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退き口

「セイルズ殿、若がお呼びです。」

「若が?」


 セラとセイルズは部隊の編成、指揮を任されていた。

 セラは合図を見てセイルズを斬るように言われており、剣に手をかけていた。


「そういえばセラ殿、昔の若を見たことはありますかな?」

「一度だけあります。」


 ふと、剣から手を放す。


「なぜかは分かりませぬが、あの高熱を出されてからというもの聡明になられた。これならばこの老い先短い私も安心して逝けますな。」


 本当にこの人物に叛意があるのだろうか、聞いた話によれば息子が内通していたらしいがセイルズ殿にそれは感じられない。

 だが、命令ならば忠実に実行しなければならない。

 剣を抜き放つ。

 ここならば人目はない。


「ならば早々に逝かれるがよかろう。」


 背後から心臓を一突きにする。


「なっ……。」


 セイルズは何も喋ることが出来ずに絶命しその場に崩れ落ちた。


「……これで良かったのでしょうか?」




「殺すことはなかったんじゃない?」


 セインの亡骸を前に母上が言う。


「これを許せば他の者も寝返る可能性があります。味方が少ない中ほんの少しの不安要素も許せません。」


 亡骸に手を合わせる。

 この世界では合掌の文化は無いが、最大限の礼を尽くす。


「これは、けじめです。」

「けじめ?」


 亡骸に布を掛け立ち上がり、母上の方を向く。


「これから先はのうのうとは生きてはいけない修羅の道となります。甘い考えでは生き抜いていけないでしょう。」


 あの女神はハードモードだと言っていた。

 ならばこれから先もキツイこと続きだろう。

 因みにあの女神は恐らく見守るだけなのだろう。

 余程の事が無ければ出てこないのだと思われる。

 助けが期待出来ない以上、自分で何とかするしか無い。

 すると、母上がいきなり抱きついてくる。


「私はいつでもアルの味方だからね。」

「……ありがとうございます。」


 母上から離れる。

 振り返り、意識を切り替える。


「皆の者!これより作戦を開始する!配置につけ!」




 数刻後。

 敵は兵を約2000ずつそれぞれ東西南北の門へ配置し、包囲し、攻撃を開始した。

 この城はとても大きく、それぞれの門の距離がかなりある。

 そして中世の城によくある城壁の内側に街がある。

 この街はとてもよく栄えていたが今は閑散としている。


「一ノ門破られました!」


 報告が届く。

 この城には三ノ門まである。


「敵勢二ノ門へ到達!攻撃を開始しました!」


 我々は最後の門の前にて待機している。


「二ノ門も破られました!間もなく敵が来ます!」


 敵はそのまま突入し三ノ門の攻撃を開始する。

 他の方面の門も同様らしくもう既に到達している。

 しかしこれはすべて計算の内である。

 門に掛ける(かんぬき)はすべてわざと細く折れやすいものにしていた。

 しかし最後の目の前の南門だけはそもそも閂を掛けていないのである。

 そして、他の門の閂は頑丈な物にしてある。


「総員武器を構えろ!」


 号令と共に全員が武器を抜く。

 それと同時に敵が門を破り突入してくる。


「突撃!」


 号令と共に無数の騎馬が駆けていく。

 こちらは数が少ないのをいいことに全員を騎馬にしたのである。

 近衛衆100、領民兵220、侍女衆30のうち馬を操れるのは近衛衆と侍女衆と少しの領民兵のみであり、相乗りする形で全員を馬にのせた。

 後ろに乗る領民兵はすべて弓兵である。


「狙うは敵本陣!総大将ジェイガンの首のみだ!他には目もくれるな!騎手は馬を操ることだけに集中しろ!射手が敵を討て!」


 セラは槍を手に、母上は帝国に伝わるという刀を手に雑兵をなぎ倒しながら突き進んでいく。

 敵は長い距離を徒歩で進んできたので、こちらを追うにも体力の限界なのだろう。

 因みに俺やセラ、母上の後ろには人は乗っていない。

 というか母上が強すぎる気がする。

 いや、突然の奇襲に敵が浮足立っているのもあるのだろう。


「これでも帝国で鍛えてきたからね!」


 もはや完全武装の母上に怖いものは無いようでこちらの南門方面の敵指揮官らしき男を切り殺していた。

 セラも母上が戦いやすいように雑兵をなぎ倒していっている。

 後は敵本陣の2000のみだが、策が成功すれば更に減らすことが出来るだろう。


「ジェイガン様!敵が来ます!」

「うろたえるな!陣を整えろ!こちらの方が数は上だ!臆することはない!」


 少し混乱があったが距離があったことが幸いし、混乱は収まりつつあった。


「ジェイガン様!」

「今度はなんだ!?」


 伝令の方を見ると城とは反対方向の山の方を指差している。


「あ、あちらの山に帝国の旗印が!」

「帝国だと!?」


 山を見ると確かに旗が立っている。

 まずい。

 旗の数を見るに500近くはいるだろう。

 大陸最強と言われる帝国軍に挟撃されれば壊滅は必然だろう。


「1000の兵を山に向かわせろ!」

「しかしそれではここが手薄になります!」


 副将であるスロールが意見を口にする。

 正しいとも思うが、今は挟撃されることは最も避けなければならない。


「いいから向かわせるんだ!いや、お前が率いていけ!」

「は、はい!」


 スロールが馬に乗り駆けていく。


「まずいな……。」




「若……。」

「で、この後はどうすればいいんですかな?儂もまだまだ戦えますぞ!」


 フードを被った男に老人が問いかける。

 戦えるとはいってるが腰が曲がっており、絶対に無理であることはわかる。

 眼の前には敵兵が約1000、こちらに向かって来ている。


「こちらは山にいるのであの1000の敵が攻めてくることはありません。もし上ってこようものならここにつくまでに弓矢を射かけられ、被害が増えますから。我々は何もしません。とういうか年寄りだけでは流石に勝てませんよ。」


 今ここにいるのは城から逃げてきた領民で、ほとんどは兵として戦えない者達である。

 ほとんどの領民は昨晩のうちにもう既に脱出していたのだ。


「そうかいそうかい。しかしあんた城で執事かなにかして無かったか?見たことある気がするんだがの?一番若手の……セイン?とか言ったかな?の声に似ておるわい。」

「あぁ、よく言われます。」


 フードを脱ぐ。

 確かにそこには顔つきがセインに似た、しかし髪の色も黒く、短髪の青年がいた。


「まぁ似てはおるが、違うのぉ。」

「さ、逃げる準備をしましょうね。」


 そう老人を諭し遠ざける。


「顔つきも変えなきゃ駄目か……。」

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