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異世界転移して教師になったが、魔女と恐れられている件 〜王族も貴族も関係ないから真面目に授業を聞け〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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メイプルリーフの癒しの魔術

 キャメロンは私の言葉に一瞬動きを止めたが、すぐに首肯した。


「それでは、実際に見てもらいましょう。どこか丁度良い治療をしている者がいないか、聞いて参ります」


 キャメロンがそう言ってカーテンの並ぶ方へ歩いていくと、眉根を寄せた顔でアラバータがこちらへ来た。


「……アオイ殿。特別室の治療は凄惨を極めることがある。あまり、見学はおすすめしないが……」


 心配そうにそう言われたが、問題ないと答える。


「私は魔獣を狩っていたこともあります。血や肉、骨の断面なども問題ないでしょう。とはいえ、学生たちには少し刺激が強過ぎるかもしれません。見学は教員だけで行いましょうか」


「わ、私も刺激が強いのはちょっと……」


 私の言葉に、エライザが顔面蒼白で呟いた。どうやら血が苦手なようだ。


「……では、私が代わりに」


 と、コートが珍しく険しい表情で自ら見学に向かうと口にする。


「いえ、そういう現場が苦手なら行かなくても……」


 コートは癒しの魔術が不得手である。教員でも無いのに無理に行く必要はないだろう。そう思って見学を遠慮するように告げたのだが、コートは一度深呼吸をして、覚悟の籠った目で首を左右に振った。


「いえ、コート・ハイランドは癒しの魔術の研究が進んでいませんから。もし何かヒントでも得ることが出来るなら、私が少しでも見ておかないと……」


 どうやらコートは自国の利益の為に覚悟を固めているらしい。素晴らしい愛国精神である。ならば、同じく各国の貴族である皆もそうなのか。


 そう思いながら振り返ったが、エライザもアイル達も一切目を合わせようとしない。


「わ、私は……」


 顔色の悪いシェンリーが不安そうに悩んでいるので、無言で片手の手のひらを向けておく。すると、シェンリーはホッとしたように口を噤んだ。


 そこへ、タイミングを見計らったかのようにキャメロンが戻ってくる。


「それでは皆さん、一番右奥へ向かいましょうか」


「分かりました。見学には私とストラス、コートの三人で向かいます」


 そう答えると、キャメロンは目を細めて私たちの後ろに並ぶ面々を一瞥した。そして、また穏やかにほほ笑む。


「確かに、苦手な方は見ない方が良いかもしれません。まぁ、魔術師としては是非とも見ておいた方が良いかと思いますがね」


 キャメロンはそう言うと、さっさと右側へと歩いていく。私も後に続くと、他の二人も一緒に歩きだした。アラバータも無言で付いてくるところを見ると、どうやら案内人として同行するつもりのようだ。


 カーテンの前に立つと、短く断続的な呼吸音と衣擦れの音、そして小さな嗚咽が聞こえてきた。その音にストラスですら顔が強張る。


 怖気づくストラスとコートを横目に、キャメロンは無造作にカーテンを開いた。


「……っ」


 コートが小さく息を吞む音が背後で聞こえる。


 カーテンの奥には診察台らしき白いベッドが置いてあり、その上には腕を失った青年の姿があった。引き千切られたような断面を見る限り、魔獣に喰われてしまったのだろう。他にも大小さまざまな傷が身体中に見られ、衣服もボロボロとなっていた。


 青年は血を流し過ぎたのか、血の気の引いた顔で短い呼吸を繰り返している。ベッドの周りには二人の男女がおり、男は懸命に両手を青年の胸に当てて魔術を行使し、女は涙を拭いながら布を青年の腕に巻き付けて血が流れ過ぎないように応急処置をしていた。


「……これは、助かるのか?」


 ストラスが思わずといった様子で呟く。確かに、傷だけならば問題なさそうだが、顔色から考えてどれだけ血が流れてしまったかが気になる。


 輸血は無理でも、点滴なら出来そうなのだが。


 そう思って顔を上げると、キャメロンの真剣な表情が目に入る。その視線は治療中の学生に注がれており、顎に手を当てながら低く唸っている。


「……ギリギリですね。この見極めが難しいのです。ただ、こういった困難な治療を続けることで、魔術の技量は確実に向上します。この青年も私が治療すれば何とかなるでしょう。しかし、それでは学生たちの為になりません。ここは、心を鬼にして見守るのが一番でしょう」


 キャメロンは真面目な顔でそう言い、学生たちに声をかけた。


「止血は的確に、関節の内側を意識して。止血が上手くいけば治療の時間は伸びます。癒しの魔術を使う際には想像力が最も大切です。人体の構造を想像して、どこから治療すべきかを明確にしなくてはなりません。今この瞬間ならば傷ついた血管と腹部の臓器ですね」


 助言を口にするキャメロンに、二人は必死な表情で返事をする。


 その緊迫感にストラスもコートも何も言えないでいた。キャメロンはそれを確認するように見ながら、私に対して口を開く。


「フィディック学院ではどのような教え方をしているのか知りませんが、我が学園では実践を最も大切にしております。だからこそ、各国からメイプルリーフの魔術師は水準が高いと言われるのでしょうね」


 自画自賛するようにそう言ったキャメロンに頷き返しながら、私はベッドの上で死にかかっている青年を見下ろした。


「確かに、実際に体験することが一番の勉強でしょう。しかし、その為に治療を受けに来た人が亡くなってしまっては可哀想ですし、学生の心にも傷が出来てしまうかもしれません。助けられる限界まで学生にやらせ、最後は教員が治療するというやり方でも結果は同じではないでしょうか」


 そう告げると、キャメロンは眉根を寄せて顎を引く。


「……死にゆく姿を見ること、助けられないという経験をすることも大事かと思いますがね。しかし、アオイ殿の言葉にも一理あるかもしれません」


 どちらともとれない言葉を言うキャメロン。それに目を細めながら、私は片手で治療を受ける青年を指し示した。


「では、キャメロンさん。どうぞ、治療を」


 私がそう言うと、キャメロンは残念そうに首を左右に振る。


「……残念ながら、もう回復が見込める段階を通り過ぎてしまいました。この状況ではどんな大魔術師であっても救うことはできないでしょう。しかし、学生たちにはとても重要な学びとなりました。この経験は彼らを強く、大きくしてくれるでしょう」


 キャメロンはやる前から無理だと言い、また学生たちの教育について話を戻してしまった。その言葉に治療を続けていた学生たちの表情が曇り、手も止まってしまう。


 私は沈痛な面持ちの学生たちを見ながら、口を開いた。


「では、私が治療を引き継いでもよろしいでしょうか」


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