アオイの実力
私が「治療をする」と発言すると、キャメロンと学生たちが揃って目を丸くした。アラバータも目を瞬かせているが、ストラスとコートは成程と頷く。
「治せるか?」
ストラスが聞いてきたので、問題無いと答えた。
「ちょっと待ってください。言葉はきちんと考えて口にしないといけません。ここはメイプルリーフの聖都魔術学院です。こと、癒しの魔術に関しては各国のどの魔術学院にも負けないと自負をしております。その我々に対してふざけるようなことは……」
よほど癇に障ったのか、これまで穏やかな喋り方を続けていたキャメロンが急にまくし立てるような口調で文句を口にする。しかし、今は長くなりそうな説教などを聞いている時間もない。
返事もせずに診察台の隣に移動し、目に涙を溜めた女学生の横で片手を青年の方に添える。怪我の様子を確認しつつ、無傷の状態を想像する。出来るだけ内臓まで正確に正常な状態をイメージし、魔力を流し込んでいく。
「……命の水」
最後に魔術を行使すると、私の魔力が浸透した部分がイメージ通りになるように修正されていった。淡い発光と共に青年の体は傷が塞がっていく。
「な、何が……」
見たことの無い魔術だったからか、キャメロンの困惑する声が聞こえてきた。学生たちも驚きの目で綺麗になった青年の体を見ている。
「血が足りませんね」
問題はないが、このままだと中々意識が戻らないだろう。そう思い、私は非常用にとっていた丸薬を取り出した。オーウェン直伝のエルフの秘薬である。
意識を失ったままの青年の口に丸薬を含ませて、周りを見る。
「水はありますか? 飲める水です」
「あ、は、はい!」
私の言葉に隣に立つ女学生が水の入ったコップを手に取り、こちらに渡してきた。
「ありがとうございます」
お礼を言い、コップを受け取る。青年の口を開いて水を含ませると、口を閉じさせて後頭部に手を当てて少し持ち上げた。
小さく喉が鳴り、青年が丸薬を飲み込んだと判断する。
「……何をしたんですか?」
処置が間に合ったと思い胸をなで下ろしていると、キャメロンから警戒心の滲んだ声が聞こえてくる。
「怪我の治療を行いました。最後の薬は血が少なくなっていることを考えて一部の内臓を活性化させ、造血を進めさせる為のものです。恐らく、数分もすれば意識が戻るとは思いますが」
そう答えると、キャメロンは私の方へ歩いてきて険しい表情でこちらを見下ろしてくる。
「馬鹿な。我々でも治せない可能性が高かった重傷者です。表面上の傷は治せても、そう簡単には完治させることなど……」
低い声でそんなことを言いながら疑惑の目を向けてくるキャメロン。だが、そんなキャメロンをあざ笑うかのように青年が薄く目を開けて息を漏らす。
「……う、うぅ……」
そんな声が聞こえて、学生二人がハッとしたように青年の胸に手を当てたり、口元に耳を寄せたりした。
「い、生きています!」
「鼓動が強くなった! これなら大丈夫です!」
すぐに青年の無事を確認した二人は、安心したように笑顔になった。
それにストラスとコートも深い息を吐く。
「……あ、貴女は何者なのですか?」
今までの余裕が嘘のような表情で、キャメロンが私を見て正体を問うた。とはいえ、私は既に自身のことを名乗っている。
だから、改めて名乗ることしかできなかった。
「最初に紹介された通り、フィディック学院の上級教員です。後は、そうですね。名乗るとしたらオーウェン・ミラーズの弟子、とだけ言っておきましょう」
そう答えると、キャメロンはグッと奥歯を噛むような仕草をした。
そして、こちらから顔を背けて診察台の上で横になる青年を見下ろす。
「……この学院の見学ならば、この特別室で十分だろうと判断しておりましたが、甘い判断でしたね。まさか、我が学院でも上級教員が務まるほどの癒しの魔術の使い手だったとは……」
そんなことを言うキャメロンに、私は首を左右に振って口を開いた。
「私は癒しの魔術を主としているわけではありません。何が得意かと言われても困りますが、主な研究は魔法陣ですので魔術具作りが最も得意かもしれません」
控え目にキャメロンの誤った認識を正しておく。すると、キャメロンだけでなく、学生やアラバータの動きも停止してしまった。
「……アラバータさんは私が氷の魔術を使ったりするところは見てませんでしたか?」
疑問に思って尋ねると、アラバータは顔を顰めて額に片手を添えた。
「見ていた、が……まさか一番得意なことが魔術具作りとは……飛翔魔術も使っていた筈だが……」
苦悩するように頭を抱えてしまったアラバータを尻目に、私はキャメロンに対して口を開く。
「次は、是非とも魔術の講義の様子を見させてもらいたいと思います」
そう言うと、キャメロンは眉をひそめ返事もせずに顎を引いたのだった。




