家庭訪問
元々、一週間に一日は休日を入れるつもりだった。なので、その日に家庭訪問を実施することにする。
「ちょっと、シェンリーさんのご実家へ挨拶に行って参ります」
そう告げると、エライザが口に含んだスープを噴き出した。
「ぶはっ! え、えぇっ!?」
「きゃあっ!?」
エライザの正面に座っていたリズが悲鳴を上げて立ち上がる。
食堂のテーブルが広かった為被害は少なそうだが、スープを噴き出すのはいけない。ちなみに、今は休日の朝食を皆でいただいているところだ。
「落ち着いてください」
「落ち着けるわけないじゃないですか!?」
嗜めようとしたら怒られてしまった。仕方ないので口を閉じて聞く姿勢になる。すると、エライザも居住まいを正し、咳払いをして口を開いた。
「突然過ぎますよ。何故、シェンリーさんの家に? 物凄く不安なんですが……」
「シェンリーさんが学院を辞めて、実家に帰らないといけないと聞きました。なので、私が直接ご両親の説得に向かいます」
「oh……」
エライザが変な声を出して天を仰ぐ。一瞬、グレン学長の姿が見えた気がしたが、気のせいだろうか。
「大丈夫なのか? 教員が家に直接行くなど、聞いたことがないが」
横で聞いていたストラスが少し心配そうに確認する。それに頷き、シェンリーから預かった手紙を広げた。
「手紙には、ただ淡々と家に戻ること。学院は途中退学とし、連絡はこちらで行うことが書かれていたみたいです。流石にこれでは本人も納得できませんし、私もそのままにはできません」
そう告げると、ストラスは腕を組んで唸る。
「確かにな。だが、アオイが行くのは難しいかもしれない」
ストラスが難色を示し、首を傾げる。それを見て、ストラスは浅く息を吐いた。
「……今や、アオイはフィディック学院の代表としてだけではなく、メイプルリーフ皇帝や現在の聖人、聖女に認められた要人となっている。その要人が強くローゼンスティール子爵家を糾弾したなんて話になれば、対外的にも何らかの処罰の対象となる可能性が高いだろう」
その言葉にコートやエライザが頷き、シェンリーが不安そうに眉根を寄せる。
「大丈夫です。私は一教員としてお話に伺いますので」
上手く説得してみせよう。そう思って口にしたのだが、皆はこちらを見ずにテーブルに視線を落としたのだった。
飛翔魔術は多少魔力の消費が多いが、使い勝手が良く、利便性が高い。今回の移動でもそれを強く実感した。
なにせ、普通なら馬車で一週間弱かかるとされる距離を、僅か一時間程度で移動出来たのだ。
ふわりと馬車の浮遊感の感じが変わり、柔らかく地上へと降り立つ。
「さぁ、シェンリーさん。着きましたよ」
そう言って馬車の扉を開けると、シェンリーが恐る恐る出てきた。
「は、はい……っ!?」
そして、周りの状態に気がつき、息を呑む。馬車が降り立った街道には、街道だけでなく周辺まで埋め尽くすような数の兵士が剣を構えて並んでいたからだ。
数は千か二千か。物々しい格好の兵士達が剣を構えている様は、中々の迫力である。
「何用でこのローゼンスティール子爵領に来た!? 答えよ!」
怒鳴る髭を生やした兵士。いや、馬に騎乗していて、偉そうなマントも着けている。もしかしたら騎士だろうか。
そんなことを思いながら周りを一度見回し、脅威が無いことを改めて確認して口を開いた。
「私はフィディック学院の教員で、アオイ・コーノミナトと申します。先日、子爵の実子であるシェンリーさんに帰還指示の書かれた手紙が届いたので、ここまで送迎いたしました」
そう告げると、兵士達の中の誰かがシェンリーに気がつく。
「シェンリー様?」
「お戻りになったのか?」
その声に反応して、徐々に兵士達の敵意と警戒心が薄れていった。
髭の騎士は私の後ろに立つシェンリーを見て、悩むように眉間に皺を作る。
「……確かにシェンリー様のようだが、そのような話は聞いていない。申し訳ないが、暫くその場を動かずに待っていてもらいたい」
騎士はそう言い残すと、素早く馬を反転させて街の方へと向かっていった。
兵士達による人垣で見難いが、街道の奥には小規模の街がある。周囲には三メートル程度の高さの壁が続いており、街の内外を区別していた。
騎士がいなくなっても、兵士達に見張られている為、居心地の悪さを感じる。
「……あ、アオイ先生」
不意に、シェンリーが不安そうな声で私を呼んだ。振り向くと、馬車の扉の前で俯きがちに立つシェンリーが、こちらを上目遣いに見ている。
「大丈夫ですよ。私がきちんとお話しますから」
安心させようと言ったのだが、シェンリーはなんともいえない顔で私を見るばかりだった。
異世界教師2巻が絶賛発売中!
書籍版オリジナル部分多数です!
是非読んでみてくださいね!




