癒しの魔術の研究
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各魔術の研究内容を軽く確認して、今後の研究にヒントになるような魔術を見せる。それを繰り返して、気が付けば残すは癒しの魔術のみとなった。
クラウンの提案により、研究室を訪れるたびに同行者が増えている。その為、移動の時間は質問がどんどん増えていった。
「火は酸素が必要とのことでしたが、それはどのように加えたら……」
「どの魔術も無詠唱だったようだが、詠唱という性質上、最低でも一小節の詠唱は必須ではないのか?」
「土の魔術で、何故岩よりも硬い実験室の天井を突き破ることが出来たのか?」
そういった質問に出来るだけ分かりやすく答えているのに、頭を悩ます人が増えていく。困った。
そして、気が付けば癒しの魔術の研究室に辿り着く。実験室は他の研究室と大差なかったが、研究室の建屋は倍以上大きい。
「癒しの魔術師は各属性の魔術師に比べても三倍以上在籍している。他国の要請に応える為ではあるが、そのせいで宮廷魔術師としての一定水準に達していない者もいるんだ」
クラウンは無念そうにそう言うと、そのまま研究室へと向かった。これまで通り、躊躇いなく扉を開ける。
その様子に心なしか他の研究員達が辟易した顔となる。どうやら、突然扉を開けるのはここでもマナー違反らしい。クラウンが特殊なだけということか。
「む、ちょうど魔術師長が……」
扉を開けた瞬間、クラウンがそう呟きかけて口をつぐんだ。
すると、研究室の中から険しい顔の男が姿を見せる。クラウンが一歩二歩と退がると、研究室の中から男がでてきた。
銀髪の鋭い目をした男だ。年齢は四十代くらいに見える。少々草臥れた雰囲気ながら、威圧感に近い迫力があった。
「……貴女が、アオイ・コーノミナト殿か。私は宮廷魔術師長のアウォード・スマグラー。現在の聖人として認定されている者だ」
「アウォードさんですね。初めまして。アオイと申します。フィディック学院で教員をしております」
挨拶がてら自己紹介を返す。すると、アウォードは眉間に皺を寄せたまま観察するように眺めてくる。
「……随分と若い。バルブレアから聞いたところによると、聖女並みの癒しの魔術を使えると聞いたが、メイプルリーフ以外のどの国でそれだけの癒しの魔術を学んだのだろうか。実に不思議だ」
普通に会話するような声量だが、こちらに話しかけているのか。それとも自問が口から洩れているのだろうか。独特なテンポで話す人物である。
アウォードの言葉に、後方に付いてきている他の研究員たちが驚きの声を上げる。
「まさか、癒しの魔術まで使えるのか……?」
「馬鹿な。それでは五属性の魔術すべて上級以上の……」
そんな声が聞こえたのか、アウォードの眉間の皺が深くなった。
「……五属性の魔術? そんなことがありえるのか。いや、しかし、研究室に所属する者が見間違えるはずもない。どうやって……そうか、国宝級の魔術具を使って……だが、そんな貴重な魔術具を五つも個人が持つことが出来るだろうか。ふむ。一度、それぞれの魔術を見せていただきたい」
「え? あ、はい。構いませんよ」
独り言かと思いきや、突然話しかけられた。それに頷くと、アウォードは一瞬眉尻をあげたが、すぐに眉間に皺を作る。
「……相当高度な魔術を操ると聞いたが、そのように簡単に他者へ見せても良いのか。他人事ながらいささか心配になる。とはいえ、私としては見せてもらえたら有難い限りである為、是非ともお願いしたいところだ。しかし、今は一番気になっている癒しの魔術を実際に見ておかねばなるまい」
と、アウォードは一方的に喋った後、口を閉じた。
「……では、癒しの魔術を実践してみせるということで」
「頼む」
独特なテンポながら、会話に問題はない。むしろ、意外と話しやすい気もする。
「こちらへ同行願おう」
「よろしくお願いします」
アウォードが踵を返して研究室に付いてこいと言うので、素直に頷いて同行を了承した。すると、後方からまた驚きの声がする。
「……魔術師長と馬が合うようだぞ」
「アオイ殿も特殊な性格か?」
「魔導の深淵に迫る人物は変わった人物が多いと聞くな……」
と、若干引っかかる言葉が聞こえた気がしたが、わざわざ否定するほどではないかと開き直る。オーウェンやグレンは少々変なところもあるが、私はいたって常識的と思う。いずれ誤解は解けるだろう。
アウォードに付いて研究室の中へ入ると、そこには五人の男女がいた。壁面にギッシリと本が詰まった書棚が並んでいるのも目を引くが、何よりもテーブルの上に骸骨が寝かせられていることに驚く。
「骨格模型ですか?」
私は驚きつつ、テーブルの上に置かれた骸骨を見下ろす。随分と良く出来ているが、木や粘土、石膏には見えない。
と、アウォードが無表情に首を左右に振る。
「いや、普通の人骨だ。模型も作成してみたが、やはり本物の方が良い。体の内部や働きを知ることが出来る」
そう言うアウォードに、私は成る程と頷いた。
「確かにそうですね。人体を知るならまずは骨から。理に適っています」
頷きながら同意の言葉を口にしていると、何故か皆の視線が私に集まった。




