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異世界転移して教師になったが、魔女と恐れられている件 〜王族も貴族も関係ないから真面目に授業を聞け〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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魔術学院

 アラバータに一言伝えてから行くべきか。


 そう思い、王城の中を電信柱のように一定間隔で立っている兵士に声を掛けた。すると、呼んでくるので来客用応接室で待っていてほしいと言われる。応接室は一階にあるようだ。


 少しずつ王城の中の地図が把握出来てきた気がする。そんなことを思いながら、食堂で待つ皆のもとへ行き、声をかけた。


「アラバータさんに言伝を頼んできました。一階の応接室で待ってほしいとのことなので、必要な荷物を持って待ちましょう」


 そう告げると、それぞれバラバラに返事をしながら一晩寝泊まりした寝室へと向かう。寝室でアイルは服装のチェックを行い、そっと上着を着替えていた。私やエライザも外出の準備をする。


 ものの十五分程度で皆の準備が調ったようだが、外では待ちくたびれた様子のストラスが立っていた。どうやら男性陣はあっという間に準備が終わったらしい。


「何にそんなに時間がかかるんだ?」


「私は五分程度ですが、一般的にはお化粧や身支度、手洗いなどで十分から三十分はかかるのでは?」


「三十分だと……」


 僭越ながら女性代表として一般的な意見を伝えてみる。するとストラスは「三十分……そんなに着飾ってどうする……?」などという言葉を呟いて頭を捻っていた。


 世の女性達が聞いたらストラスは火炙りになるかもしれない。


 自らが恐ろしい発言をしていることに気がつきもせず、ストラスは皆を先導して応接室へと向かった。


 応接室に辿り着くと、扉前に姿勢正しく立って待つアラバータの姿があった。今日は鎧姿ではなく布を巻きつけたような服装だった。どこかの民族衣装のようである。


「む、来られたか。今日は私が案内しよう」


 そう言って、アラバータは自らの胸を拳で叩いた。


「魔術学院を見学しようと思っていたのですが、魔術師の方の方が良いのではないですか?」


 一応、確認に聞いてみる。しかし、予想通りやる気に満ちた表情のアラバータが首を左右に振って否定した。


「何を言います。私とて魔術学院に通っていましたとも。最下級クラスでしたがな。わっはっはっは!」


 と、アラバータは一人で笑いながら歩き出す。その姿を見て我々は一瞬顔を見合わせたものの、急いで後に続くことにしたのだった。






 メイプルリーフは神聖魔術とも呼ばれる魔術、癒しの魔術に特化した国だといわれている。聖皇国の前身がメイプルリーフ聖教という宗教団体であることを考えた場合、なんとなく納得がいく気がした。


 しかし、癒しの魔術に偏ってしまった場合、他の才能を持つ魔術師が充分な環境でそれぞれの魔術を研究することができないだろう。一つに特化するといえば聞こえは良いが、複数の魔術を融合させたりといった発想を最初から根絶してしまっている。


 そんな懸念を持ちつつ、聖都の中を歩いていき、やがて大きな建物の前に辿り着いた。


 他の建物同様に白い外壁と屋根をしているが、丸い大きな柱が何本も並んでいるのが目を引く。まるでギリシャ建築の神殿のような外観の巨大な建物だ。


 見た目はとても教育施設とは思えないが、建物を出入りしている人々は少年少女が多く、アラバータの衣装に似たモノを着ている為、どことなく学生らしき雰囲気はある。


 皆が同じ服装をするのはフィディック学院も同じだが、この世界では皆決まった制服があるということだろうか。


 アラバータから「暫しお待ちくだされ」と言われた為、学院の建物を外から眺めていると、アラバータが誰かを引き連れて来た。白を基調とした衣装の上に紺色の小さなマントを羽織った中年の男性だ。男性はこちらを見て穏やかな笑みを浮かべ、軽く首を傾げた。


 アラバータは男性を連れて我々の前に立つと、軽く咳払いをして隣に立つ男性に手のひらを向ける。


「彼はこの聖都魔術学院の上級教員である、キャメロン殿だ。メイプルリーフでは魔術学院の上級教員は宮廷魔術師と同等の最上級魔術師とされており、キャメロン殿も国内最高レベルの魔術師と認定している」


「キャメロン・リッジと申します。よろしくお願いいたします」


 アラバータに紹介されて、キャメロンは深々と一礼した。そして、アラバータは我々を横目に見ながら、キャメロンへ向き直る。


「先ほど少し話したが、こちらがフィディック学院の上級教員であるアオイ殿。そして一般教員のストラス殿とエライザ殿である。また、コート殿を含め他国の貴族である生徒達。後は我が国出身でフィディック学院に在籍しているシェンリーがいる」


「おや」


 アラバータの紹介に頭を下げていると、キャメロンがシェンリーを見て目を瞬かせた。見つめられて何を感じたのか、シェンリーがビクリと肩を震わせて俯く。


「シェンリーではありませんか。そうか、フィディック学院に入学することが出来たのでしたね。いや、良かったですねぇ。確か、シェンリーは癒しの魔術を使うことが出来ませんでしたから。フィディック学院なら、それなり以上の魔術師として扱ってもらえることでしょう。適材適所ということでしょうか」


 朗らかながら、微かにシェンリーのことを下に見ている発言をするキャメロン。それにシェンリーは畏縮したように身を小さくしてしまった。


 何かおかしい会話だと思いつつ、私は教員を代表してシェンリーのフォローを行う。


「シェンリーさんは真面目で、とても才能豊かな生徒です。将来は立派な魔術師として活躍してくれることでしょう」


 はっきりとそう告げると、キャメロンは一瞬動きを止めた。そして、また穏やかな表情で微笑む。


「そうですか。それは良かった。なにせ、我が学院では癒しの魔術以外の才能を伸ばし辛いところがありますからね。その点、フィディック学院ならば様々な魔術を同時に学ぶことが出来るのでしょう? いや、素晴らしいことです。よほど教育カリキュラムが優れているのでしょう。我が学院でそんなことをしてしまったら、中途半端な魔術師ばかりとなってしまいますよ」


 そう言って、キャメロンは軽やかな笑い声を上げた。

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