屋上でのやり取り
屋上に行くと思ったより広いスペースがあり、そこには大きな魔法陣が描かれていた。
魔法陣の研究は主にここで行われているのか、書き換えられるようになっているようだ。周りには魔法陣以外の物も準備されているが、ガラス瓶や陶器の壺などがあるところを見ると、ここで治療の薬なども作るのだろうか。
珍しい光景に色々と細かく見て回っていると、ストラスとエライザが歩いてきた。
「……どうだ?」
「どうだ、とは?」
端的過ぎる質問に聞き返すと、エライザが笑いながら魔法陣を指さした。
「多分、この魔法陣が正常に機能するのか、と聞きたいのかなと」
「なるほど」
エライザの翻訳に頷いて、改めて魔法陣を確認する。円を基本としたオーソドックスな魔法陣だ。しかし、文字や模様の使い方はチグハグである。とはいえ、無駄が多くても何とか発動はするだろう。
「発動しますね。無駄が多いので魔力を多く消費しますが」
そう口にした瞬間、後方から固い足音が鳴り響いた。
「……ふむ、無駄が多い、と?」
現れたのはバルブレアだった。外に出る為なのか、真っ黒な外套を羽織っており、黒魔術師といった雰囲気を醸し出している。腕を組んだバルブレアは面白いものを見るような目で私を見ていた。
喧嘩を売りにきたわけではないが、こと魔術の研究に関しては嘘や誤魔化しはしない方が良いだろう。それが結果としてメイプルリーフの魔術の向上につながるはずだ。
そんな考えのもと、私は描かれている魔法陣についての推測を行う。
「文字を見る限り、これは火の魔術を使う為のものですね。てっきり、癒しの魔術の魔法陣を研究されていると思っていたので、少し驚きました。ただ、魔法陣は火の形状変化、壁、切り離し、移動、となっています。また、形状変化と壁が二回重複していますので、その部分が大きなロスとなっているでしょう」
魔法陣を解析して答える。すると、キャメロンが目を見開いた。
「なんと……一目で魔法陣の効果を……」
驚愕するキャメロンを一瞥して、次にバルブレアが顎に手を当てて口を開く。
「……ふむ。では、アオイ殿ならこの魔法陣をどう書き換える?」
そう言われて、私は魔法陣の特性を交えて回答をしていった。
「まず、この形状の魔法陣ならばこちらを正面と考えて一方向に流れるように魔力を込めた方が良いでしょう。ならば、文字の並びから左回りに文字と文様を描いていきます。まず、この形状変化、壁はそのままにして、勢いの増大、温度の向上を書き足します。問題は切り離しと移動ですが、このままだとどう動くか分かりません。もし炎の壁を動かしたいのであれば方向と速度を決めるべきですが、どうしますか?」
自分の考えを話した後、最後の決定権はバルブレアに委ねる。すると、皆の視線がバルブレアに集まった。
バルブレアは腕を組み直し、しばらく目を瞑る。数秒もそうしていただろうか。やがて眼を開けると、清々しい顔で笑みを浮かべた。
「……なるほど。過去の実験結果から、今の言葉は信用に足ると判断しよう」
それだけ言うと、バルブレアは私の横を通り抜けてから魔法陣の前に立った。
「これまでに行った実験結果としては、ここから魔力を流し込まなければまず失敗することが分かっている。また、魔力の流し方も先ほどのアオイ殿の言う通りだ。右から魔力を込めると失敗するか、上手く発動しないことが多かった」
バルブレアがそう答えると、皆の視線が今度は私に集中する。それを感じながら、私はバルブレアの隣に立って魔法陣を見下ろした。
「どうしますか? もしこの魔法陣が書き換えても良いものならば、試しに書き換えてみますか?」
そう尋ねると、吹き出すような笑い声が聞こえてきた。
「ふ、はっはっはっ! この魔法陣でも、教員が何人も寄り集まって古代の魔法陣を研究し、何度も試行錯誤してようやく形になったのだがな。それほど簡単に書き換えるなんて言葉が出るとは……」
「申し訳ありません。これを残したいのであれば、別の場所に書きますから大丈夫です」
「いや、そうじゃない。単純に、暗闇を進むように手探りで試行錯誤して、ようやく形になった魔法陣が幾つかあるような状況だというのに、アオイ殿は初見の魔法陣をその場で書き直せるほど研究が進んでいる、ということに驚きを通り越して笑えてきてしまっただけだ」
そう言って笑うバルブレア。その言葉に、キャメロンが混乱したように口を開く。
「そんな……どの国であっても、魔法陣の研究がそれほど進んではいない筈ですが……」
小さな呟きだった。しかし、バルブレアはそんな呟きに敏感に反応する。
「キャメロン。希望的観測に逃げるな。魔術研究を行うならば結果が最も大事だ。むしろ、研究を進める為の貴重な手がかりを得たと喜べ。何も知らない内に他国に差を付けられている事態よりも遥かにマシだ」
「は、はい……!」
僅かに怒気を孕んだバルブレアのセリフに、キャメロンは背筋を伸ばして返事をした。
軍人のような気質である。やはり、私とバルブレアは全く似ていない気がするのだけれど……。




