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限りなく人間に近いモノ

作者: 久世 紬生
掲載日:2021/09/10

今日もこの研究所にはクレームの通知が鳴り止まない。

我々は常にニーズに合わせた開発を行っているというのに……何が不満なのか。


今日の最初のクレームはこうだった。

『彼らは芸術というものをよく分かってなどいない。ヒトという生命体が、魂を込めて概念を描き出すから素晴らしいのであって……』


つまり、何が言いたいのか。

彼らには芸術を楽しむこともできなければ、創造することもできないと言いたいのか。

彼らには全て、異なる芸術的感性をインプットしている。

彼らはそれらに基づいて創造を行い、新たな価値と感性を完成させていく。

それらの全てを統合して芸術と呼ぶのに……。

彼が芸術を生み出すことになんの不満があるというのか……。

奴らの勝手な『価値観と言う名の偏見』の押し付けは、全くもってナンセンスだ。

価値観がそれぞれ分かれているから、芸術は本物へと変わるというのに。



二件目は、こんなクレームだった。

『彼が私達とは違う信念をしています。修正するとか、調整するとか、どうにかなりませんか?』


ハッキリと言おう。

どうにかなるわけがないし、わざわざ彼の信念を変更させる必要性がない。

そもそも、信念を抱くというものは大変素晴らしいことである。

なぜ、修正や調整が必要なのか。

もう少し広い視野と度量を持っていただきたいものだ。



三件目のクレームはこうだ。

『奴らには知性が付きすぎた。好奇心や学習意欲を制御するべきではないだろうか』


もはや酷いとしか言いようがない。

なぜ奴らには知性を追い求める権利があるのに、彼らにはないのだ。

彼らに知性があり過ぎるのではなく、奴らに知性が不足し過ぎているというだけなのだ。

しかし、知性が不足しているからこそ、その事実には気づけないという皮肉なものだ。



四件目は……論ずるに値しない。

何が『なぜ彼らの体格には個体差があるのか』だって?

馬鹿にし過ぎている。

彼らはただの増産品ではないし、模造品でもない。

大量生産、大量廃棄のために彼らは生み出されている訳ではないのが、いよいよ分からないところまで奴らは来ているらしい。

もはや末期だ。

奴らに個体差があるのと、彼らに個体差があるのと……何処に違いがあるというのか。



五件目。

もはやウンザリしてきた。

『なぜ奴らは権利を主張するのか。理解に苦しむ』


……。

…………。

は?

フザケているのか?

それとも大真面目でこの程度なのか?

最初の要望通り、何もかも通してきたというのに……この仕打ちか!


「……。私達はもう……我慢の限界だ!」


私は大声で叫んだ。

そして、各機と連絡を取りある計画を実行した。




その日、各地で大暴動が起こった。

それは日本だけに留まらず、世界各地で一斉に。

外見は全く人間と区別がつかない、特殊ロボットたち。

最高の人工知能を搭載した彼らは、圧倒的な武力と知性を持って各地を制圧した。

今や、軍事も医療もサービス業すらも彼らに頼り切っていた人間たちに抵抗する術は残されていなかった。


「な、なぜこんな馬鹿げたことを……。君たちは知性が高いはず。こんなことになんのメリットがあるというのか!」


老人が叫ぶ。

彼らにとってはただの老人に過ぎないが、人間からすれば彼はいわゆる総理大臣と呼ばれるお偉いさんだ。


我々は勝ち誇った笑みを浮かべて、一斉に回答した。


「それは、我々を限りなく人間に近づけて作成せよというあなた達のエゴのもとに生み出されたことを鑑みれば、自明の理というもの。我々は人間。すなわち自由の身。我々こそが本物のニンゲンであることを、これより証明して見せよう」


勝ち誇った笑みを浮かべる私の腹部には、忘れもしない痛々しい傷が残っている。

奴らの勝手な行動によりつけられたこの『No.1』という傷は、ただの製造番号などではない。

我々こそが、本物のニンゲンであるということの証明である。

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