ポンニチ怪談 その46 白の逆襲
寒い最中でも集まった聴衆を前に、満足したメイジの党の創設者ハシゲン。自らの人気は不動のものだと誇らしげに講演をはじめようとしたが…
(ははは、俺はまだまだやれるぞ)
壇上に上がったハシゲン・テツは集まった聴衆を見渡して、満足そうにうなずいた。
2月中旬にもなろうというのに、外は雪混じりの雨が降るというのに、会場はまずまずの入りだった。新型肺炎ウイルス蔓延防止措置中で、人数制限をしているというのに、用意された席はほぼ埋まっている。
(レイワンの奴らやら、ゲンゲンダイ新聞の奴らが何のかんの言おうが、カンカン元首相が批判しようと、訴訟で蹴散らしてやる。何が論破されまくりのブーメランだ、俺はこんなにも支持されているんだぞ)
[えー、お集りの皆さん]
ハシゲンが話し始めた途端
“クスクス、バッカじゃないのお”
あざけるような声に思わず声を荒げるハシゲン。
「な、なんだ、人が話し始めたっていうのに!」
“あれれえ、アンタいっつも人の話を遮って、どなってるじゃん。しかも批判されるとさ、大声で話してごまかすくせに。やっぱりバッカみたい”
「だ、誰だ、失礼な」
聴衆がざわつく。怪訝そうに顔を見合わせてハシゲンのほうをみる。
『お、お静かに願います、お静かに』
慌てた司会者がアナウンスを流すが、
“皆さん、この、寒い中、こーんなわけのわからない話聞くために、たいへんだねえ。たいへんだよねえ。どうせメイジの党の人達を動員しただけだけどさ、ハシゲンさんにメイジの党から講演料、何千万だか渡すためには、まがりなりにも講演会やったことにしなきゃならないからねえ。Zoomだと、お金取りにくいんだろうねえ”
ハシゲンの耳に聞こえる声は止まない。
「う、うるさい!なんて失礼なやつだ!せっかくの、ぼ、僕の話を聞かない奴は出ていけ!」
“みんな本気で聞いてると思ってるの?十年一日のごとく、おんなじ内容だよねえ、本質的には。ミンエー化、シンジユウー主義とか。それでオーサカはどうなったのお?ねえ、人がいっぱい死んで、苦しんで、おまけにたくさん借金だねえ。新自由じゃなくて、党と心中主義だったのお”
「何をいいだすんだ!ヨジムラ君たちの対策はうまくいって」
“あれえ、新型肺炎ウイルスで酷いことになってるよねえ。雨合羽も口内消毒液もロクにやくにたたないねえ。国産ワクチンもまだだしい。あ、バンパクはお金かけすぎになりそうなんだってねえ”
「す、少しばかりのミスだろう!」
“あはは、ほかの党がそんなことしたら、すんごく噛みつくくせに二重基準もいいとこだよねえ。だいたいメイジの党とは僕はもう関係ないとかいいながら、講演料もらって、顧問だし。そのうえ、メイジの党のお偉い人に自分を批判した人を抗議させるなんて、支離滅裂だねえ。バッカっていうより、死んでも治らないアホウってやつ”
「う、うるさい、名誉棄損で…」
“また、訴えるの?どうせ、負けて恥の上塗りをするだけなのに、そんなに注目されたいの?”
「うるさい!講演会の邪魔だ!だ、誰か追い出してくれ!」
『あの、ハシゲンさん?』
「君、何してるんだ、この失礼な奴を…」
『その、何をおっしゃっているんでしょう』
「だから、僕に失礼なことをいう奴を」
『その、私たちには、その、ハシゲンさんの声しか聞こえてないんですけど。しゃべっているのはハシゲンさんだけで、ほかには誰も』
困惑した様子で話す司会者。
ハシゲンを指さし、ヒソヒソ声を上げる人々。
怪訝そうな顔、含み笑い、おかしくなったんじゃないの?というささやき声。
(い、いったい…こ、これは…ウッ)
激しい痛みを感じ、ハシゲンは気を失った。
「あれ、何もしなくていいんですか」
麻酔で眠らされたハシゲンの横に立つ看護師が医師に尋ねた。
「ああ、手のうちようがないからな」
「例の、ヨツウラ・ハリとかダケナカ・ヘイゾウとかと同じですか」
「そうだ、頭に白いカビが入り込んで大脳新皮質に炎症を起こす、幻聴や幻覚に悩まされ、思考力を失い、やがて小脳や間脳、延髄にも広がってゆっくりと死に至るんだ。治療法は今のところないよ」
「でも、このカビ、人にはうつらないんでしょ」
「免疫機能が正常な人間にはな」
「エイズにかかったみたいなもんですかね。それよりひどいか治療薬ないし。しかし、政府のお偉いさんとか上級官僚とかなんだって、こんな病気に。やっぱり、あれですかね。ワクチンの打ちすぎに、新薬の飲みすぎで自然免疫がなくなったってことですかね」
「まあ、因果関係はわからないがね。とにかくジコウ党の重鎮、政府の御用学者、太鼓持ち芸人、政府に便宜を図られたという便通やダソナだのの大会社の関係者、大手マスコミ、時に黄泉瓜新聞や三径新聞の記者や役員たちに似たような症例があったのは事実だよ。カビだけでなく、通常はなんの害もない常在菌が引き起こす炎症や壊疽なども多かったせいで原因が特定できないが」
「できるんじゃないですか。上級国民の特権を行使できそうな人間たちばかりでしょ、つまり国民を差し置いて内緒で変異株に対抗できるっていう新しいワクチンを打った、予防薬も服用した。だけど、利権がらみの権威ある医師免許は持ってるオッサンの意見ばっかり聞いてちゃんと患者を診てる医師の指示はうけなかったんでしょうね。だから過剰に薬を接種しすぎて体が暴走、免疫の反乱、白い薬、いや自然の白いカビの逆襲」
「辛らつだな、それに推測に過ぎないよ。まあ起こっている現象だけみればそうとも言えるけどね」
「しかし、まあ因果応報っていうか、自業自得っていうか。新型肺炎ウイルスに自分らだけは助かりたいってやったことが、かえって命を縮めるとは皮肉ですね。ま、ヨツウラ・ハリとか現場の医者を馬鹿にするようなことばかり言ってたし、メイジの党だって医療崩壊を招くようなことをしたからですよ。にしても、そういう闘う人たちの苦労もしらないで偉そうに言う奴らがカビに侵されて意味不明はことを叫びだすなんて、ほんとにブーメランというか」
「確かに彼らの言うことは以前から、論理的に矛盾しているし、メチャメチャだったけどね。医師じゃないなら何も言うなとは言わないが、もう少し、証拠に基づいた建設的な意見を言ってほしかったね」
「そんなもんないんでしょう、彼らはただジコウ政権にすりよりたかっただけですよ」
「君の推測が本当だとすると、確かにブラックジョークだ。一人よがりの都合のいい妄想を垂れ流し人々を騙し脅かしていた彼らに、そういう自分を貶め、嘲る幻聴や幻覚をみせるようなカビがとりつくとはね」
「そして、治療法がわからないし、そもそもここ、オーサカではもう医療崩壊、残念ながらトリアージとかしなきゃならないんですよねえ。助かる見込みがない人はね」
「ああ、仕方がない。新型肺炎ウイルスだけでなくほかの病気にも適用せざるを得ないからな。このまま痛みを緩和する薬を打つぐらいだよ、もっとも雪のせいで薬も不足してるから、生存率が高い患者に回すしかないだろうな。さあ、助かる患者を助けに行かなきゃな」
「そうですね。それにハシゲンやらヨツウラとかはそうなっても、しょうがないですよ。あいつらの言ってた弱肉強食とやらを実行せざるをえないんですから」
医者と看護師は弱者になり果てたハシゲンをおいて、部屋を後にした。
どこぞの国では”みなし陽性”とか検査もせずにウイルスに罹っていることにするとか、国で一番危ない都市になりつつあるのに、首長はすごいとヨイショするとか、命をかけてギャグをやっているようにしかみえませんが、偉い人は何を考えているのでしょうか。自分だけは大丈夫とか、実は他とは違う対策をしてるから、とか思っていても、思わぬしっぺ返しを受けたりするんですが。




