗ることとした!」

 さらに国民がどよめく。

「ふざけんな!」

 すると群衆の中から一人の男が声を上げた。

「てめぇがいつだったか盗賊ギルドのリーダーを助けた奴だってことは分かってんだよ!」

「そうだ!本当に皇帝の孫なら皇族に弓引くなんて事はしねぇだろ!」

 すると、最初の男に続いて他の者達も声をあげ始める。

 もはや、デモかと思えるほどの騒ぎである。

「黙れ!帝王陛下の演説中だぞ!」

「ふざけんな!俺はまだ認めちゃいねぇ!」

 衛兵に取り押さえられそうになってもまだやめない。

 ……仕方無い。

「くそっ!いい加減にしないか!」

 衛兵が暴れる男を剣の柄で殴ろうとする。

「待て!」

 俺の声に反応し、衛兵の手が止まる。

「そこの君!上がって来てくれ!」

 暴れていた男を指差す。

 男は衛兵ににらまれ、渋々上がってきた。

「皆の者、この男は愚かにも帝王であるこの俺にふざけんな!とか、てめぇ!とか言った人物だ。」

 民衆は静かに俺の声を聞いている。

 隣にいる男はこのあとどうなるのか想像しているのか静かだ。

 自分の行いを後悔しているようだ。

「ま、待ってください!帝王陛下!」

 すると民衆の中から一人の女性が出てくる。

「その人は考えなしに言葉を選ばずに思った事を口にしてしまうんです!でも、決して悪い人ではないんです!私が複数の暴漢に教われていた時もボロボロになりながらも助けてくれた、とてもいい人なんです!どうかお許しを!」

 隣をみると男は泣いている。

 妻か、もしくは彼女といったところだろう。

「駄目だな。」

「そ、そんな!」

 彼女の乱入は想定外だが、おおむね予想通りの展開だ。

 こうなることは目に見えていたからな。

「よって!これよりこの男との決闘を行う!この男が勝てば私は帝王の座を降りよう!しかし、私が勝てば……。」

 男の方を見る。

 俺は木剣を男に投げた。

 木剣は地面を滑りながら男の足元へと行った。

 男は突然の出来事に驚いているようだ。

 だが、投げられた木剣を広い構えた。

「くそっ!やるしかねぇか!」

「良いだろう!さぁ来い!」


 決闘は瞬く間に終わった。

 どうやら男は地元でかなり強い男で有名だったらしく、還付なきまで叩きのめしたら民衆が一気に静かになった。

「さあ!今の決闘は私の勝ちだ!他に挑んでくるものは居ないのか!」

 民衆は誰も声を上げない。

 すると、先程叩きのめした男がフラフラとしながら立ち上がった。

「ま、まだ……。」

 こいつの根性は中々なものだ。

 鍛えれば相当強くなるだろう。

 想定外だが、いい想定外だ。

「良い根性をしているな!だが、もう君の負けだ。よって私の勝ちだ。」

 民衆の中の女が泣き崩れる。

 まあ、自分の彼氏が死ぬと思ってるんだろう。

「なので、君には私の近衛兵となってもらおう!」

 一気に場が静まり返る。

 袖の方でセインが笑いを堪えているのが見える。

 ……これが俺らしく、だ。

「彼は素晴らしい度胸と、負けても挫けぬ根性を見せつけてくれた!」

 男の方もキョトンとした顔だ。

「この国は今、才能を欲している!何でもいい!度胸がある、頭が良い!めっちゃ強い!顔が良い!スタイルが良い!えーと……走るの速いとか……その……舌が肥えてるとか、とにかく何でもだ!」

 民衆から少しずつ笑い声が聞こえてきた。

 こういうのは得意なのだ。

「この国はこれから血筋なんて下らない物ではなく、技術力や軍事力、といった質で周りから恐れられるような国になるのだ!だから、私の血筋なんて物は関係無い!力あるものが次の帝王だ!私も皆が納得するような帝王を目指す!皆もまずは私が帝王にふさわしい男かどうかを見定めてほしい!それで、ふさわしく無いと感じれば反乱でも何でも起こして力ずくで俺を帝王から引きずり下ろして見せろ!勿論反乱なんて起こされれば全力で鎮圧するし、負ければそこまでのそこまでだったということだ。」

 国民はしっかりと話を聞いてくれている。

「いいか!常に他者と競え!年功序列なんて糞食らえ!実績あるものが、実力あるものがトップに立つんだ!若くても老人でも、誰にもチャンスはある!農業でも商売でも建物でも他者と競って他者を踏みにじって上を目指せ!皆で競い会うことでこの国は発展する!」

 国民から歓声が上がる。

「よっしゃ!やってやるぜ!あいつには腹が立ってたんだ!」

「あのジジイ!いっつも俺をバカにしやがって考え方が古いんだよ!だからあの業者にいつも先を越されるんだ!」

 どうやら皆もやる気になってくれたようだ。

 それに、俺を認めてくれたような気もする。

 まあ、少し熱が入りすぎた気もするが、そこは追々なんとかしていこう。

「以上で俺からは終わる!」

 国民の歓声を背中に浴びながらその場を後にしようとする。

 と、決闘で戦った男がまだいた。

「あ、もう戻っていいよ。」

「あ、はい。」

 今度こそその場を後にする。

 が、そうはならなかった。

「注目!」

 シャムス広場の端にある時計塔の上、俺がルーゼン救出の時にたっていた場所に見覚えのある人物がいた。

「母上!?」

 綺麗に着飾ったセラが車椅子を持っており、母上はそこに座っていたようだ。

 母上は徐々に立って歩けるように回復はしてきていたが、まだ完全には回復しきっていないようだ。

 いや、それよりも何であんなところのいるんだ?

「お、おい!フレン様だ!」

「おお!お美しい!」

 やはり、母上は人気が高い。

 なんか悔しい。

 俺の時より騒がしくなってないか?

「アルの血筋は私が証明するわ!そして、紹介するわ!ここにいるセラがアルのお嫁さんなのです!」

 じゃーんと効果音がつきそうなポーズでセラを紹介する、母上。

 場は静まり返っている。

「そして、こちらがもう一人のお嫁さん、レイン・アナテル姫です!」

 母上がずれるとそこには綺麗に着飾ったレインがいた。

「何でお前までいるんだよ!」

「若。」

 気づけばセインが近くまで来ていた。

「取り敢えずあそこから降りてもらいましょう。」

「あ、ああ、そうしよう。」

 セインは直ぐ様走って行った。

「これで分かったでしょう!アルはアナテルの姫も私も認めるちゃんとした血筋だってことを!」

 なるほど、俺が国民から受け入れられないだろうと踏んで独自に行動してくれていたのか。

 だが、先程までの流れを聞いて居ないようで、周りはポカンとしている。

 まあ、これで俺の血筋も理解はしてくれただろう。

「アルー!久しぶりー!フレン様に言われて急いで戻って来たわよー!」

 遠くからレインが手を降っている。

 やめてくれ、恥ずかしくなってくる。

「アルフレッド様。」

「うおっ!イリスさん!?何でここに!?」

 すると、今度はイリスさんが目の前まで来ていた。

「そりゃ、見に来てますよ。それよりもこれを。」

 イリスは水晶を前に出してくる。

 遠話水晶だ。

 セラが映っている。

「ア、アルフレッド様……。似合ってますでしょうか?」

「いや、それどころじゃ無いだろ!いや、めっちゃ似合ってる!可愛いよ!可愛いけどさ!」

 思わず大声で突っ込んでしまう。

 すると、民衆が皆こちらを見ている事に気づく。

「……あ。」

 今のが聞こえていない訳が無い。

「ちょっと!アル!私には!?可愛い許嫁には何も無いの!?」

「あぁ……可愛いよ。うん、可愛い。」

 なんか色々と台無しな気がする。

 さらに、堂々と嫁宣言されたので、逃げ場がなくなった。

 まあ、逃げるつもりは無かったが、話を進めなければならなくなった。

「ちょっと!なんか納得がいかないわ!ちゃんと言って!」

「あれ、もしかして私余計な事しちゃった?」

 母上もこの空気に気付いてくれたようだ。

「はい。もしかしなくても色々と台無しです。」

「あら、セインじゃない。どうしたの?」

 そうすると水晶の向こうでセインとその手下達が母上達を確保して時計塔から無理やり下ろして行くのが見えた。

 そして、俺は舞台の袖に隠れつつ司会に目配せをする。

「こ、これで式は終了です!解散!」


 後日、街は俺の噂話で持ちきりだったらしい。

 マザコンだったとか、嫁に尻に敷かれているとか押しに弱いとか、一体どうやったらそんな話になるのか不思議である。

 だが、調査によると思ったよりも人間味があって親近感が沸いたとかっていう意見が多かったらしく、支持率はかなり高めのようだ。

 母上にはあとで言って聞かすとしよう。

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