ジェムの意見
ジェムが怒りを露わにすると、空気は一層冷え込む。視線はジェムと私に集中していた。
ジェムは私を見下ろした格好のまま、静かに口を開く。
「……私が間違っているとは、なかなか面白い意見ですね。しかし、私の言っている言葉のどこに間違いがあるというのか。誰が聞いても正しい考えだと分かる筈です。例えば、火の上級魔術は戦争においても上手く使えば大軍を一網打尽にできると聞きます。そんな魔術がある中で、火を移動させたり形を変えてみたり……無意味でしょう? 結局、使い道を考えるならすでに長年の研究で最適化された魔術が揃っていますから、その魔術の効率化を目指すのが最も重要な研究といえます。違いますか?」
少し早口気味に自らの考えを披露するジェム。それを全て聞き、しっかりと考えた上で、私は答える。
「間違っています。その考えは、今の魔術が本当に最適であり、必要なものを網羅していた時に限るものです。むしろ、私からしたら足りないものばかりですから、ジェムさんの考え方は間違っていると判断します」
「……なっ!?」
私の言葉に顔色を変えるジェム。ここまでハッキリと否定されたことはないのか、口をぱくぱくと動かすだけで、言葉が出てこないでいる。
その様子に、バルブレアが小さく噴き出すように笑った。ジェムはそれに更に腹を立てる。
「ぐっ! な、なんという無礼な……! 陛下! 下らない理屈ばかり並べて反論しておりますが、あんなものは理想論です! そんな簡単に新たな魔術なぞ作れません! ただ、我が国の魔術を、癒しの魔術の知識を得る為の方便で……」
ジェムが必死に訴えると、ディアジオはどうしたものかと困惑した顔になった。
そこへ、近衛兵の列の奥から、小柄な人影が現れる。
「実際に見せてもらってはいかが?」
低いが美しい声が広間に響いた。皆の意識があっという間にそちらに吸い寄せられる。
現れたのは真っ白なドレスに金髪の少女、ローズだった。
「こ、こ、これは、ローズ皇女……その、どうしてこちらへ?」
ローズの登場はジェムに味方する為なのかと思ったが、視線を向けられたジェムは動揺した様子で愛想笑いを浮かべる。
誰もが接し方に悩んでいるような素振りをしている中、アラバータが口を開く。
「ローズ皇女。陛下よりアオイ殿に面会を申し出て行われた会談です。陛下が質問をされますので、どうかご理解を」
丁寧にそう進言すると、ローズは眉間に小さく皺を寄せた。
「……陛下の名に泥を塗るようなことはするな、ということ? 私は解決方法を提案しただけなのだけれど……」
そう呟きつつ、ローズは階段の上に座するディアジオを見上げる。それをどう受け取ったのか、ディアジオは慌てて頷いた。
「む、そうであるか。いや、ローズの気持ちは伝わった。確かに、長く魔術師として研鑽を積んできたジェム副魔術師長にとって、アオイ殿の考え方は自己の否定に感じられるやもしれん。ならば、アオイ殿に自らの主張が正しいと証明してもらう方が良いのではないか、ということだな」
ディアジオが冷や汗を流しながらそう言うと、ローズは薄らと微笑んだ。
「その通りです。それで、ジェム殿? どのようにしたなら、貴方は納得が出来ますか?」
ローズがそう尋ねると、ジェムは咳払いをしつつ頷く。
「そ、そうですな……では、有用かつ、これまでにない魔術を幾つか披露してもらいましょうか。いや、まさか難しいなどとは言いますまい。新しい魔術を研究することこそが魔術師としての正道であると主張するなら、その若さでも成果の一つや二つはお持ちでしょう?」
ジェムが半笑いのような表情でそう告げると、ローズが小さく笑う。
「新しい魔術を作り出すなんて、何年、何十年と時間をかけて行うと聞いているけれど、無茶な条件ではないかしら?」
「なにを言いますか、ローズ皇女。我々は毎年一つは既存の魔術を効率化など改善しております。その効果はまさにメイプルリーフの利益に繋がるものでしょう。ならば、新しい魔術を研究する魔術師にもそれと同等の国益を求めるのが当然ではありませんか。それとも、自信がありませんか?」
ローズの言葉を援軍と受け取ったのか、ジェムは更に強気になって挑発めいた発言をしてきた。だが、ローズの私を見る目は好奇心に満ちている。それが私が負ける様子を見たいのか、それとも新たな魔術への興味かは分からないが。
二人の視線に、私は溜め息を吐きつつディアジオを見上げる。
「……それで、私は何か魔術を披露した方が良いのでしょうか」
確認すると、ディアジオは冷や汗を拭いつつ乾いた笑い声をあげた。
「そうしてもらえると助かる」
ディアジオにそう言われて、何か釈然としないものを感じつつも立ち上がる。
「確か、私は他国の重要人物相当の扱いをお約束してもらえたと思っておりましたが?」
責めるような口調でそう言ってみると、ディアジオが顔を引きつらせる。そして、代わりに宰相が言い訳を始めた。
「い、いや、本当に申し訳ない限り……しかし、国内の機密の閲覧許可を与えると反感を持たれる可能性が高く、相応のものをこちらも引き出したという実績が欲しいのも確かなところでして……」
とってつけたような理由を宰相が言うと、ディアジオも深く頷く。それに再度溜め息を吐いてジェムを見ると、勝ち誇ったような笑みが返ってきた。
「どうしました?」
「……いえ、少し苛立ちを覚えただけです」
私がそう言ってジェムに向き直ると、視界の端でアラバータが額に片手を当てて天を仰ぐのが見えた。
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異世界転移して教師になったが、魔女と恐れられている件
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