呼び出し
聖都に来て四日目。今日は朝からディアジオに呼ばれた。本当なら研究室で癒しの魔術の研究や詠唱を知るチャンスだっただけに、とても悲しい。もしかしたら、今日は研究室に行くことが出来ないかもしれない。
不満を抱えたままアラバータに連れられて謁見の間へと赴く。
前回も歩いた分厚い絨毯を踏み締め、決められた位置で片膝をついて姿勢を低くした。
と、周りに立つのが近衛兵ばかりではないことに気がつく。
アウォードだけでなく、クラウンやバルブレア、キャメロンまでいる。他にも教員や研究員である宮廷魔術師達の姿もあった。近衛兵以外はこの二日間で会った人々のようである。
そっと階段の上を見上げると、ディアジオと宰相の他に、今日は別の人物の姿があった。
ディアジオ達が立つ場所よりも二段低い場所に、宮廷魔術師のジェム・ウェストミーズ副魔術師長がいた。不敵な笑みを浮かべるジェムが、こちらを見下ろしている。
何か、今回の謁見には違和感が感じられた。
そんなことを考えていると、階段の上から声が掛けられる。
「……アオイ殿。ここ二日間での聖都見学はいかがだっただろうか」
そんな当たり障りのない質問に、私は首を傾げつつも頷いて答える。
「はい。とても良い勉強となっています。私の研究してきた魔術とは別の考え方、視点の魔術があることが分かりましたので、それを暫く研究することが出来れば……」
二日間の成果について説明をしていると、私の言葉を遮って宰相が口を開く。
「それは、陛下が許可しなかった機密の内容、ではありませんか?」
そう言われて、私は再度首を傾げる。
「魔術の公開は許可がおりませんでしたが、他には何も言われてません」
答えると、ディアジオがこめかみに指を当てながら首を軽く左右に振った。
「余は、他国の重要人物相当の扱いを約束した。そして、学院および研究室などの見学許可だ。機密とされる魔術書の閲覧許可ではない」
と、ディアジオが私に与えた権限について明確にする。そこは、前回の問答の際に黙認してもらえるものと思っていたが、どうやら勘違いだったらしい。
ならば、改めて許可をもらうとしよう。
「そうでしたか。では、研究中のものではなく、過去の聖人や聖女の魔術についてのみでも構いません。閲覧の許可を」
そう告げると、ディアジオと宰相は眉根を寄せて押し黙る。見せるのが惜しいと感じているのだろうか。
沈黙が広がると、ジェムが肩を竦めて口を開いた。
「陛下、今の言葉がまさに自白と同様でしょう。魔術師長や学院長がどうやって誘導されたのかは知りませんが、どうやら陛下の意に沿わない範囲まで機密の魔術を見せようとしていたようです。危なく我が国に重大な損害を被るところでしたな」
ジェムがそう口にして、アウォードの方を見た。アウォードはそれを無視して、ディアジオに目を向ける。
「陛下。アオイ殿とは一日しか会ってはいませんが、悪意のある方ではないと断言できます。また、アオイ殿の魔術は驚異的であり、我が国の魔術にも必ず利する部分があります」
そう言って、アウォードは私を見た。いつもの独特なテンポではない口調だ。逆に違和感がある。
しかし、周りの者は誰も気にせず、更にクラウンが後に続いて口を開く。
「まさにその通り。むしろ、癒しの魔術の情報と交換をし、他の属性の魔術について教授を受けるべきです」
クラウンがそう言った瞬間、ジェムが口の端を大きく上げた。
「ついに馬脚を現したな、クラウン・ウィンザー。今の言葉が売国につながることには気が付かなかったか? それとも、既に重要な情報は横流しした後か? 追及を恐れて開き直っているのなら、早めに全てを白状してしまうと良い」
クラウンの言葉をどう受け取ったのか、ジェムは喜びを隠せないように笑みを浮かべながらクラウンを批判する。
それにディアジオと宰相が顔を見合わせた。良くない流れだ。
「……ふむ。魔術師長の言葉にも真はあろうが、ジェムの言葉にも無視出来ぬ説得力がある。さて、これまで沈黙を貫いていたバルブレアよ。学院長として、何か言うことはないか?」
話がバルブレアに振られた。すると、バルブレアは面倒そうに口を開く。
「嘘を吐くのは好みません。なので、はっきりと言わせていただきましょう。ちょうど本日、私は学院長を退こうと手続きをしていたところです。後任にはキャメロンをと思っております」
バルブレアが突然そんなことを言い出した為、宰相が慌てた様子で待ったを掛ける。
「ちょ、ちょっと待ってもらいたい! バルブレア殿。聖女の一人たる貴女が、何故学院長を辞めるなどと……!?」
悲鳴にも似た声でそう尋ねると、バルブレアは真っ直ぐにそちらを見返した。
「先ほどアウォード殿が言った通り、アオイ殿の素晴らしい魔術の知識と技術に深く感動したからです。はっきり言って、フィディック学院には全てにおいて負けています。唯一、癒しの魔術だけがアオイ殿と同等の水準でしたが、他の属性については勝負にもなりません」
バルブレアがそう告げた途端、近衛兵達までざわめいた。そして、ジェムが呆れたように口を開く。
「……先代の聖女にしてもそうですが、新しい魔術の開発にばかり目を向けるからこのようなことになるのです。他国の魔術に幻想を抱いたところで、それが結果に繋がることはないでしょう。真面目に魔術に向き合っている者はそのような脇道には行きません。コツコツと、正道で魔術の道を極めるものです」
と、自身の思想を多分に含ませて、ジェムが語った。すると、謁見の間は更に緊張感を孕んでいく。
そんな中、どうしても我慢できなかった私は一言だけ物申す。
「……それは大きな間違いでしょう。ジェムさんの言っている内容は、ただ難しいことに挑戦したくない、新しいことを知る努力をしたくないということだと思います」
そう口にすると、ジェムの顔がこちらに向いた。
「……私が、間違えている?」
アース・スターノベル ルナ様より
異世界転移して教師になったが、魔女と恐れられている件
2巻が4月15日に発売します!
今回も鈴ノ様より超美麗なイラストを描いていただきました!
是非チェックしてみてくださいね!




