【別視点】エライザの懸念
お気楽領主の楽しい領地防衛!
2月発売です!
宜しくおねがいします!
【エライザ】
クラウンの発案により、我々はアオイに付いて各研究室に行くこととなった。
もう、メイプルリーフの魔術師達が大混乱に陥る未来しか見えない。
「……ストラスさん、止めないんですか?」
前を歩くストラスに一応声を掛ける。だが、ストラスは溜め息を吐きつつ首を左右に振った。
諦めている、というわけでは無さそうだ。しかし、アオイを止めるつもりもないらしい。
どうしたものかと思っていると、コートがこちらに近付いてきた。
「エライザ先生。アオイ先生の考えとしては、いずれは各国の魔術にも一石を投じるのですよね? ならば、後で揉めないように、メイプルリーフでもアオイ先生の好きにさせた方が良いと思います」
「え? でも、間違いなく大事件になりそうだけど……」
思わず不安になって聞き返す。なにせ、アオイの魔術は各国の魔術レベルを確実に越えている。その実力差、知識差に危機感を抱くだろう。下手をすれば、アオイの知識を求めて刺客が現れるのでは、なんてことも考えてしまう。
そんな私に首肯を返して、コートが口を開いた。
「もちろん、混乱するでしょうし、大騒ぎになります。しかし、メイプルリーフでそれを遠慮して、ほかの大国のどこかで魔術を教えてしまった場合、もっと大きな問題が発生します。アオイ先生がメイプルリーフにだけ知識を出し渋った、と思われてしまいます。それはフィディック学院やヴァーテッド王国の意志と判断されてもおかしくありません」
「く、国と国の争いになるかも、ということですか……」
魔術界隈の話から国同士の争いにまで話が広がり、更に不安感が増す。
しかし、コートの話は終わっていなかった。
「それだけではありません。もし、大国の過半数に魔術を教えて、一部をそのままにした場合、均衡が崩れる恐れがあります。そうなると、もしかしたら複数国を巻き込んだ戦争に発展したり、力の弱い国は領土を奪われてしまうことも……」
「そ、そんな……」
まさか、そんな大変な事態になるなんて……。
コートの説明を聞くうちにどんどん血の気が引いていくのが分かった。
不安と緊張でお腹が痛くなった気がして背中を丸めていると、コートの後ろからアイルとシェンリーが顔を出す。
「エライザ先生を虐めないでください」
「アオイ先生は戦争なんて起こしません」
二人はそれぞれコートの言葉を非難、否定してみせた。それに、コートは困ったような顔をする。
「そうかい? このままいくと、十分にあり得る未来だと思うけれど」
コートがそう口にすると、シェンリーははっきりと首を左右に振った。
「アオイ先生が戦争なんて起こさせるはずがありません。仮令、どこかの国が戦争を起こそうとしても、アオイ先生が相手の国を助けたら戦争は止まります」
と、私が聞いてもかなり無茶な理論を主張する。それはつまり、アオイが一国に匹敵する力を持つという意味になるが、コートは思わず黙り込んでしまった。
まさか、考慮に値する内容だと感じたのか。
いや、私も心の中のどこかで、アオイならばそれもありえると考えてしまってはいる。
しかし、そんなのは最上級のドラゴンなどを単体で倒せる英雄くらいだ。そして、そんな英雄なんて物語の中でしか存在しない。
そう思ってコートの横顔を見たが、すっかり考え込んでしまって答えは得られそうになかった。
「火は可燃物があり、熱があり、酸素があれば燃えます。そのバランスや量によって、火の勢いに影響があります。ただ、魔力によって活性化させる場合はその限りではありません。強制的に熱を高めていき、酸素を供給する。そうすれば、このように……」
そんなことを言いながら、アオイは青い火柱を作り上げ、実験室の天井を溶かして破壊した。
火の魔術師達は目を見開いたまま固まってしまったのだった。
更に、次は土の魔術を披露しようとして巨大な岩の塔を作り上げて実験室の天井を破壊。その次は風の魔術で実験室そのものを屋外から吹き飛ばした。
「風の力とは強大で、竜巻などでも最大級のものは建造物を破壊し、ドラゴンなどでも吹き飛ばすほどです」
と、アオイが前置きをして風の威力の高め方を伝えるが、当の風の魔術師達は一切聞こえていない。
「……アオイ殿は、全ての魔術を使えるのか?」
「これまで見てきただろうが」
「いや、さすがに信じられないんだが……」
驚愕の声が聞こえてくる。横を向いてみると、ストラスの奥に水の魔術、火の魔術、土の魔術を研究する研究員達が並んでいた。
中には、愕然としたまま動かない風の魔術師達の背中を同情するように眺める者もいる。
それはそうだろう。今日一日で、これまでの魔術の常識が一変してしまった筈だ。
一番奥で興奮しながら拍手しているクラウンのような者は少ない。普通は茫然自失としてしまったり、畏怖することもあるだろう。
「さぁ、最後は癒しの魔術の研究室に行こうか」
だから、クラウンが大きな声で述べた内容に、言い知れぬ不安を持ったのは間違いない。
良くも悪くも、メイプルリーフ聖皇国を大国と位置付けているのは癒しの魔術のお陰である。
その最後の砦が、もしかしたら破壊されるかもしれない。
メイプルリーフのトップを誇る魔術師達が、言い知れぬ不安に顔を引き攣らせてしまっても、誰も責めることは出来ないだろう。
私は静かに両手を合わせて、平和に終わることを祈ったのだった。




