【別視点】聖女という称号
【キャメロン】
聖女、聖人とはメイプルリーフ聖皇国で最上位の癒しの魔術師に与えられる称号である。その癒しの魔術は確実に世界でトップと言えるであろう。それはメイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術師たちにとっても誇りであり、メイプルリーフにとって最重要ともいえるアドバンテージの一つでもあった。
だからこそ、フィディック学院の教員が見学に来たという話を聞いた時、我が学院に癒しの魔術を学びに来たのだと判断した。フィディック学院は世界最高峰の魔術学院と言われているが、それは総合的なものであり、こと癒しの魔術に関しては我が学院の方が遥かに先を進んでいると思っている。
しかし、このアオイという魔術師は他国の者が必ず驚く特別室にも対しても大きな反応を示さず、さらには怪我人をあっという間に治してしまった。それも聖女さながら複数人を同時に治す癒しの魔術まで行使して。
現在の聖女も史上最年少と言われているが、それでも二十代後半の筈だ。下手をしたら学生に間違えそうな見た目だというのに、このアオイという女は何者なのか。
「メイプルリーフの人体についての知識を教えてください」
先ずはそれから、といった雰囲気でアオイはそんなことを言った。フィディック学院には各国の貴族も多かったと思ったが、自分が他国の機密に抵触しようとしていると理解しているのだろうか。
助けを求めるようにアオイ以外の者に視線を向けたが、他の教員や生徒もアオイを止めようとする気配は無かった。いや、それどころかアラバータすら黙認してしまっている。
確かに、先ほどの火の魔術などであれば、フィディック学院から我々が学ぶことで大いに成果を得ることもあるだろう。だが、メイプルリーフが大国と言われる所以は世界最高位の癒しの魔術が使える聖女、聖人がいることである。
軍事的にメイプルリーフよりも強大な国であっても、メイプルリーフと敵対することはない。
何故なら、王族や宰相、または軍部最高職などの自国での要職に就く者が重傷を負ってしまった場合、メイプルリーフの協力が必ず必要になるからだ。
それほどに、聖女や聖人の癒しの魔術は貴重である。
もし、ここにいるのがアラバータではなく過激な将軍か誰かであったなら、我が国にとって危険な存在であるアオイを事故に見せかけて亡き者とすることもあり得るのだ。
近衛騎士団に所属するアラバータがそれを理解していない訳がない。
「……私の独断で可能なことではありませんので、この提案への回答は学長に伝えてからということで……」
何とか時間だけでも貰おうと考えてそう言ったのだが、アオイは何でも無いことのように頷いて答えた。
「分かりました。では、今日の学長のご予定を教えてください。何時ごろでしたら面会可能でしょうか」
「きょ、今日……!?」
あまりに急な対応を求められて、私はすぐに返答することができなかった。
すると、アラバータが咳払いをしてから口を開く。
「今日、学長に挨拶に行くと伝えている為、午後には面会が可能だろう……あまり、強く要求はしないでいただきたいが、頼めるだろうか」
アラバータはあっさりとアオイの言葉にそんな返事をした。まさか、弱みでも握られているのか。そう勘繰ってしまうほどアラバータの対応は弱気である。
「午後ですね。なら、それまで時間があるので、他の講義も見学してみましょうか」
そう言われて、私はただ無言で頷くことしか出来なかった。
それから、アオイ達は水や風、土の魔術についても講義を見学した。
本当ならば我が国の魔術水準を全て明らかにするつもりもなかったので、初級の講義ばかりを見せようと考えていた。しかし、癒しの魔術で高いレベルの魔術を見せられてしまった為、もう誤魔化す気にもならない。
素直に、現在の学院でもトップの学生が受けている講義ばかりへと連れて行く。
結果、またもアオイという魔術師の異常性を見せつけられることとなってしまった。
水の魔術ではミスリルの鎧を葉か何かを切り裂くように両断してしまった。水流、圧縮という言葉を使って説明していたが、目の前で起きたことを理解するのに必死で覚えていない。
風の魔術では学生を一人、空に浮かべてしまった。学院の上空を自由自在に飛ばせるアオイに、恐怖心すら抱く。
土の魔術では、学院の中に三階建ての塔を作ってしまった。ディティールが甘かっただのと不満そうだったが、その塔は聖都の城壁よりも頑丈そうだった。
聞けば、アオイはフィディック学院で魔術概論という講義をしているそうである。
そして、ストラスは風の魔術を、エライザは土の魔術を教えているそうだ。得意な魔術を定めていないアオイでもこれだけの魔術を披露するなら、得意な魔術に絞って研究しているストラスやエライザはどれだけの魔術を使うことが出来るのか。
ここまできて、私は自分の中にあったフィディック学院の評価を大幅に修正する必要があると判断できたのだった。




