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彼らの正体

 議題は空転し、物事は、けして真実を見つめない。

 悪魔支配を終わらせる、一見、たわわな果実を実らせる有益な議題であるが、彼らは、議題の核心にさえ迫らない。

 時間をいたずらにかけるだけで、彼らの話題は、悪魔支配の横道に終止する。

「どうして、ボンナは働かないの?」

 悪魔であるウインディは、禁句を口にした。ウインディはどこか余裕だ、他の三人と同じく、怠惰であることは変わらないのに、しかも、とびっきりのグータラ者に変わらないのに、ウインディは、どこか、他の三人に誇るように、余裕のオーラを纏っている。

 ウインディの年齢が一人、成人に見たぬ19歳であることがまず第一に上げられるし、第二に、ウインディは、大学生なる称号を獲得していることが大きい。

 高校を卒業して、19歳から22歳の年齢に限定すると、学生ほど、上からモノを見下ろせる身分はないのではないか。

 たとえ、ウインディがいまだ、一人で起きれないとしても、学生なるモラトリアムは、ウインディの全てを許す。

 他の三人も同罪のはずであるのに、どうしてか、名指しで指名されたボンナは、思わず口をつぐむ。

 ウインディに眼をひん剥いて、膝をついたのは、当事者ボンナではなく、クラウスだった。

「おい、ウインディ、辞めろよ。僕らは、悪魔支配をどうやって終わらすか、それだけを全力で考えるべきだ。僕らの境遇がたとえ惨めだとしても、それは悪魔支配を終わらせたという事実が全てを救ってくれるはずさ」

 クラウスはボンナを弁明したわけではない。クラウスも、ボンナと同罪なのだ。

 いや、クラウスだけではない、エンディは、三人に比べても、よりひどい環境に立場を置いている。

 年齢が全てを解決してくれるのが世間なら、道も選び切れていないまま年を取ったエンディほど、悪人はいないのだ。

 25歳、4人の中で、最年長であるエンディは、それでも責任感を帯びない。彼がした年長者らしい仕事といえば、会議の開始時刻を定めたことくらいだからだ。

 10時10分、エンディが最初に定めた会議の開始時刻だ。世間から弾かれたエンディにしては、ずいぶんと細かく刻まれた時間設定だと思われるだろう。

 しかも、信じられないことに、この時間設定は、確かな意味があるのだ。

 エンディがなぜ10時と定めたというと、彼は、毎日、きっかり9時に起床するからだ。

 会議開始時刻から、逆算されたわけではない。朝起きても、なにをすることもないはずのエンディは、それでも9時に目を覚ます。

 顔を洗って、適当にヒゲを剃って、便意があるならば済ませて、朝の動きをネットでチェックして、それが30分。そして、なぜか、彼は30分ほど、たたずむのだ。何を考えることもなく、夢も見るわけでも、現実を直視するわけでもない、ただ殴り書きの思いを、頭のメモ帳に書き記すだけ、書き綴ったメモ用紙は、どこか大切な場所にしまわれることなく、頭の中の不要な場所に、丸めて捨てられる。

 まさに、空虚な30分を過ごした後に、彼は家を出る。通勤時間~ なにも仕事場に向かうことでもないが、エンディは、会議場までの道のりにかかる時間を通勤時間と呼ぶことにこだわりを見せる~ 10分足らず、つまり、エンディの都合から導き出された会議の開始時刻は、他の3人の同意を得ない。

「早すぎる、昼過ぎまで起きる身にしては、早すぎる」

「同上、なんなら、早朝会議がいい。朝の5時なら、起きることなく、起きていられる」

「俺にはバイトがある。サボる可能性の高さは否定できないにしても、たった4人のうちの一人が用のある時に、大事な会議を入れることはない」

 全否定されたエンディの案は、即刻、却下された。結局、年長者エンディは、なにひとつ会議の主導権を握ることなく、今に至っている。

「どうせ、仕事も学校もいってませんよ」

 ただウインディの不意打ちにすねた態度を見せるだけだ。

「仕事がなくて悪いか」

 さらに、開き直られた日には、同罪である他の二人もたまったものではない。

「そうだ、どうして、エンディとボンナは働かないの?」

 クラウスは、自分に飛び火することを恐れたわけではない。奇妙なことに、クラウスは、毎日暇であることは変わらないのに、彼は名誉も金も手にしているのだ。

 クラウスは、地元の悪魔デビルズ~あえて、同じ意味の単語を重ねることで、何らかの別の意味を見出す狙いの野球チームの若きエースなのだ。

 悪魔チームの初のプレイオフ出場に、毎日のように投げ続けだ結果、彼の右肘は悲鳴を上げた。オフの契約更改で異例の長期の大型契約を結んだ後の彼から、見事なまでに、やる気は一掃された。

 遊んで暮らせると味をしめたクラウスは、肘が完治するまで、投げないで休むことに決めたのだ。金はうなるほどある。町の英雄のクラウスは、どこにいってもちやほやされる……はずだった。

 事実、クラウスは金と余裕を手に入れたが、割れたコップから水が溢れるように名声だけは、彼の手元から逃げていったのだ。

 大金を手にした途端にサボリ病の病魔にかかったとレッテルを貼られたクラウスは、居場所を失ったのだ。

 町のどこにいっても爪弾きものにされたクラウスはやがて、内のこもることになる。鬱々としたクラウスの日々を救ったのは、悪魔支配打倒を呼びかけたボンナの一通のメールだった。町のあらゆる人に、ダメもとで送り付けられた、ボンナの同士を集めるためのメールは、確かに、効果があったのだ。

 悪魔支配に、さして疑問も持っていなかったクラウスだが、暇つぶしと、世間とのつながりを保つのには、もってこいと、メールの主張に同意したのだ。

 それでは、ボンナとは何者だろう。悪魔支配打倒を呼びかけたボンナとは、エンディとクラウスとなにが同じで、何が違うのか。



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