第8話 ハンナ
家族とパーティーを組むことになった翌日の朝。
俺たちはパールバロンへと移動した。
空間の扉を開いたことに驚く皆は、感嘆の声を上げてパールバロンの町を見渡している。
「ここがパールバロンなんだ……と言うかおにぃ凄すぎじゃない? こんな便利な能力持ってるなんてありえないんだけどっ」
そう言ってモモちゃんは俺の左腕に手を回してきた。
それを見た義姉ちゃんは同じように俺の右腕に手を回す。
「ちょ、二人が両手取ったら私はどうしたらいいの!? うえええええん!」
義母さんは俺と腕を組めないことにまた泣き出した。
仕方ないので肩車をしてやると、義母さんはそれが意外と嬉しかったのか上機嫌で俺の頭の上で体を揺らし始める。
頭の上に義母さんの柔らかい胸が乗っかかっており、少しばかり首が痛かったが、本人が喜んでいるのでこのままにしておいてやろう。
そのまま俺たちは冒険者ギルドと呼ばれる、仕事を斡旋してくれる場所まで赴いた。
そこは石造りの三階建ての建物で、ギルドを行き来している者たちは戦士や魔術師など、冒険者ばかりだ。
中に入るとカウンターに6人の受付嬢がおり、多くの人が並んで仕事のやりとりをしている。
俺たちも列に並ぶのだが……なぜか周囲の視線を集めていた。
「な、何だあいつ……いい女を三人もはべらかしてるぞ」
「あいつはガライのところにいたムウだろ。確かにいい女だけど、一人は子供じゃねえの?」
「皆可愛いよな……羨ましい」
どうやら義母姉妹が可愛いことに羨ましがっているようだ。
俺は家族のことながら鼻が高くなる思いで、胸を張って自分の順番を待った。
だが義母さんが子供扱いされたことに腹を立て、また泣き出してしまう。
「わだじ、子供じゃないもん!」
「もーう。そんな泣かないでよ、ママ」
「そうだぜ。義母さんは俺たちを育ててくれた、素晴らしい女性だ! 俺たちが分かってるんだから、それでいいじゃないか」
「でも、子供じゃないもーん」
義母さんの涙で俺の髪がずぶ濡れになった頃、ようやく俺たちの順番が回ってきた。
「あら、ムウじゃない」
「よっ」
「……その子たちは誰かしら?」
顔見知りの受付嬢、ハンナ。
金色の髪を縦巻きにしており、ボリュームのある胸をお持ちの方。
容姿は間違いなく美人に分類されるほど綺麗で、ファンも多いなんて話をよく聞く。
そんな彼女はなぜか顔をピクピクさせながら義母姉妹へ視線を送っていた。
「ああ。義母さんに義姉ちゃんに義妹ちゃん。皆俺の家族だ」
「そうなんだ……そっか」
なぜかホッとため息をつくハンナ。
ため息の理由は分からないが、とにかく仕事を斡旋してもらわなければ。
「初心者でもできる仕事が欲しいんだけど」
「え……もしかして、家族で冒険者するつもり?」
「そのつもりだから、さっさと仕事くれない?」
「…………」
なぜか挑発的なモモちゃん。
ピクリとハンナの眉が動く。
「妹さん……だよね。元々お兄ちゃんはSランクのパーティーにいたんだから、一緒にいたら邪魔なんじゃない?」
「邪魔にならないように経験を積もうと考えてんの。私はいつだって未来を見据えていますから」
パチバチと火花を散らす二人。
なんでそんな感じなの、二人とも?
「未来を見据えているなら、さっさとお兄ちゃん離れしたらいいのに……どうせ君たちは結婚できないんだから、今のうちに慣れておいた方がいいと思うけど」
「残念だけど、私たちは血の繋がりが無いので結婚できますぅ」
「なっ!?」
ハンナは目を見開いて俺の方を見てきた。
義姉ちゃんがモモちゃんの言葉を耳にして、ギュッと俺の腕を掴む手に力を入れる。
「か、家族なんじゃなかったの、この子たち?」
「家族だぞ。血の繋がりは全くないけど」
「…………」
ハンナの反応に胸を張るモモちゃん。
すると義母さんが身体をプルプルと震えさせ始めた。
「ち、血の繋がりが無くても家族だもん」
「また泣いてる! こんなことぐらいでいちいち泣かないで、ママ」
「とにかくさ、仕事紹介してくれよ、ハンナ」
「……フリーだと思ってたのに、意外な伏兵がいたものね」
「え?」
「なな、なんでもないわよ。仕事ね、仕事……ムウは知ってると思うけど、最初はFランクからスタートよ」
「大丈夫。分かってる」
ため息をついてハンナは手元にある資料のような物をペラペラとめくり出す。
「ランクは冒険者とパーティー、それぞれ実績と実力に応じてF~SSの8段階に分けられていて、ムウの冒険者としてのランクは現在E」
パーティーとして難易度の高い仕事を片付けられる場合、個人のものよりも高いランクを与えらえることが多い。
俺はEランクでガライたちはBランクに位置しており、個人の実力以上に仕事を次々と解決してきたので、ガライたちのパーティーはSランクに分類されていたのだ。
個人で高いランクをつけてもらおうとすると、試験などを受けなくてはならないので、それを面倒くさがって受けない人が多い。
ランクが上がれば助っ人として他のパーティーに入れてもらいやすくなるが、メリットとしてはそれぐらいなので、Bランク辺りで止めるのがほとんどのようだ。
パーティーとしては実績を摘めばランクが上がり続けるので、自身のランクよりもパーティーのランクが高い人ばかり。
俺自身はサポートとしてガライのパーティーに所属していただけだから、いまだにランクE。
これはガライがきっちりと俺がサポートだけしかしていないと報告していたからであろう。
ま、ランクなんて気にしてないからいいんだけどさ。
「ランクEのムウに、駆け出しのFばかりなら……ビックマンティスの魔石の納品でもする?」
「ああ。最初はそれぐらいがちょうどいいかもな」
昨日、商店に魔石を売ったのはこんな長蛇の列に並ばなくてもすぐ取引が終わるからだ。
ギルドで仕事として納品すると、それだけ個人とパーティーの評価が上がる。
こうして時間はかかるが皆で仕事をしていくとなると、しっかりこちらで納品しておいた方がいいだろう。
ハンナは一枚の紙に大きな判子を押して、こちらに手渡してくる。
「何それ?」
「ん? これで仕事を請け負いましたっていう、証拠みたいなもんだな」
「ふーん。じゃ、早速行こうよ」
俺は踵を返し、ギルドを出ようとする。
だがモモちゃんは俺と腕を組みながらハンナに向かって目の下を指で伸ばし、べーと舌を出していた。
ギリっと歯噛みするハンナの顔を見ながら俺はそのままギルドを後にした。
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